【関連画像】「企画書は1枚目が大事」村瀬Pが『silent』企画書1枚目に使った雪原の写真から生まれた台本表紙ビジュアル
最初に入社したのは、日本テレビ。ドラマ『14才の母』などのヒット作を手掛けてきた。フジテレビへ転職後も『BOSS』、『信長協奏曲』、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』などの話題作をプロデュースしてきたが、やはり最大のインパクトをもたらしたのは昨年放送された木曜劇場『silent』だろう。同作品は社会現象を巻き起こし、村瀬氏も「この歳でもう一度代表作ができました」と語る。
『silent』といえば、青羽紬(川口春奈)と「若年発症型両側性感音難聴」を患った、かつての同級生・佐倉想(目黒蓮)によるラブストーリー。丁寧なキャラクターの描き方、緻密な構成が魅力だったが、ドラマ制作の始まりは想定外の出来事からだった。
「上司から、『次の年の10月クールの木曜10時が急に空いてしまったから、なんかやってくれないか』と言われたんですよ。ちょうどその頃、フジテレビヤングシナリオ大賞を獲ったばかりでまだ脚本家デビュー前だった生方美久さんと『いつか2人でなにかやりましょう』という話をしていて。そのときは全然違う作品の話をしていたのですが、10月の木曜10時という枠を考えたときに、ラブストーリーがいいなと思いました。
突然のチャンスが巡ってきた形だったが、村瀬の中に“発想の種”はすでにあったという。
「日頃から、多様性という言葉に疑問を感じていて…。『多様性、多様性』ってみんな口ではそう言うけど、本当のところはどう思ってるんだろう?と思っていたので、そういう違和感とラブストーリーを自分の中でひとつにした形です。そこから考えていき、最終的に音のない世界に生きる人のラブストーリーにしようと思い、生方さんと話しながら形にしていきました」
『silent』の大ヒットを受け、「ラブストーリーはある程度やりきった」と語る。そこで、恋愛ものと同じくらい大好きだという友情ものを手掛けたいと考えて生まれたのが、2023年秋ドラマの『いちばんすきな花』だった。
「恋愛と友情は紙一重だということを描きたいなと、ずっと思っていたんです。僕も多様性に対する感覚がまだ『silent』から続いていましたし、永遠のテーマである『男女の友情は成立するか』を渾然一体として、生方さんに持ちかけました」
結果的に『silent』も『いちばんすきな花』も大ヒットとなるが、発想と構想を一歩進めるのが企画書の作成。企画書を社内で通すことができなければ、素晴らしいアイディアであっても絵に描いた餅だ。必死に取り組んだという企画書の中で村瀬氏が意識していたことは、紙面で見せた時点でいかに「面白い」と感じさせるかだ。
「僕が作った企画書が面白そうに見えたんだと思うんです。まず表紙があって、2枚目をめくるときにワクワクする企画書と、そうでないものとでは、もうそこで勝負が決まっていると思う。だから、僕にとっては企画書の1枚目が命。
発想、企画の立案、企画書の作成、キャスティング、そして撮影などプロデューサーの業務は多岐に渡るが、村瀬氏はこの仕事を「責任者」だと表現する。だからこそ、自身が面白いと感じたアイディアは人のものでもどんどんと乗っかり、一方で時には上層部からの声にも惑わされない勇気を持っている。
「僕はサラリーマンとして何十年やってきて、クリエイターでもあるけど、あくまで会社員です。会社という組織で生きてきて、はっきりわかったのは、失敗したときに誰もかばってくれないということ。僕がなにか大きな失敗をしたとき、上司は誰一人『これは俺の責任だ』とは言ってくれないということを学んだんです。それなら、自分が納得できない上司の意見を聞くのって損なだけですよね。僕、人のせいにするということがこの世で一番嫌いで。失敗したときに、あの人に言われたからやったという言い訳が自分の中に残るのが嫌なんですよ。自分の責任だって言いたいんです」
失敗は自分の責任、しかし成功は全員で。
「この前嬉しいことがあったんですよ。撮影が押して遅くなったときに、美術パートのアシスタントの子に『ごめんね、こんな寒いのに遅くなってしまって』と声をかけたんです。そしたら、『私、このドラマに関われて本当に良かったです。今まで携わったドラマで一番好きで、自分の参加しているドラマなのに、毎週オンエアを見て泣くし、脚本が上がってきて読んだら泣くし共感するし、こんなにやってよかったと思うドラマありません。村瀬さん、ありがとうございました』って言ってくれたんですよ。なんかもう、泣きそうになりました。
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