テコンドー全日本12連覇を成し遂げた“本物”が「Breaking Down 11」(2月18日、東京・プリズムホール)に参戦する。江畑秀範(31歳)は身長198cmの身長を活かし、2階から振り下ろすようなキックで相手を圧倒するファイター。
先に公開されたオーディション動画では、喧嘩自慢100人企画でベスト4入りした布谷天志とスパーリングする展開に。ここで格闘ゲームのように華麗な足技コンボをキメまくり、「テコンドー鬼強くて草」「テコンドーの人ヤバすぎる。どこからでも足が顔面に飛んでくる」「Breaking Downに出ちゃいけないレベル」などと賞賛の声がコメント欄には溢れかえった。(前後編の前編)

【画像】「生物的にレベルが違う」オーディションで華麗な足技を見せる江畑秀範【5点】

 ゴリゴリの競技者である江畑は、なぜBreaking Downへの出場を決めたのか? オーディション時には「さらなる刺激を求めて」と語っていたが、改めて本人を直撃したところ、さらに踏み込んで舞台裏を解説してくれた。

「直接のきっかけとしては、東京オリンピックが終わったことが大きかったです。アマチュア競技の選手というのは、企業の支援があるから練習に没頭できる環境が作れるものなんですね。ところが五輪後もコロナの影響が続いたこともあり、スポンサー離れが加速化していった。

ぶっちゃけた話をすると、テコンドーはマイナー競技であるだけでなく、慢性的にお金が不足しているんですよ。選手は競技を続けたくても続けられないという現実があるんです」

 テコンドーでは中軽量級の選手層が圧倒的に厚い。80キロ級と87キロ級を主戦場にしていた江畑は、世界大会で実績を残さないと日本代表に選ばれることもなかった。しかし、海外遠征には1回につき30~50万円ほどの経費が必要となる。

それでもコロナ前は企業のスポンサードによって年5回ほど出場していたそうだが、状況は激変。
自分の仕事を続けながら、練習環境を整備しつつ、海外の大会で優勝するというのは非現実的だった。

「この閉塞した状況を崩すためには、結局、テコンドーをメジャー化させていくしかないんですよ。スター選手を輩出して、世間の注目を集めないと、国からも助成金が出ないですし。僕はそこに対してすごく危機感を覚えているから、今回は影響力のあるBreaking Downへの参戦を決めました。これはもう自分に与えられた使命。競技を背負って闘うつもりです」

 2020年11月、江畑はRIZINでキックルールのデビューを果たす(結果は判定負け)。その後も巌流島では場外に投げられるTKO負け、MMAルールで参戦したDEEPでは1勝1敗の成績を収めている。もちろん本人は結果に納得していない。プロの洗礼を浴びる中、忸怩たる思いを抱えたようだ。

「最初は完全にプロ転向するつもりだったんですけど、考えが甘かったですね。同じコンタクトスポーツとはいえ、テコンドーとは完全に別物でした。蹴り技ひとつ取っても、距離感や効かせ方がまったく違うなと。
僕はテコンドーの海外遠征で作った借金もあったし、働きながら知らない競技に対応していくのは難しいかなと考えるようになったんです。

顔面パンチやスタミナ面の対応もあるし、MMAともなると組技や寝技も学ばなくちゃいけないわけですから」

 そんな中で目に留まったのが、Breaking Downの存在だった。何よりも江畑にとって大きかったのは、試合時間が1分間というルール。ここならテコンドーの技術でアジャストできると考えたのである。

「テコンドーというのは足技を中心とした競技。他の打撃系格闘技との大きな違いは、圧倒的に疲れるということなんです。足だけでの攻撃って、手も使えるときの3倍体力を消費すると言われていますから。一般的にキックボクシングは3分3ラウンド、MMAだと5分3ラウンドや5ラウンドが多いですよね。

蹴りだけで3分とか5分攻撃し続けるのって絶対に持たないんですよ。でもこれが1分だけだったら、キックでずっと攻められる」

【後編はこちら】全日本12連覇・江畑秀範、BD参戦にテコンドー界から非難の声も「信念を持って恩返しを」
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