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齊藤の卒業はファンにとって、青天の霹靂というほかなかった。21年春に始まったヒコロヒーとの番組『キョコロヒー』は年度が明ければ4年目、2024年の元日には2人のデュエット曲『After you!』のデジタル配信が始まったばかりで、今年も多方面で活躍してくれるとの期待感もあった。ライブにバラエティにと、今一番波に乗っているとすら思われただけに、これまでの活躍への感謝と惜しむ思いが交錯する。
16年にけやき坂46の1期生としてデビューしてから、齊藤の歌はずっとグループの表現力に欠かせない存在だ。小動物を思わせる愛らしいビジュアルと低音のギャップ、それ自体が彼女のトレードマークで、ライブや歌番組になると自然に観る者の視線をひきつける。
ソロ曲としてはけやき坂46時代に『居心地悪く、大人になった』、日向坂46になってからの『月と星が踊るMidnight』で表題曲センターを務めた時のTYPE-A収録曲『孤独な瞬間』をリリースしている。前者は爽やかなJポップとして成立していて、齊藤の音域の広さもボーカルから実感できる。後者は中森明菜の『少女A』や『DESIRE-情熱-』のオマージュのようなクールなサウンドで、得意の低音を活かせるナンバーに仕上がった。
学校の同級生のような親しみやすさがグループカラーの日向坂46。イメージ通りのフレッシュな青春ソングやあざとい楽曲がありつつ、齊藤がリードボーカルを担うと力強さが加わってきてリスナーをふるい立たせる。YouTubeのTHE FIRST TAKEで披露した『僕なんか』を歌う姿からも彼女の芯の強い歌唱力が実感できる。
齊藤は音楽番組やライブでの活躍も多く、単独でパフォーマンスを披露してきた。
翌年にも『MTV LIVE SESSIONS: Kyoko Saito from Hinatazaka46』を配信ライブの形で開催し、『風に吹かれて』(JUDY AND MARY)、『禁区』(中森明菜)、『アンコール』(YOASOBI)、『くちばしにチェリー』(EGO-WRAPPIN’)など10曲をカバー。23年5月には『MTV Unplugged Presents: Kyoko Saito from Hinatazaka46』を神奈川・ぴあアリーナMMで開催した。
日向坂46のイベントでもしばしば使う会場でのソロライブ、それもアコースティックライブで上演という快挙で、グループの楽曲とカバー曲あわせて15曲を披露。カバー曲の顔ぶれも『初恋』(村下孝蔵)、『歩いて帰ろう』(斉藤和義)、『本能』(椎名林檎)、『花火』(aiko)、『First Love』(宇多田ヒカル)などJポップのヒットチャートに挑戦し、ボーカリストとして十二分に表現力があることを証明した。
この年の齊藤は『キョコロヒー』でも2度目のイベントでヒコロヒーと共に自由奔放に東京国際フォーラムの観客を沸かせ、テレビ朝日系列の『泥濘の食卓』で連ドラ初主演。もっとも『泥濘の食卓』で彼女が演じた捻木深愛ははいわゆる毒親に育てられ、アルバイト先のスーパーの店長と不倫関係に陥るという難役。深愛の愛情が事件を巻き起こす、“ファム・ファタール”(男を破滅させる運命の女)ぶりを演じきり、アイドルらしさと魔性の色気も両立させていた。
実はデビュー以来髪を染めたことがなく、1st写真集『とっておきの恋人』もヒットした齊藤。アイドルという職業と文化へのリスペクトをしっかりと持ち、パフォーマンスや表現力も開花が止まらなかった彼女は、昭和以来の正統派アイドルの系譜をしっかり受け継いできた存在だろう。
象徴的な1曲が、『君しか勝たん』TYPE-Aに収録されている齊藤の個人PVで流れるソロ曲『死んじゃうくらい、抱きしめて。』だ。
PVの映像は私服の齊藤とデートに出かけたり、屋内でラフな装いでいるところを映すなど、本当に恋人と2人でいるような“彼女感”たっぷりのできばえ。1st写真集もイメージして、齊藤本人のアイデアを盛り込んだ作品になっていて、映像も音楽も飾らない素朴な魅力を放っている。
キュートで多才で、“国民的彼女”というキャッチコピーにたがわない、幅広い世代に愛される活動をしてきた齊藤京子の日向坂46としての最後のステージは、今年4月5日の横浜スタジアム。集大成としてパワフルなパフォーマンスを見せつつ、日向坂46らしい明るい未来を予感させる時間になることを願いたい。
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