2022年に『silent』(フジテレビ系)を世に送り出し、社会現象を生み出したドラマプロデューサーの村瀬健。そして2023年、再び脚本家の生方美久とタッグを組んで制作したドラマ『いちばんすきな花』で大きな注目を集めている。
そんな村瀬氏が12月4日に書籍『巻き込む力がヒットを作る "想い"で動かす仕事術』(KADOKAWA)を発売。著書では、『silent』の企画書から、自身の仕事術などについて赤裸々に語っている。今回のインタビュー前編では、企画書の通し方や仕事への向き合い方などについて話を聞いた(前後編の前編)。

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最初に入社したのは、日本テレビ。ドラマ『14才の母』などのヒット作を手掛けてきた。フジテレビへ転職後も『BOSS』、『信長協奏曲』、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』などの話題作をプロデュースしてきたが、やはり最大のインパクトをもたらしたのは昨年放送された木曜劇場『silent』だろう。同作品は社会現象を巻き起こし、村瀬氏も「この歳でもう一度代表作ができました」と語る。

『silent』といえば、青羽紬(川口春奈)と「若年発症型両側性感音難聴」を患った、かつての同級生・佐倉想(目黒蓮)によるラブストーリー。丁寧なキャラクターの描き方、緻密な構成が魅力だったが、ドラマ制作の始まりは想定外の出来事からだった。

「上司から、『次の年の10月クールの木曜10時が急に空いてしまったから、なんかやってくれないか』と言われたんですよ。ちょうどその頃、フジテレビヤングシナリオ大賞を獲ったばかりでまだ脚本家デビュー前だった生方美久さんと『いつか2人でなにかやりましょう』という話をしていて。そのときは全然違う作品の話をしていたのですが、10月の木曜10時という枠を考えたときに、ラブストーリーがいいなと思いました。
木曜だから大人がはまれるもの、秋だししっとりとした切ない物語がいいなという感覚が自分の中にはありました」

突然のチャンスが巡ってきた形だったが、村瀬の中に“発想の種”はすでにあったという。

「日頃から、多様性という言葉に疑問を感じていて…。『多様性、多様性』ってみんな口ではそう言うけど、本当のところはどう思ってるんだろう?と思っていたので、そういう違和感とラブストーリーを自分の中でひとつにした形です。そこから考えていき、最終的に音のない世界に生きる人のラブストーリーにしようと思い、生方さんと話しながら形にしていきました」

『silent』の大ヒットを受け、「ラブストーリーはある程度やりきった」と語る。そこで、恋愛ものと同じくらい大好きだという友情ものを手掛けたいと考えて生まれたのが、2023年秋ドラマの『いちばんすきな花』だった。

「恋愛と友情は紙一重だということを描きたいなと、ずっと思っていたんです。僕も多様性に対する感覚がまだ『silent』から続いていましたし、永遠のテーマである『男女の友情は成立するか』を渾然一体として、生方さんに持ちかけました」

結果的に『silent』も『いちばんすきな花』も大ヒットとなるが、発想と構想を一歩進めるのが企画書の作成。企画書を社内で通すことができなければ、素晴らしいアイディアであっても絵に描いた餅だ。必死に取り組んだという企画書の中で村瀬氏が意識していたことは、紙面で見せた時点でいかに「面白い」と感じさせるかだ。

「僕が作った企画書が面白そうに見えたんだと思うんです。まず表紙があって、2枚目をめくるときにワクワクする企画書と、そうでないものとでは、もうそこで勝負が決まっていると思う。だから、僕にとっては企画書の1枚目が命。
『silent』の企画書では、本編には出てこない写真(※雪原に木がぽつんと立っている写真が著書の中で紹介されている)を使用して、ドラマのイメージを想像させています。そして、ページをめくったらまず登場人物の紹介が載っているというのが僕のフォーマットなんです。普通の企画書は最初にテーマが来ますが、僕の場合はまず登場人物をぽーんと見せる。これが決まりです」

発想、企画の立案、企画書の作成、キャスティング、そして撮影などプロデューサーの業務は多岐に渡るが、村瀬氏はこの仕事を「責任者」だと表現する。だからこそ、自身が面白いと感じたアイディアは人のものでもどんどんと乗っかり、一方で時には上層部からの声にも惑わされない勇気を持っている。

「僕はサラリーマンとして何十年やってきて、クリエイターでもあるけど、あくまで会社員です。会社という組織で生きてきて、はっきりわかったのは、失敗したときに誰もかばってくれないということ。僕がなにか大きな失敗をしたとき、上司は誰一人『これは俺の責任だ』とは言ってくれないということを学んだんです。それなら、自分が納得できない上司の意見を聞くのって損なだけですよね。僕、人のせいにするということがこの世で一番嫌いで。失敗したときに、あの人に言われたからやったという言い訳が自分の中に残るのが嫌なんですよ。自分の責任だって言いたいんです」

失敗は自分の責任、しかし成功は全員で。
「『silent』は自分が作ったって、関わった人は全員言っていいと思っています。むしろ関わった人全員に言ってほしい。実際、『あれは俺が企画を通した』って言っている人が社内で20人くらいいるんじゃないかな。こんな幸せなことってないですよね」と笑う。関わってくれた人全員にとって“の代表作”を作りたい。そう考える村瀬氏は、ドラマ『いちばんすきな花』の撮影中での逸話を明かしてくれた。

「この前嬉しいことがあったんですよ。撮影が押して遅くなったときに、美術パートのアシスタントの子に『ごめんね、こんな寒いのに遅くなってしまって』と声をかけたんです。そしたら、『私、このドラマに関われて本当に良かったです。今まで携わったドラマで一番好きで、自分の参加しているドラマなのに、毎週オンエアを見て泣くし、脚本が上がってきて読んだら泣くし共感するし、こんなにやってよかったと思うドラマありません。村瀬さん、ありがとうございました』って言ってくれたんですよ。なんかもう、泣きそうになりました。
こういうことをスタッフ、特にアシスタントの子に言ってもらえるのが一番嬉しいですね」(後編へつづく)

【後編はこちら】『silent』『いちばんすきな花』村瀬健Pが語るテレビの可能性「地上波ドラマはまだまだ面白いことができる」
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