【写真】ドラマファン待望のドラマ『海のはじまり』
そして物語は現代パートへ。海からランドセルを見せてもらった夏(目黒蓮)は、「水季がこれにしたの?」と問いかけると、「海に選ばせてくれた!」と笑顔で返す。思い返してみると、第2話で水季は母の朱音(大竹しのぶ)に、「海に選ばせてあげて。正解を教えるより、自分の意思で選ぶことを大事にさせてあげて」と語っていた。海は自分の意思で<選択>ができる女の子なのである。
一方の夏は、恋人の弥生(有村架純)に「“うん"と“ううん"の間みたいな返事、やめれる?」と注意されていたくらい、自分で<選択>ができないキャラクターだ。<選択>する娘と、<選択>できない父親。第1話から丁寧に描かれてきた<選択>というテーマが、ランドセルをモチーフにして描かれている。おそらくこのドラマは、今後も通奏低音として<選択>をドラマに忍ばせていくだろう。
やがて夏、海、弥生の3人は、かつて水季が勤めていた図書館へ遊びに行く。
他者から何かを指摘されると、すぐに「すいません」と謝罪して、本当の思いを胸の奥にしまいこんできた夏。実はこれが、第3話のクライマックスに向けて大きな伏線となっていく。
今回のエピソードのクライマックスは、夏が海に「なんで元気なふりするの?」と問いかけるシーンだろう。「水季死んで、悲しいでしょ?何をしていても、思い出してきついと思うし。何で?泣いたりすればいいのに」。デリカシーのない言動に感じた弥生は、慌てて「やめなよ」と制止するが、夏はやめない。「元気ぶっても意味ないし。
ふだんの夏なら、弥生に注意された時点ですぐに「あ…そうだね…ごめん…悪かった…」と歯切れの悪い返事をしていたことだろう。だが、少しずつだが父親としての自覚を抱くようになってきた彼は、毅然とした表情で、でも柔らかな口調で、海に「泣いていいんだよ」と語りかける。確実に夏は、<選択>するキャラクターへと変化している。
これまで抑えてきた感情が溢れた海は、泣きながら夏にしがみつく。シャツの背中をぎゅっと握りしめる。実はオープニングでも、抱きしめられたときに海は水季のシャツの背中をぎゅっと握りしめていた。母を抱きしめ、父を抱きしめるとき、彼女は「どこにも行かないで」という思いを、“シャツの背中をぎゅっと握りしめる”という行動で示すのである。
実はこの第3話では、もうひとつ“ぎゅっと握りしめる”シーンがある。水季の母・朱音が、「30年前、ベビーカーみるとイライラしていた」と心のうちを吐露するとき、思わず洗濯物のえりをぎゅっと握っていたのだ。
視聴者の心のひだにそっと触れるような静謐なトーンで、第4話以降も夏、海、弥生の物語が紡がれることになるだろう。
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