今月20日、東京・TDCホールにて、3月18日に発売されるAKB48のニューシングルを歌う選抜メンバーが発表された。センターは高校3年生の山内瑞葵(みずき)。
ファンからは“ずっきー”と呼ばれている、ニューヒロインの誕生だ。

発表の内容を知らなかった山内は驚きと困惑を隠さなかった。マイクを向けられると、「(センターが)まさかの私だったので、震えが止まらないんですけど、選んでいただいたからにはAKB48を楽しく元気に見てもらえるように頑張りたい」と抱負を語った。ステージからハケるまでの途中、同期の浅井七海は思わず山内に抱きついて祝福した。

AKB48のファンであれば、彼女の人となりを理解しているだろうが、姉妹グループのファンは名前を知っている程度かもしれない。しかし、彼女を深く知れば知るほど、応援の気持ちが芽生えてくる。

まず知っておきたいのは華麗なる経歴だ。幼稚園の頃、ミュージカルが好きな父に連れられて『ライオンキング』を観終わると、「ヤングナラ役、できる?」と父に聞かれたという。何も考えずに、「できる!」と答えると、劇団四季のジュニアクラスを受けることになり、見事合格。レッスンに通うようになる。

小2でジュニアクラス(小2~中3)入りすると、『ドリーミング』で初舞台を踏んだ。その後、『ライオンキング』『葉っぱのフレディ』『マリアと緑のプリンセス』などに出演。
すべてオーディションで勝ち取った役だ。レッスンではヒップホップ、ジャズ、バレエを経験。歌と芝居のレッスンも重ねた。『ライオンキング』では幼稚園の頃に憧れたヤングナラ役を務めた。

ミュージカルまっしぐらだった人生に変化が訪れるのは、小6の頃。『ライオンキング』の楽屋へと挨拶に訪れたアイドルがいた。HKT48で活動をスタートさせていた宮脇咲良だった。地元・鹿児島でミュージカルスクールに通って腕を磨いていた宮脇は、『ライオンキング』のヤングナラ役をすでに務めていた。つまり、山内の先輩だ。アイドルそっちのけの人生を送ってきた山内にとって、間近で見るアイドルの姿は輝いて見えた。「その時からアイドルというものがどんどん大きな存在になっていきました」と当時を振り返る。

いつしか、自分もアイドルになりたいと考えるようになっていた山内は、何を受ければいいのか迷っていた。
中3になり、進路も考えなくてはならない。そのタイミングで募集がかけられていたのが、AKB48の16期生オーディションだった。ミュージカルも好きだけど、アイドルは若いうちしかできない。もう迷う理由はなくなっていた。

劇団四季で揉まれた山内は、16期生の中でも目立つ存在だった。パフォーマンスが圧倒的なのだ。アイドルらしい曲ではかわいさを前に出せたし、いわゆるダンス曲ではキレで観る者を圧倒した。

あどけない顔立ちながら、公演ではバキバキのダンス曲をソロで踊る機会も与えられた。へそ出し衣装から見える腹筋は割れていた。その踊りを目の当たりにした、AKB48の劇場公演に長年関わるスタッフが、「一人だけ出来上がっているのがいるな」とつぶやいたという。

パフォーマンスでは目を引く存在だったが、自分の性格に悩んでいた。人見知りなのだ。
先輩と打ち解けられないから、MCではうまく話すことができない。アイドルはダンスだけでは人気爆発とはいかない世界だ。学校の授業中にさされても、「頭が真っ白になります」という彼女には、突破すべき壁が内面にあった。ここは、自分を積極的に表現しないと目立てない世界なのだ。

一昨年、シングル『Teacher Teacher』で初選抜になると、『NO WAY MAN』『ジワるDAYS』でも選抜入りを果たした。カップリング曲ではセンターに立ったものの、『サステナブル』では選抜入りを逃した。キャリア数年でその位置にいることは立派だが、客観的に見れば選抜の当落線上にいるメンバーだったといえる。

昨年の秋頃だろうか、山内は自らを「魔法使い」と名乗るようになった。何があったかはわからないが、とにかく名乗りはじめた。すると、どうだろう。公演のMCにもすっと入っていけるようになった。キャラを手にしたことで自信をつけたように見えた(このあたりは本人に確認しないとわからないが)。


センター発表から間もない1月26日、山内瑞葵のソロコンサート「“MY” Revolution」が開催された。ある時は魔法使いキャラを、ある時はダンスを前面に押し出した。

アンコールで、彼女は手紙を朗読した。これまで歩んできた道のりを話し終え、ファンへの感謝を読み上げる途中、涙ぐんだ。今までの彼女だったら泣いていただろう。劇場公演中に「いい曲だから」という理由で涙するのは定番だし、「インタビュー中に泣かれた」という取材者は少なくないからだ。私もコンサートのどこかで泣いてしまうだろうと予想していた。

しかし、だ。新センターはこみ上げてくる思いをぐっとこらえ、手紙を最後まで読み続けた。それは泣き虫からの卒業宣言であり、真ん中に立つ者の決意表明でもあるかに見えた。それが、コンサートタイトルにもある、彼女なりの革命なのだ。もう以前の私ではない。
手紙の行間からは成長が滲んできた。

会場のTDCホールには、同期である16期生からの花が届いていた。山内が愛されている存在だという証明だ。コンサート本編にも16期生は登場し、『抱きつこうか?』をともに披露した。

2年ちょっと前に取材した時、彼女はこう答えた。

「最終的に目指しているのはセンターです。1年後、いや、2年後かな」

 読み上げた手紙の中にも、こう記してあった。

「AKB48にとって欠かせない存在になる。AKB48のセンターを任せてもらえる存在になる。この目標は、実は加入してから毎日必ず一日一回以上、自分の心の中で思い続けていました」

目標は現実となった。これからどうなるかは彼女次第。革命の狼煙は上がったばかりだ。
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