現在放送中のNHK連続テレビ小説『ブギウギ』で、役者としての草なぎ剛が再注目されている。実在の作曲家・服部良一氏をモデルにした羽鳥善一という人物の役を演じているのだが、捉えどころのないキャラクター性を見事に表現しており、視聴者から絶賛されているようだ。


【関連写真】スズ子に500回以上出だしを歌わせる羽鳥善一(草なぎ剛)

劇中の羽鳥は、つねにニコニコしているものの音楽家としてはシビアな目線を持っており、主人公の福来スズ子(趣里)に対して、厳しい要求を次々と投げかけていく。

例えば「ラッパと娘」という楽曲のレッスンを行っている場面でも、歌い出したスズ子に羽鳥は「ジャズは楽しくなくちゃ」「楽しくなるまで何回も行こうか」と、いつもの満面の笑みで指摘。その後スズ子が「あの、喉潰れてまいますけど……」と根を上げても「いいんじゃない? 潰れても」と笑顔で返すだけで、結局歌の出だしだけで500回も繰り返し歌わせていた。

いわゆる“厳しい師匠”のような立ち位置の役なのだが、主人公に何かしらの困難を与えるキャラクターは、物語序盤だと嫌われがち。ところが羽鳥は厳しいものの嫌味な圧などは感じられず、どこかコミカルな魅力がある。それは草なぎの演技によって、厳しさの中にまるで少年のような「音楽を楽しもう」というピュアな心が垣間見えるからなのかもしれない。

そのため主人公が慣れない“ジャズ”を歌うために試行錯誤するシーンも、雰囲気が重くなり過ぎず、純粋におもしろく見ることができる。物語を盛り上げるために、草なぎの演技が一役買っていたことは確かではないだろうか。その独特な演技に対して、視聴者からは「唯一無二な感じがすごい」といった声も上がっているようだ。

草なぎはそれこそSMAPとして活動していた頃から役者として高く評価されていたアイドルだった。だがここ最近は、さらに演技力の高さに拍車がかかっているように思える。

例えば2020年に公開された映画『ミッドナイトスワン』では、トランスジェンダー女性として生きる主人公・凪沙という難しい役どころを、歩き方1つにまでこだわったリアリティのある演技で熱演していた。
草なぎはこの作品で、第44回「日本アカデミー賞」の最優秀主演男優賞を受賞している。

そして2020~2021年度のNHK大河ドラマ『青天を衝け』には、徳川慶喜役として出演。武士の世が終わろうとしている江戸時代末期の最後の征夷大将軍を、どこか悲哀のある落ち着いた演技で表現していた。一方、今年1月期のTVドラマ『罠の戦争』(フジテレビ系)では、主人公の鷲津亨役を担当。連ドラ主演は6年ぶりということだったが、静かな人柄ながらも心の内に熱い復讐心を隠している議員秘書を演じてみせた。

いずれの役柄にも共通して言えることは、“静の演技”が素晴らしいという点だろう。感情を前面に出したオーバーリアクションな演技ではなく、細かい表情や仕草からさまざまな感情を読み取らせる……。そんな独特の個性を磨き上げることで、強い存在感を発揮している。

『罠の戦争』で俳優・田口浩正が演じた同僚の秘書・虻川と対峙するシーンでも、鷲津としては感情を露わにする場面だったが、完全にボルテージを上げるのではなく、普段怒り慣れていない人がそれでも感情を相手に伝えようとするような抑えた演技だった。そんな派手ではないが“丁寧”な演技が、唯一無二と言われる所以なのかもしれない。

記号的な表現に頼ることなく、キャラクターの心情を1つ1つ丁寧に組み立てていく役者・草なぎ。『ブギウギ』もその演技力で今後さらに盛り上げてくれるはずだ。


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