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発売中の『OVERTURE No.20』の誌面では、とにかくポップでキュートな写真に合わせて「夢のランウェイ」と「女の子に向けてのアピール」に話を絞って、HKT48・朝長美桜のインタビューを構成したが、実際にはかなり長い時間、彼女と話をしている。かなり現実的なシビアなトーク、そしてちょっとばかりヘヴィーな話題……そういった部分を今回、「ENTAME next」にて特別に掲載することとなった。誌面とはまるで違う「みおたすの内面」をぜひ『OVERTURE No.20』と併せてお読みいただきたい。
2019年4月、指原莉乃がHKT48を卒業した。
その後のHKT48メンバーたちは、現在『九州7県ツアー』を敢行中で(10月27日の福岡サンパレス公演でフィナーレ)、新たなる可能性を模索しながら、意欲的にコンサートに取り組んでいる。
「こんなに変わるんだなって、びっくりしてます。いなくなることは何カ月も前からわかっていたし、いなくなったら変わるんだろうなってことも、頭の中ではわかっていたはずなのに、いざ、いなくなってしまったら『えっ、こんなに変わるんだ……』って。いなくなって、はじめて気づくってこういうことなんでしょうね。なんていうのかな、いままでこんなに(指原莉乃に)頼ってたんだってわかったし、いい意味でこのツアーは本当にゼロからやっている感じです」
彼女を巡る環境はさらに変わっていく。昨年から同期である2期生のメンバーの卒業が相次いだ。気がつけば、当初21人もいた2期生はたった7人になってしまった。
「どんどん卒業していくので、びっくりですよね。やっぱり寂しくもあるけれど、2期生はもう7年も活動していて、そこから『踏み出す』ってカッコいいなって。だから、寂しいっていうよりも『がんばって! またね!』って感覚で見送ることができました。
いっぱい見送っていくうちに『自分はいつなんだろう?』って考えるようになってはいったんですけど、卒業していくみんなを見ていると、自分の将来をしっかりと見据えた上で卒業を考えているんですよね。そういう意味では、私はまだだなって(苦笑)。これからもHKT48でがんばらせていただきたいです!」
そして、もうひとつ状況が激変したことがある。
2018年2月、膝を負傷。半月板損傷という大ケガで、朝長美桜はしばらくステージを離れることになる。
その間、手術をし、厳しいリハビリ生活を送り、今年2月に約1年ぶりに劇場公演のステージに復帰した。しかし、それは「完全復活」というわけではなく、しっかり踊れるわけではないので、公演の中でも動きの少ない数曲だけ登場する、という形での復帰となった。
全力で踊ることができない、というのはアイドルとして致命傷だ。それでもアイドルにこだわるのには意味がある。
「HKT48にもケガをして、今、ステージから離れているメンバーがいるんですけど、そういうメンバーやファンの方たちに対して『こういう生き方もアイドルにはあるんだよ!』ってことをわかってもらえたらいいなって。
最初は絶望しかなかったんです。リハビリも辛いし、痛い。でも、いままで時間に追われるような生活を送ってきたので、自分でも気がつかないうちに周りが見えなくなっていたんですよね。それが手術をして、リハビリを続ける中で、アイドルになってからはじめて立ち止まってみたら、ものすごく視野が広がったんです。こうなりたくてケガをしたわけじゃないし、絶対に「ケガをしてよかった」とだけは思いたくないんですけど、休んでいるあいだに『こんな自分にしかできないことってなんだろう?』って考えることができた。あのまま、ずっと追われるような生活を送っていたら、こういう考え方は絶対にできなかったと思います」
自分にしかできないこと、を突き詰めていったら、YouTubeなどでの動画配信に力を入れるようになっていた。女の子に向けた発信は徐々に広まっていき、ついには夢だったランウェイを歩くことまで実現した(9月8日、神戸コレクション)。朝長美桜はこれを「こうやって、いままでにないアイドル像を作っていきたい」と表現する。大ケガからの絶望を、1年以上かけて、彼女は大いなる希望に書き換えてみせた。
個人的な活動だけではなく、グループ内での立ち位置についても、大きく考え方は変わってきた。
「いままでは『自分が引っ張っていくぞ!』って気持ちがあったんですけど、ケガをして、踊れなくなったら、もうステージの上で引っ張っていくことはできない。
それで考え方が変わったんです。『うしろから押しますよーっ!』って。後輩たちを引っ張るんじゃなくて、背中を押してあげることなら、私にもできる。ちょうど5期生が入ってきたタイミングだったので、積極的に自分からコミュニケーションをとるようになりました。
これまで後輩と接することって、あんまりなかったんですよ。私って、後輩からすると話かけにくいタイプみたいなので(笑)、こっちから話をしたり、プライベートでも遊びに行ったり。いままでは後輩を引っ張りたい、という気持ちも強かったけど、同時にどこかで「追い抜かれたらどうしよう」という不安もあったんですけど、ケガをしたことで、そういう気持ちはまったくなくなりました。今は、少しでも力になってあげたいって気持ちしかないです」
HKT48がぐんぐん伸びていった時期、まったく同じ話を当時、チームKⅣのキャプテンだった多田愛佳から聞いたことがある。指原莉乃がみんなを引っ張っていってくれるから、私はうしろからメンバーの背中を見ていたい、と。少しでも不安そうな背中を見つけたら声をかけてあげるし、前に出ていけないメンバーがいたら、そっと背中を押してあげたい……組織が強くなるとき、そういう存在はきっと必要なのだろう。そして今、朝長美桜は「そういう存在」になろうとしている。
「私にはそんな力はないんですけど、たとえばSNSのやり方とか、そういう部分ではアドバイスしてあげることだったらできる。
普段はそんな感じなのに、仕事の話をすると『どうしたら人気が出ますか?』とか『どうすれば選抜に入れますか?』って真剣に聞いてくるんですよ。私がHKT48に入ったばかりのころは、そんなこと考えたこともなかったから、あぁ、すごいなぁ~って。そういう後輩たちの力になってあげたいですよね」
かつて朝長美桜は研究生でありながらセンターに大抜擢された経験もある。その経験値や「アイドル道」が後輩たちに継承されたら、きっとHKT48の未来は明るく輝く。2019年から2020年へ向けて、朝長美桜も、HKT48も、まったく新しいステップを踏み出そうとしている――。
(取材・文/小島和宏)

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