「栃木県生まれの眉毛ガール」井上咲楽の政治家対談。前編に引き続き、防衛大臣や農林水産大臣、内閣府特命担当大臣、自由民主党幹事長など名だたる役職を歴任してきた石破茂議員が登場。
後編は、石破議員が日韓の難しい関係解決の糸口について語ります。
(前編はこちらから)

井上 今、組閣の予想では防衛大臣に河野太郎さんの名前が挙がっています(取材の2日後に発表された第4次安倍再改造内閣で、実際に河野太郎氏が防衛大臣に就任)。どう思われますか?

石破 私は農林水産大臣、地方創生大臣も務めましたが、防衛大臣が他の大臣と大きく異なるのは、自衛隊という実力部隊を監督する立場であることです。ですから、防衛大臣は関係する法律に詳しくなければいけない。特に自衛隊法は国際的には特殊なポジティブリストと呼ばれるものなので、運用がより専門的になる。

井上 どう特殊なんですか?

石破 他国では、軍隊の運用を規定する法律は、基本的にネガティブリストといって、「やってはいけないこと」を規定されている。つまり、「それ以外は現場などの判断でやってもいい」という形です。一方、自衛隊法はポジティブリスト、つまり「やっていいこと」がたくさん書いてあります。ということは、書いていないことはできないし、やってはいけない。だから、命令を出す立場の人が「自衛隊ができること」をきちんと把握していなかったら、的確な命令が下せず、大きな混乱を招くことになります。

井上 知りませんでした。

石破 また、日本人の多くは「有事があった際はアメリカが助けにきてくれる」と思っています。
でも、日米安保条約にはそういう書き方はしてないんですよ。

井上 えっ、そうなんですか?

石破 「自国の憲法の手続きに従って」とあるから、大統領が「日本を助けに行くぞ!」と言っても、連邦議会が「ダメだ」と止めたら、助けが来ない可能性もある。少なくとも、「必ず来てくれる」と思うのは大きな間違いです。このように、防衛大臣は日米安保条約や防衛省設置法や自衛隊法を詳しく知っていなければいけないし、陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊、それぞれの装備を知り、何ができて、何ができないのかを把握していなければいけないのです。誰がなっても、大変な重責ですよね。

石破 政治家にとって、知らないことを知る、知ろうとし続ける姿勢はとても大切です。例えば、今、日本と韓国の関係がすごく悪くなっていますよね?

井上 そうですね。

石破 じゃあ、日本人は韓国のことをどれだけ知っているか。井上さんは、学校で習ったことあります?

井上 ないです。でもい人はK-POPやドラマなどの文化的なところで親しみを持っていると思います。

石破 好きな人がいたら、相手のことを一生懸命知ろうとするじゃないですか。趣味は何だろう。
どんな食べ物が好きだろう。どうやったら気に入ってくれるだろう。そうやって、うまくいくときもあれば、失敗するときもある。でも、相手のことを知れば距離が近づき、仲良くはなれるよね。これは国と国でも同じだと思うのね。我々の多くは政治家も含めて、韓国の歴史をほとんど勉強したことがない。いわゆる徴用工にしても、慰安婦にしても、竹島の問題にしても、韓国の人たちはなぜあれだけ感情的に怒りをぶつけてくるのか。その背景を知ろうとせずに、こちらも「お前の言うことは間違っている!」と言ってばかりでは、こじれるだけです。

井上 そうですね。

石破 韓国は過去の35年間、日本だったわけです。ある日、「今日からあなたの国はありません。あなたたちは日本人です。
日本の言葉を話しなさい。日本の教育を学びなさい。日本の名前にしなさい」と言われたら、すばらしいことだと思えます?

井上 思えないですね。

石破 自分の国がなくなったことに対する思いはどれほどものなのか。そういう経緯を知ったうえで韓国と付き合うのと、知らないで付き合うのでは全然違うのではないかな? と思うわけです。こういうことを言うと、最近は非国民とか、韓国の回し者とか言われる。でもね、日本と韓国が仲悪くなって何かいいことがあります? 日本と韓国が敵対して誰か幸せになりますか?

井上 隣国ですもんね。

石破 「韓国けしからん!」と言っている人たちが、どれほど韓国と個人的なつながりを持っているのかは分かりません。だけど、日本にも韓国にも長く協力しながら商売をしてきた人たちがいるわけです。身近なところで言えば、韓国からの旅行客で賑わっていたホテル、旅行会社もたくさんあります。それが日韓関係の悪化を受けて、旅行を自粛する、取引を打ち切るとなれば、どうなるか。そういう現場の声はなかなかメディアに取り上げてもらえない。


井上 確かに、大きな声を出した人が勝ちみたいな印象があります。

石破 安全保障の面から言っても、日本と韓国の関係が悪くなれば、東アジア全体が不安定になっていきます。日本とアメリカ、日本と韓国、韓国とアメリカ。3カ国の信頼関係がないと地域の安定のためのバランスが崩れてしまいかねない。今、政府の対応を見ていると、「しばらくこのままでいくしかないね」という考えがずいぶんと広がっているように感じます。でも、それは地域の平和と安定に決して寄与しない。もちろん、「これで解決!」ということにはならないと思います。今までだって日韓の間にはいろいろな問題がありました。それでも、ずっと関係が悪かったわけではない。さっき井上さんが言ったK-POPやJ-POPが好きな若い世代のためにも、修復不可能だと努力を放棄していいはずはない。でも、そんなことを言っているから、私はウケないんだろうね(笑)。かなり変わった政治家だという自覚はあります。
でも、人気取りや偉くなるために政治家をやっているわけじゃないですから、物事は納得いくまで調べ、自分の言葉で発言していきたい。それが大事なことだと思っています。

(『月刊エンタメ』2019年11月号掲載)
「取材を終えて」~井上咲楽の感想~石破さんが現場との近さにこだわっているところは総裁選のときにも感じましたが、今回改めて、凝り性だからこそここまでディープにお仕事と趣味に取り組めるんだろうなと思いました。心から何かを伝えたいと思っている人は、にじみ出る熱意がもう強いです。今月行われた内閣改造では、石破派からの大臣はいませんでした。ここから石破さんが永田町でどう存在感を示していくのかに注目しています。
石破議員が<新たに選挙権を得た若い世代>に読んでほしい1冊
石破茂 元防衛相「日韓関係は修復不可能だと努力を放棄していいはずはない」【井上咲楽の政治家 直撃〜後編〜】

『昭和16年夏の敗戦』(猪瀬直樹 著/中央公論新社 刊)
人間は辛いこと、悲しいことを忘れよう、忘れようとする生き物です。だけど、忘れてしまったらもう1回同じことが起きるかもしれない。だから、何であんな戦争を始めてしまったのか。どうして大勢の人が死んでいったのか。常にリマインドしていかないといけないのだと思います。そういう意味で、「開戦前の昭和16年の夏に、アメリカと戦争をしても絶対に勝てないという指摘があった」という歴史を掘り起こしたこの本は非常に重要な1冊だと思っています。

▽井上咲楽(いのうえ・さくら
1999年10月2日生まれ、栃木県出身。A型。現在は『アッコにおまかせ』(TBS)などバラエティ番組を中心に活躍。
Twitter:@bling2sakura

▽石破茂(いしば・しげる)
1957年2月4日生まれ、鳥取県出身。自民党所属衆議院議員。慶應義塾大学法学部卒。旧防衛庁長官、防衛大臣、国務大臣地方創生・国家戦略特別区担当、自民党幹事長などを歴任。
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