井上 石破さんは安倍政権について、どう思われているんですか?
石破 そうですね。まず私は、国民に対して本当に丁寧に説明すること、政治家にとってそれが一番大事だと思っています。憲法にしても、外交についても、経済政策にしても、安全保障政策もすべてそうだけど、これはどういう問題なのか、どういう論点があるのか、こんな考え方があるけど、なぜこのやり方でいこうとしているのか、1つひとつを丁寧に説明することが大切。なぜなら、国民はみんな忙しいんですよ。サラリーマンはサラリーマンで毎日忙しく、主婦は主婦で毎日忙しい。そういう忙しい国民の皆さんに対して、問題になっていることを整理し、丁寧に分かりやすく説明すること。それが一番大事だと思っているんですね。
井上 今の政権は説明が足りていないということですか?
石破 足りていない、と思っている国民が多いのではないか、と心配しているんです。もちろん、国民の感情に訴えて政治を動かしていくやり方もあるでしょう。実際、歴史のなかで何度もあったことでもありますから。
井上 なるほど。
石破 これから日本が生きていくために、なるべく多くの世界の人に「日本は誠実な国だね」と思ってもらうことは重要です。そして、日本を守ることについて、何でもかんでもアメリカ頼みでいいとは思わない。できることは日本でやるべきだ、それが安全保障のポイントだと思っているんです。だけどそれは偏ったナショナリズムとは違うものだし、国民の感情を煽って政治を動かすようなポピュリズムにもなっちゃいかんと思っているわけですね。
井上 そのあたりに安倍政権の危うさを感じているということですか?
石破 政権自体に危うさがあるというより、一部の支持層にそういう面が見えていることを心配しています。そして、国会の論戦を見ていても、議論が噛み合っていないときがある。
井上 確かに。
石破 では実際に増えた雇用は……と言うと、女性と高齢者の就職が増えている。あるいはサービス業への就職が増えている。でも、給料は決して高くない。そこにも問題があるんじゃないですか? と聞かれても、噛み合わないやりとりが続いていく。
井上 一方、今、野党は散り散りになっている印象があります。石破さんはどう思われていますか?
石破 衆院選の小選挙区で野党がばらばらになっていたら、勝てません。定数1なわけだからね。自民党と公明党の連合軍に対して、立憲民主党あり、国民民主党あり、共産党ありとばらばらの候補が出ていては、票もばらけてしまいます。政権交代を目指すなら、いかに与党に勝つかという点にエネルギーを集中して野党がまとまらなくてはいけない。ところが、現状は野党同士でケンカすることにエネルギーを費やしているように見えます。
井上 そうですね、それは思います。
石破 その一方で、本当に「自民党を積極的に支持しているか」という問題があるんです。私は国会に議席をいただいて34年目、長い方から数えて13番目になってしまって、もうベテランです。幹事長も2年間やって、いろんな選挙を手掛けてきたけど、残念なことに投票率は下がっていく傾向にあります。最近は5割くらいが当たり前になってしまった。それはつまり、小選挙区では、5割の投票率の×5割、全体の25%の票を取れば勝ててしまう。今も昔も自民党の全有権者に対する得票率は25~30%といったところです。積極的に自民党を支持している人はそれだけしかいない、とも言える。それでも議席は7割以上取っているわけです。
井上 積極的な支持者は投票に行き、行かない人がどれだけ批判しても……というもどかしさは確かに選挙のたびに感じます。
石破 極端に言うと、今の与党は3割に満たない支持で7割の議席を持っているんですよ。
井上 今後、同じような展開はあり得ると思いますか?
石破 野党が本当に内輪のケンカをやめて、「これならば一本化できる」という点を見出だせたら可能性はあるのでしょう。 “小異を捨てて大同に就く”という言葉があるけれど、野党がある程度まとまって、自民党に対する批判が強くなれば、バタバタと負けることは起こりえます。だからこそ、私たちはどんな逆風が吹いても選挙に強い自民党を作っていかなきゃいけない。そう思っています。
井上 逆風が吹いても強い党になるにはどうしたらいいんでしょうか?
石破 有権者との間にどれだけ個人的な繋がりを持つかことができるかが大事です。私は田中角栄先生という人に政治の道を開いていただいたんだけれど、角栄先生がよく言っていたのは、歩いた家の数、握った手の数しか票は出ないということでした。毎日、「こんにちは、私が石破茂です。よろしくお願いします」と言って訪ね歩いた家の数、「お願いしますね」と握った手の数。票の数はこれでしか出ないんだ、と。古臭いと思う人もいるかもしれませんが、やっぱり有権者との間にそういう個人的な繋がりを作れなければ強くはなれないと思います。私もできるだけ選挙区に帰り、地元のお祭りにもなるべく参加して、そこにいる人たちの手を握り、一緒に飲み、食べ、踊ります。そういう個人的な繋がりを持っていると、逆風が強く吹いても勝てる。そういった個人的な繋がりがないと、社会保障や税金みたいな話をちゃんと聞いてくれることもないし、何かあったときには見放されてしまうのだと思います。
井上 総裁選のとき、私は石破さんの都内や地方での演説も聞かせていただきました。確かに、行く先々でその場に合わせたエピソードを盛り込み、地域に密着されていることを感じましたし、地元の人からの信頼感が違うなと思いました。
石破 ありがとうございます。私は、自民党を支援することによって何か直接的な利益のある人々ではない、圧倒的大勢の人たちからのシンパシーこそが大事だと思っているんです。たとえば、岩手県の県議会議員選挙と市議会議員選挙のとき。何人かの候補者の応援に行きましたが、盛岡でも、花巻でも、一関でも、市町村ごとに、そこにどんな魅力、特徴、課題があるのかを調べます。そして、私が応援しようとしている候補なら、その課題にどう向き合えるかを考え、なぜこの人が必要なのかを地元の人たちに伝えます。日本には47都道府県1718市町村あり、それぞれの課題は異なります。政府はいろいろな政策を出しますが、北海道の稚内市と沖縄県の与那国町では受け止め方も変わってきて当然です。発信する側の理屈ではなく、受け止める側の人がどう感じるかが大事なのはなぜかと言えば、今後の日本経済を支えるのは地方だと信じているからです。地方がそこにしかない魅力を最大限に発揮し、地元に所得と雇用を生み出せれば、人口減少にも立ち向かうことができます。地方創生はそれほど大切な政策だと、私は思っているのです。
▽井上咲楽(いのうえ・さくら)
1999年10月2日生まれ、栃木県出身。A型。現在は『アッコにおまかせ』(TBS)などバラエティ番組を中心に活躍。
Twitter:@bling2sakura
▽石破茂(いしば・しげる)
1957年2月4日生まれ、鳥取県出身。自民党所属衆議院議員。慶應義塾大学法学部卒。旧防衛庁長官、防衛大臣、国務大臣地方創生・国家戦略特別区担当、自民党幹事長などを歴任。