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今回加瀬が演じるのは、ストーリーの中心人物である織田信長役。史実でも「尾張の大うつけ」と呼ばれた変人だが、今作では“イっちゃってる天下人”と紹介されるほどの狂気に満ちた人物像になるようだ。現在公開されている予告映像を見る限りでも、遠藤憲一が演じる荒木村重に刀でお饅頭を食べさせるなど、傍若無人の限りを尽くしていることがうかがえる。
加瀬のこれまでの出演作を振り返ってみると、なにかと“ヤバい奴”と言えるような役柄のキャラクターに起用されることが多い。例えば2005年の映画『スクラップ・ヘブン』では、一見気弱そうな性格でありながら、オダギリジョー演じる葛井テツと共に復讐代行業にのめり込む、若い警察官を演じていた。
また日仏カナダ合作映画『THE PASSENGER(パッセンジャー)』では、静かな狂気に満ちた若いヤクザを熱演。2012年公開の『ライク・サムワン・イン・ラブ』では高梨臨演じる明子に過度な執着を見せる、激情家の婚約者を演じている。いくら自分の彼女を80歳以上のおじいちゃんに寝取られてしまったとはいえ、終盤の激高シーンは背筋が寒くなるほどの恐ろしさを感じさせられた。
まるで俳優界の“ヤバいキャラ請負人”になりつつある加瀬。そんな彼が今回の『首』でイっちゃってる天下人に選ばれたのは、納得と言えば納得かもしれない。
しかし思い返してみると、これまで加瀬が演じてきた登場人物は、表面上はまともな人間に見えることが多かった。
ドラマ『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~』(TBS系)で長い間演じてきた瀬文焚流も、真面目な捜査官と言えばそうかもしれないが、終始無表情で独特な“圧”のある役柄だった。コメディシーンのツッコミで割と痛そうな暴力を振るうのも、今考えればかなり攻めたキャラクターだろう。
そんな彼が一目で分かる見た目も中身も“ヤバい奴”を演じたのが、北野監督の代表作の1つとして知られる『アウトレイジ』シリーズ。彼は同作で石原秀人という「山王会」の若頭を演じており、見るからに冷酷なインテリヤクザといった役柄だった。
特に『アウトレイジ ビヨンド』では声を荒げるシーンが多く、完全に悪役といった雰囲気。これまでの「穏やかそうに見えて」や「優しそうに見えて」といった内に秘めた狂気ではなく、全身からただならぬ狂気が立ち上っていた。
そして加瀬は『アウトレイジ ビヨンド』で、第67回「毎日映画コンクール」の男優助演賞を受賞。北野監督と共に切り拓いた新境地が、見事にハマり役となった形だ。
ただ同シリーズで演じた石原は、自分が暴力の標的になると、途端に肝の小さな部分が露わになるキャラクターでもあり、徐々に小者っぽいイメージに変わっていく。加瀬が“ヤバい奴”のまま最後まで突っ走る役どころを見たい、というファンもいるのではないだろうか。
その点、『首』はなによりあの信長なので、最後まで“イっちゃってる”演技を見せてくれそうだ。
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