【関連写真】『潜入捜査官 松下洸平』最終話場面カット
顔立ちが与える印象からか、これまではスマートな役が多かった松下。だが、『いちばんすきな花』での春木は「いい人にはなれるが、最後には選ばれない」という世間的に損な役割を一手に引き受ける。松下自身キリッとした顔つきではあるものの、ゆったりとした雰囲気と優しい声によって、現代で生きづらそうにする春木を見事に演じている。
演技力の高さから様々なキャラクターを演じ分けられるのは、言わずもがな松下の魅力だが、本作に関してはこれまであまり見られなかったような新たな“武器”も感じ取れる。
これまでの松下と言えば、『最愛』での吉高由里子とのシーンや、『アトムの童』での山崎賢人との掛け合いなど、1対1での場面で、相手のセリフを受けての言葉や表情、つまり“受けの芝居”で存在感を発揮してきた。
しかし、本作では一人芝居、もしくは1対複数のシーンでも興味深い演技を見せてくれている。たとえば、1話のハイライトであった、彼女であった小岩井純恋(臼田あさ美)からの電話のシーンがあげられるだろう。
家に一人でいる春木は、食べ始めたアイスを置きっぱなしにして迎えに行こうとする優しさを見せた矢先に別れを告げられる。彼女の「男友達が友達ではなくなっちゃった」という言葉の真意を理解しつつ、「友達ならまたすぐに戻れる」ととぼけて返す。それでも、最終的に純恋の結婚できないという意思を理解して受け入れた春木。
松下は、「俺のこと好きだった?」と問いかける春木の弱さを表現しつつ、「いい人だなと思ってた」と明らかに求めていなかった答えに対する表情も絶妙で、視聴者に対して、春木はずっとこんな不憫だったのではないかと強く思わせる。
かと思えば、コメディ的な側面でも松下演じる春木は活躍している。
4人の主役が一同に会するシーンでは、構図としては春木対3人という形となり、喜劇のような会話劇が繰り広げられる。一人で住む住宅の前で、早口で、お笑いのツッコミのようなテンポで訂正を続ける姿は、コメディでも輝けるという松下の新境地を見た気がした。
2話でも、一度春木家に集えば、一気にドラマは喜劇へと変わり、くすりと笑える会話劇の中で松下は確かな存在感を放つ。
もっとも、松下の「受けの芝居」で輝くという持ち味も失われてはいない。春木が深雪夜々(今田美桜)の勤める美容室に来店したシーンは1対1でのみ話が進み、まだ春木のキャラクターがそれほど明かされていない中で、言葉の端々からその輪郭をくっきりと浮かび上がらせた。
そんな松下演じる春木はどこか切なく、弱々しく、報われない人間にも思えてしまう。だが、だからこそ2話で発された「言っちゃダメなことはたくさんあるけど、思っちゃダメなことはないです」という言葉はギャップの大きさから重みを感じる。新たな魅力を見せる松下と、春木椿から今クールは目が離せない。
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