映画やドラマなどのレビューサービス『Filmarks』は4月26日、『2024年地上波放送の春ドラマ初回満足度ランキング』を発表。朝ドラ『虎に翼』(NHK系)を抑えて『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系)が1位に輝いた。
本作は『モーニング』(講談社)で連載中の同名漫画が原作。不慮の事故で脳を損傷した影響で、過去2年の記憶をなくし、その日の記憶も翌朝には忘れてしまう“記憶障害”を患っている脳外科医の川内ミヤビ(杉咲花)が主人公。アメリカ帰りの脳外科医・三瓶友治(若葉竜也)とともに、目の前の患者を救いながら、ミヤビ自身も再生していく姿を描いた医療ヒューマンドラマである。春ドラマの話題作と言える本作のプロデューサーを務める米田孝氏にドラマ制作の裏側を聞いた。

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まずキャスティングの巧みさを指摘する声がSNSで散見されているが、中でもメインに杉咲と若葉を据えたことに対する賞賛が多い。米田氏に杉咲と若葉を起用した経緯を聞くと「20代半ばの素敵な役者さんはたくさんいますが、その中でも杉咲さんは特に素晴らしいと考えていました」と回答。


「ミヤビは“昨日の記憶を失った状態で日々生きている脳外科医”というかなり難しい役です。『誰が適任か?』と考えた時に杉咲さんの名前が浮かびました。これまでの作品を拝見していて、“演じる”のではなく、“その役を生きる”ということをまさに体現されている方なので。」

また、若葉竜也については、映画『市子』や朝ドラ『おちょやん』(NHK系)など、杉咲との共演作が少なくないことも要因にあったという。
「2人は共演が多く、信頼関係が強いと思っていました。お互いの良いところを引き出し合える演技を期待していた部分もあります。特に『おちょやん』では2人の掛け合いのシーンを見ている時、『ずっとこの2人のやり取りを見ていたいな』と思わせる不思議な魅力を放っていました。
本作でも2人だからこその空気感を作り出してくれていて、目指したものを実現できていると感じます。ちなみに、本作のクランクイン直前に『市子』を見たのですが、やはり2人の演技に衝撃を受け、同時に『これからこの2人とドラマ制作を1クールするのか……』と、責任感みたいなものがドッと押し寄せました」

また、若葉さんについてですが、そもそも若葉さんが優秀な役者であることはこれまでの実績から疑いの余地はありません。ただ、地上波ドラマにはあまり出演していないため、まだあまり彼をよく知らない視聴者に“若葉竜也という役者のすごさを知ってもらう”という気持ちもありました」

メインだけではなく脇を固める役者も存在感を発揮している。とりわけ、鋭い目つきかつオールバックという強面の看護師長・津幡玲子役として吉瀬美智子を起用したことは特筆すべきだ。吉瀬は魔性の女や優しい母親などを演じるケースが目立ち、津幡みたいなタイプは珍しい。挑戦的なキャスティングに思われたが、米田氏は「吉瀬さんは良い意味で想像を超えてくれました」と唸る。


「吉瀬さんがこれまで演じてきた役にはあまり無いキャラですが、吉瀬さんが『せっかくなら原作の津幡に近づけたい』と提案して下さって、原作通りのビジュアルにしました。ポスター撮影の時にそのビジュアルを初めて見たのですが、新鮮かつ痛快な気持ちになって『吉瀬さんでやっぱり良かった』と思いました」

原作では三瓶が主人公ではあるが、ドラマではミヤビが主人公としてストーリーが展開される。“主人公を入れ替える”という大胆な采配を決断した理由について、米田氏は「ミヤビだけではなく毎話登場する患者に少しでも近い目線で描けたら、という願いがありました」と説明を始める。

「『本作は生きる力を感じられる物語にしたい』と考えており、ミヤビを主人公に据えることで、困難を抱えながらも日々懸命に生きている姿を彼女の目線で描けます。ミヤビが朝起きて日記を読み返すシーンを繰り返し描いている理由も、ミヤビの苦労や強さを見せるためです。また、そんなミヤビが患者に寄り添っていると、視聴者に患者の葛藤や挑戦をより想像してもらいやすくなると考えました」

とはいえ、原作者・子鹿ゆずる氏は主人公変更という提案をどう受け止めたのか。
しかし、この大胆なアイデアは子鹿氏に快く受け入れてもらったと振り返る。

「私が原作を見つけた時点で、映像化のオファーがたくさんあったそうです。やはり『ミヤビを主人公にしたい』という思いが強く、リスク覚悟で三瓶ではなくミヤビを主人公にした状態で企画提案しました。子鹿先生からは『面白い挑戦ですね』『ミヤビが主人公の作品を見てみたい』と面白がってもらいました。子鹿先生は『女性の心情はあまり描けません』『だから三瓶を主人公にしました』と冗談めかしに話したんです。だからこそ『自分では描けないミヤビの心情がどのように描かれるのか』ということに興味を持たれ、結果的にそこが決め手になってドラマ化させていただくことになりました」

すでに数話放送されており、子鹿氏のリアクションも気になるところではあるが、子鹿氏からは「視聴者として楽しんでいます」という連絡をもらったと米田氏は口にした。


『アンメット ある脳外科医の日記』の注目度を大きく高めた要因として、やはり1話に登場した失語症を患った赤嶺レナ(中村映里子)の存在が大きい。失語症に苦しむレナの姿を見事に表現した中村の熱演により、視聴者の心をグッと掴んだ印象を受ける。インパクト十分のこのシーンの裏側を聞くと、「レナのおかれた状態を、レナの目線で視聴者が体感できるような表現を目指しました。一方で、当事者の方々が不快に感じたり、誤解を招いたりするような表現にならないように細心の注意を払いました」と話す。

「とはいえ、失語症と言っても人によっては症状が異なり、確実な正解がないために手探り状態が続きました。ただ、私の母親が数年前に脳腫瘍の手術を受ける前、『神経を傷つけた場合に言葉が失われるかもしれない』という説明をお医者さんから受けたことがあります。
その際に『言葉が失われるかもしれない』ということを、『ハングル語のように聞こえることがある』『聞いたことのない外国語が飛び交っているように聞こえる』など具体的に説明してもらいました。こうした私の経験も1つのヒントとして、 子鹿先生はもちろん、医療監修してくれる先生といろいろ話ながら進めました」

最後に『アンメット ある脳外科医の日記』をどのように楽しんでほしいのかに関しては、米田氏は「どう楽しんでいただくかは人それぞれです。思い思いの楽しみ方をしていただき、その中で私たちのメッセージを受け取ってもらえると嬉しいです」と語ってくれた。

『アンメット』は毎週月曜夜10時からカンテレ・フジテレビ系で放送中だ。

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