【前編はこちら】『silent』『いちばんすきな花』村瀬健Pが明かす革新的ドラマの作り方「企画書は1枚目が命、ワクワクするかが勝負」
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日本テレビ在籍時代には『14才の母』という世間に大きなインパクトを与えたドラマ作品を生み出し、フジテレビ移籍後、昨年には『silent』というドラマで社会現象を巻き起こした村瀬氏。だが、自身についての評価は「凡人」であると明かす。しかし、そんな中でも今回著書を執筆していくうちに、これまでの成功の理由も見えてきたという。
「本を書いたことで自己分析ができたんですよね。就職活動みたいなもので、人と話したり、自分について文章を書いたりしたことで自分自身が見えてきて。ずっと自分のことをただの凡人だと思っていたけど、そうじゃない部分もあるかもと思いました。そのひとつが、『常に楽しめていること』。得意とか苦手とかじゃなく、ただひたすら楽しいんですよ。
普段からどうすれば面白いドラマを作れるかな、そのヒントがどこかにないかな、なんて、そんなことばっかり考えていますが、『仕事だから』と義務的に考えてる感覚が一切なくて。
だが、制作は個人ではなく、チームでやるもの。どの世界であっても、チームが機能して初めて大きな力を生み出すことができる。「周りの人の力をいかに引っ張り出すかで作ってきた」と自負する村瀬氏のチーム作りはいたってシンプルだ。
「僕は優しい人が好き。怒ったり、怒鳴ったり、誰かを傷つける人が本当に苦手なんです。僕の周りにずっと残ってくれている人はみんな優しい。能力も大事ですけど、やっぱり人ですね。性質として人を傷つけない、優しいチームがいつの間にか僕の周りにできあがっていました」
木曜劇場『いちばんすきな花』では、そんなチームとたくさんの喜びを分かち合った。第7話では、主人公4人の共通の友人・志木美鳥役が田中麗奈であることが明かされた。当初からこのキャラクター、そして配役にこだわりを持っていた村瀬氏は放送中もチームとともにSNSを注視。
ちょうどスタジオで撮影していたときだったので、みんなとリアルタイムで盛り上がりましたね。田中麗奈さんも『(ネット上の盛り上がりに)本当?』と言いつつ、ホッとされていました。プレッシャーのかかる登場の仕方でしたからね」と明かす。
だからといって、村瀬氏は必要以上に人とつるむタイプではないという。社内でも一年以上前に入社した後輩に「はじめまして」と挨拶されることがあるほど。「後輩が僕にアドバイスをもらいに来るような関係を作れていなくて。話しかけてくれたら僕ほど気さくな先輩はいないはずなんですけど。まあ、ほとんど会社にいないからなぁ(笑)」と漏らすが、それこそが今回の著書を執筆した理由のひとつでもある。
「最初にKADOKAWAさんからお話が来たとき、僕のような裏方が何かを語るのは違うんじゃないかと思っていました。ただ、オファー内容がビジネス本だったんですよね。この業界でたくさんの人と出会い、自分なりに真剣な気持ちでやってきたから今日があると思ったとき、自分がやってきたことで後輩たちに伝えられるものがあるかもしれないと思いました。
ドラマの仕事って本当に大変なんですよね。だから、苦しんでいたり、悩んでいたりする仲間たちにとって少しでも役に立つことが伝えられたなら、僕の生きてきた50年にも意味があるのかなと思って。それで書いてみようと思いました」
自身の考え方から仕事術までを記した書籍『巻き込む力がヒットを作る "想い"で動かす仕事術』。村瀬氏がここまで赤裸々に明かせたのはテレビ業界全体を盛り上げようという想いもあった。
「今、Netflixとかアマゾン・プライムビデオとか黒船が来ていて、テレビ業界の人材がどんどん向こうへ行っているじゃないですか。たくさんの後輩や仲間が行ってしまう中、僕はテレビってまだまだ面白いことができるし、地上波ドラマもまだまだできると思っている。
テレビ業界の中にいる1人として本を書かせていただけるという機会をいただけたので、若いテレビマンにはこの本を読んでもらって、どんどん面白いものを作ってもらって、僕を引退に追い込んでくれという気持ちもありますね(笑)」
もちろん、書籍はテレビ業界に限らず、社会人の多くの人々にとって参考になる内容が含まれている。
「プロデューサーに限らず、仕事って何だって大変じゃないですか。仕事に限らず、学校だって、バイトだって、どんな場所でも苦しい思いをしながら頑張ってる人しかいないと思うんです。そういうすべての人たちにとって、勇気の出る本になればという想いで書きました。
クリエイティブのアイデアについてもたくさんヒントを散りばめたつもりですが、むしろ、クリエイティブが苦手な人や企画が通らなくて悩んでる人、それに若い人の気持ちがわからない上司にも読んでほしい。僕が書いたものから何かしらのヒントを得てもらえたら嬉しいけど、それよりも、こんな僕でもこれだけのことができたという事実から勇気をもらえるはずだと思ってます。
『この本に書かれていることを少しでもやってみよう』と思ってくれたら、本当に嬉しいですね」
さらに、村瀬氏はドラマファンに向けても刺さることを願った。
「僕のドラマを楽しんでくれた方、そこに出演している俳優さんのファンの方がこの本を読んで、『こういう想いでドラマを作っているんだな』って感じてもらうことで、ドラマや映画を見るときの感覚が変わってくれたらいいですね。きっと、また違う楽しみ方ができるんじゃないかと思っています。テレビ業界にとっても、エンタメのファンが増えてくれるのは最高にうれしいことですから」