大場美奈が演じるのは原作には登場しない舞台オリジナルキャラ、新人制作進行の川島加菜美だ。10月31日(木)からは紀伊國屋ホールにて東京公演もスタートするが、「それまで待ちきれない」と新幹線に飛び乗り、大阪まで足を運んだのが原作者・辻村深月。舞台終演後には、主演の大場美奈との対談も実現した。主演と原作の2人が語る舞台『ハケンアニメ!』の魅力とは……?
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──公演お疲れさまでした。まずは大場さんの演じた川島加菜美について、改めてどんな役なのか教えてください。
大場 原作の主人公である有科香屋子(演:町田マリー)にあこがれる新人制作進行で、有科さんや全体の物語を俯瞰して見ているストーリーテラーでもあります。だから私も一歩引いた感じでほかの皆さんの演技を見ることも多いんですけど、いざ川島にスポットが当たるとすさまじい勢いで物語の中に巻き込まれていました。ひとつの役でいろいろな立場を味わえる役だなと思いながら演じていました。
辻村 舞台を観ていて、加菜美ちゃんって大場さんの色がものすごく出ている役だなと思いました。大場さんが演じてくれたからこそ、ものすごく深みのあるキャラクターになったんでしょうね。
大場 ありがとうございます!
辻村 普通こういう新人の子は物語の中では、物語側からの要請として、周りを引っ掻き回す役だったり、コミックリリーフ的なドジなことをしてもらう役回りになりがちだと思うんですけど、加菜美ちゃんはただ困ったりオロオロするんじゃなくて不思議な大物感がある。
大場 川島はただの新人さん、というわけではないんです。過去の苦い経験ゆえに持っているアニメが大好きという気持ちや、王子千晴監督への並々ならぬ思い入れみたいな感情は、最初からずっと演技に乗せていくよう気をつけていたので、それがちょっとでも伝わっていたら嬉しいです。
辻村 私は稽古も見せていただきましたけど、稽古でお見かけしたときと本番では大場さんの演技が全然違って見えました。なんというか、本番の加菜美ちゃんは稽古のときよりずっと“大場美奈”の血が通っている。大阪3日目でこれなので、東京公演のときは、舞台オリジナルキャラの加菜美ちゃんがスタジオえっじのメンバーとしてさらに馴染んでいると思うんです。それが見たいので、この後も何度も観に行かねばって思いました(笑)。
──舞台『ハケンアニメ!』には、原作にないオリジナル要素も多数入っていました。辻村先生は、どの程度までお話づくりに関わられたのでしょうか?
辻村 シナリオの監修をしたり、お稽古を見せてもらったりはしましたが、基本的にはG2さんにお任せで、私から「こうして欲しい」と要望を出すようなことはありませんでした。私はいつも、自分の小説をほかの媒体で使っていただくときは、原作そのままではなく、原作を超えてもらいたいと思っているんです。
大場 どうしてですか?
辻村 「こんなやり方があったのか!」と負けた気分になるのはもちろん悔しいですけど、それ以上に、自分が書いたものの「その先」を見せてもらいたいという気持ちが強いんです。今回の舞台では、大場さんが演じる加菜美ちゃんと山内圭哉さんが演じる澤田和己が原作にはいないキャラクターでしたけど、2人ともまるで私が書いたみたい(笑)。G2さんは最初、オリジナルの要素を多くいれてしまったことをだいぶ気にしてくださっていたみたいなんです。でも、私としては、私がカメラを向けていなかったところで、加菜美ちゃんと澤田さんも昔からずっとスタジオえっじにいたんだろうなって自然と思えたんですよ。だからこの2人も本当に自分が書いたことにしてしまいたいって思いました(笑)。ただ、原作を未読でこの舞台をご覧になった方はきっと、「小説にも彼らがいるんだろうな」と思ってくださっていると思うので、G2さんの手柄が私のものになっているみたいで、すごく幸せです(笑)。
大場 私は稽古している間、ずっと原作本に支えられていたんです。私の演じる川島は原作にいませんけど、川島が尊敬している先輩の有科さんや、川島があこがれる王子監督が、どんな思いを抱えながら『運命戦線リデルライト』を作っていたのか深く知るためには、舞台の脚本だけでなく、原作を読み込む必要もあったので。
辻村 舞台の脚本が教科書で、原作は副読本みたいな感覚でしょうか。
大場 まさにそうです! 一番の正解は原作だと思ったので、少しでも演技で悩んだことがあれば原作を読んでいました。でも素敵な原作だったから、何度
読み返しても楽しかったです。
──原作小説には『運命戦線リデルライト』以外にも『サウンドバック 奏の石』というアニメ作品が出てきます。あの2作品は設定やストーリーがとても魅力的で、実際にアニメ化して欲しい、という声も聞かれます。
辻村 実はあの2つは、私が中学生の頃に書こうと思っていたライトノベルのプロットなんです。
大場 そうなんですか!?
辻村 だけど、その後、自分の目指す方向性を考えていたら、どうやら自分にライトノベルを書く才能はなさそうだな、と。だから、あのプロットは表に出ることはないもの、と思っていたのですが、今回こういう形で作中作として登場させることができて、とてもうれしいです。 “物語を作る過程を描く物語”にはいろいろありますが、私が今まで面白いと感じてきたものは、作中作がちゃんと面白そうなんです。物語の中でどれだけ「すごいものだ」「あの天才監督の作品だ」って言われていても、その褒め言葉だけで進めるのはやっぱりちょっとどこか逃げている感じがある。それがどんな作品で、どんな理由でみんなが熱狂するのかまで見せてくれないとただ単に「すごい」って言われても気持ちが追いつかない。だから『ハケンアニメ!』でも、絶対にこれだけでアニメとして本当に成立するぐらいまで作り込んだ作中作を用意しようって決めていて、それが『運命戦線リデルライト』と『サウンドバック 奏の石』でした。舞台でも『運命戦線リデルライト』がどんなアニメなのかという情報が、物語の進行とともに情報過多になりすぎないようにさり気なく出てきます。王子が、ただ完璧を求めているだけではなく、本当に天才で、型破りなアニメを用意しているんだなという熱が伝わる見せ方になっていて、クライマックスでは鳥肌が立ちました。
──先生が特に印象に残っているシーンはありますか?
辻村 まずは王子の記者会見のシーンですね。
──あと原作の重要人物のひとりである行城プロデューサーが、舞台では名前しか登場しなかったのは印象的でした。
辻村 私も最初G2さんから行城を登場させないと聞いたときは、少し驚きました。でも考えてみたら『ハケンアニメ!』はバディものという側面を持たせながら書いていたので、原作第2章の主人公である斎藤瞳が出てこない以上、たしかに行城の出番はなくても成立するのかな、と。そこはさすが、G2さんの判断だなと思いました。
大場 第2弾、ぜひやりたいですね!
辻村 今回の舞台をすでにご覧になった方にはわかると思うんですけど、物語の場所が変わっても加菜美ちゃんと澤田は問題なく登場させられますからね。今回の舞台は原作の1章がベースですが、残る第2章、第3章もぜひ舞台化して欲しいので、皆さんも応援よろしくおねがいします。
──このインタビューが公開されるのは、大阪公演が終わった後で、東京公演スタート直前です。大阪と東京では、どのような違いが出そうですか?
大場 お話の内容自体は変わりませんが、まず東京の紀伊國屋ホールは大阪のCOOL JAPAN PARK OSAKA TTホールよりも小さな会場です。ステージの大きさが違うと、当然セットの大きさや役者の動きとかも変わってくるので、大阪公演とは違った見え方になってくると思います。
辻村 私は舞台が大好きで、同じ演目でも何度か劇場まで足を運んで観ることもあります。舞台ってたとえ同じ演目でも日によって空気感が違うから、一回として同じものがない。何度観ても楽しめるんですよね。この舞台の場合だと、澤田さんを演じる山内さんの演技が毎日ちょっとずつ変わっていると伺ったので、そこがすごく楽しみです。
大場 山内さんはすごく器用な方で、お客さんの反応を見て演技を変えてくるんです。

▽舞台『ハケンアニメ!』
◆公演日程:
紀伊國屋ホール
2019年10月31日(木)~11月14日(木)
◆チケット:7,500円(税込・全席指定)
※未就学児入場不可
◆原作:辻村深月
◆脚本・演出:G2
◆出演
大場美奈(SKE48)
小越勇輝
市川しんぺー
三上市朗
菅原永二
町田マリー
幸田尚子
山内圭哉
小須田康人
◆主催:吉本興業
◆公式サイト:https://hakenanime.yoshimoto.co.jp
▽辻村深月&大場美奈の対談別ver.も掲載!
「Animage(アニメージュ)」12月号 11月9日発売