現在放送中のTVアニメ『推しが武道館いってくれたら死ぬ』。原作者の平尾アウリ先生が、まさに今、武道館を目指す虹のコンキスタドール、そしてでんぱ組.incのメンバーである根本凪と語るスペシャル対談。
後編では、各キャラクターの誕生秘話から平尾先生のオタク話までよりディープな内容に。根本の『推し武道』愛もさらに炸裂します。(2回連載の2回目)
<前編「アイドルが武道館を目指すワケ」より続く>

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──えりぴよという、ディープなオタクを主人公に添えようと思われた理由は?

平尾 それは単純に私がオタクで、アイドルじゃないからです(笑)。気持ちとしてはオタクの方なら分かるじゃないですか。なので、えりぴよを始めオタクたちは、私や私の周りのオタク友達の経験を活かしているんですよね。珍しいキャラと言われがちですが、個人的には超普通。
こういうオタクいるじゃないですか。

──言える範囲で良いのですが、登場するエピソードで実話をベースにした箇所は?

平尾 ほぼ実話ベースです。例えばえりぴよが舞菜に興奮しすぎて鼻血出して倒れるシーン。あれは友達が実際に体験した出来事です。

根本 アウリ先生が経験されたエピソードはどれですか?

平尾 これはさすがに……ただ、えりぴよの失敗エピソードには、自分が今まで失敗した接触体験をメチャ入れています(笑)。漫画に描いて昔の自分の経験を笑ってもらおうって。
笑ってもらえれば私の失敗も良い方に昇華できると思ったんですよ。

根本 超レア情報! もしかして、ヒゲつけて竹馬乗って登場したりしたんですか?

平尾 さすがにあそこまでのことはしません(苦笑)。

──(笑)。えりぴよは舞菜のために洋服を全て売り払い日夜バイトに精を出し、くまさは応援のために仕事を辞めるなど『推し武道』はある意味、アイドルオタクの業の深さも描いています。虹コン、でんぱ組の根本さんファンで、ここまで人生を捧げるファンの方って今までいらっしゃいましたか?

根本 さすがにえりぴよさん、くまささんクラスの方は分かりませんが、現場に来すぎて留年しまくっている人は見かけたことがあります(笑)。

平尾 それはリアルに業が深い(笑)。


根本 「また留年しちゃったよぉ~」という声がたびたび聞こえてくるんですよ。そういう時に、私たちはなんと罪深いんだ、ゴメン! と申し訳なくなります。

──えりぴよは舞菜に対して過剰な愛情を見せますが、いわゆる“厄介”の描写がないですよね。それは意図されてのことですか?

平尾 はい、オタクが嫌われるのはイヤなんですよ。繋がったとか暴れたとか。そういうのを描いて誰が幸せになるのかと。
悪く描くことを求められる声がやはり多いのですが、ヒドく描いてオタクが嫌われるのはイヤだし、そんなものを描いて私も嫌われたくないし(笑)。

一同 (笑)。

平尾 なので、オタク造形は基本「悪い人はいない」をベースにしています。それに正直、悪い部分を描く作品はたくさんあるじゃないですか。ファンタジーとリアルの間にある、アイドルとオタクとの幸せな関係を描く方が私としても楽しいんです。

根本 素晴らしい! 原作で途中からアイドル現場で出禁を繰り返すイケメンオタクが出てくるじゃないですか。
なのにアウリ先生がすぐさま「不穏な展開になりません」と注意書きをされていて、安心させられました。

平尾 いるだけで現場がザワつくイケメンキャラもいないと不自然かなと思いまして。ただ特に害にはならないっていう。

根本 むしろ、その後もイケメンが出てくるたびに、あの注意書きを思い出して逆に可哀想になってきちゃうんですよ。しかも、悔しいけど目の保養になってしまうほどのイケメンで(笑)。

平尾 逆にそこまでの感想をもらえるキャラと思ってなかったので驚いてます(笑)。


──もう一つの主役、ChamJamというアイドルはどのように形作っていきました?

平尾 ChamJamは「どこにでもいる、よくあるグループ」にしたかったんですよ。いわゆる正当派で。……この質問、難しいですね。初めて聞かれた質問なので(笑)。

根本 初の話を聞ける!!

平尾 そうですね、岡山の中でもあまり売れていないけれど、毎週熱心なオタクが30名ぐらい通い詰めるぐらいには影響力がある、小中規模の地方アイドルの一つという感じですね。ただ、漫画で描いていると、なんか微妙に現場に人が多いなぁと(笑)。

根本 アニメでは明らかに30名以上ファンがいますよね。

平尾 そう! 1話とか大人気グループみたいでしたよね。

根本 会場には電工スクリーンが置いてあって、虹コンでも滅多にやらせてもらえないような豪華な演出でライブしている! って思いました(笑)。

──キャラクターはどのような順番で作っていきましたか?

平尾 最初は舞菜。続いてれお、空音。実はその3人までしか設定は考えていなくて、後は原稿でぶっつけ本番。描いていくうちに徐々に人物像が見えてくればいいなと進めていきました。

──グループで何か参考になったり、モデルになったアイドルは?

平尾 それぞれの顔にはモデルがあるのですが、グループとしては全く。要素をどこからかいただくこともなく、脳内から出てきた完全に私プロデュースのアイドルグループです。

根本 アウリ先生としてはChamJamちゃん達は、売れそうだなと思いますか?

平尾 いや、絶対に売れませんよ(キッパリ)。逆に言うと売れたらダメなんです。

──武道館を目指すグループなのに!

平尾 だって、売れたら武道館に行っちゃうじゃないですか(笑)。

根本 物語の根本から覆る発言ですね(笑)。けど、その気持ちも分かります。基さんが売れてしまうと手が届かない存在になってしまうと、葛藤するじゃないですか。自分だけのアイドルでいて欲しいっていう部分、私も少しあるので。

平尾 その気持ちもありつつ、まだまだ話が続くので今はもうちょっと苦労してもらおうかなと。

根本 アウリ先生側の事情でしたか(笑)。

──アイドル好きでもある根本さんから見たChamJamの魅力はどこですか?

根本 これ、ありすぎます。まず、一人ひとり、個性がシッカリしているんですよ。セクシー担当の眞妃ちゃんもいれば、ロリ担当の文ちゃんもいてと隙がない。あとファンのみんなと協力して空気を作れている。彼女たちは前後列というシステムがあるので、そういうルールは本人たちもファンたちも辛いはず。それでもファンの人たちが「あの子を前列に立たせたい!」と熱くなるじゃないですか。ファンとアイドルが二人三脚で頑張り続ける関係性、ステキ。その熱量を共有するのって難しいんですよ。ファンのみんなが強く願うことが私たちに届かないことも、その逆もあって。けどChamJamはファンのみんなとその熱量をちゃんと共有できているんですよね。

平尾 (静かに聞き入る)

根本 あと活動拠点が岡山で、東京での初ライブが五反田で人が集まらなかったのもナイス! 東京までの物理的距離と、武道館という夢の場所までの距離がすごくシンクロするんですよ。言葉を借りるなら、「マイナスからのスタート」。メチャ推せる。私、言ってしまうと、恵まれたアイドルさんが推せないんですよ(笑)。

一同 (笑)。

根本 それに個々がシッカリしているから、何か葛藤があってもそれをちゃんとぶつけ合える心の中の土俵が彼女たち全員にあるんですよね。文ちゃんがあることで空音ちゃんに怒って、それをちゃんと空音ちゃんが受け止めるところとか、尊すぎる!!……って公式の目の前でこんなに熱くなって申し訳ないです!

平尾 いえいえ! 現役の人気アイドルの方にここまで熱くなってもらえるのは、嬉しいですよ。

根本 今、メチャ冷汗出てます(笑)。

──因みに根本さん的には推しは?

根本 箱推しです(即答)。好きなアイドルさんは基本箱推しになっちゃうんですよ。みんな可愛いから。

──そう言えば、劇中には箱推しのオタクが一人も登場しませんね。

平尾 そうなんですよ! 私が箱推しをした経験がない上に、周りも単推しが多いから、箱推しのキャラを出す概念がなくて。今言われて気づきましたよ、そうだ箱推しのオタクがいた。これもいないと不自然ですよね。

──これから根本さんから箱推しの美学を学んで、箱推しキャラを出すのも……。

平尾 それ、アリですね。

根本 マジですか?  良ければなんでも答えますよ!

──そろそろお開きのお時間がやってまいりました。最後にお二人が互いの未来に期待することを語っていただきましょう。

平尾 私、てっきり虹コンさんのようなキラキラしたグループさんは武道館に立っているものだと思っていたんですよ。今日お話ししていても思いましたが、こんな可愛いんですから、今の勢いのまま絶対に武道館に行きますよ。ぜひ夢、実現してほしいですよ。

根本 ありがたいお言葉! ZeppTokyoに立つまで5年かかったので、あと5年かかる覚悟を決めていますが必ず! 私からは願わくはChamJamちゃんたちにも武道館に立ってもらいたい。その道は大変ですが、えりぴよさんたちファンの応援を受けて、一人も欠けることなく、苦しい想い、辛い思いもせず、ケガなく健やかに夢の舞台に突き進んでほしいです!

──もはやただの一オタの願いですね(笑)。

根本 そしてえりぴよさんたちにも幸せになってほしい。どうかバイトのし過ぎで無理がたたり、死にませんように……(手を合わせ祈る)。

平尾 死なせないように頑張ります!

▽TVアニメ「推しが武道館いってくれたら死ぬ」
<STAFF>
原作:平尾アウリ(徳間書店 リュウコミックス)
監督:山本裕介 
シリーズ構成:赤尾でこ 
キャラクターデザイン:下谷智之/米澤優
CGディレクター:生原雄次 
色彩設計:藤木由香里 
美術監督:益田健太 
美術設定:藤瀬智康
撮影監督:浅村徹 
編集  :内田恵
音響監督:明田川仁 
音響効果:上野励
音楽  :日向萌 
アニメーション制作:エイトビット

OPテーマ ChamJam『Clover wish』
EDテーマ えりぴよ(CV:ファイルーズあい)『△桃色片想い△』(※△はハート記号)
劇中歌「ずっとChamJam」(歌:ChamJam)
MV:https://www.youtube.com/watch?v=F3iaZO0RV1c

<CAST>
えりぴよ:ファイルーズあい 市井舞菜:立花日菜 
五十嵐れお:本渡 楓 松山空音:長谷川育美 伯方眞妃:榎吉麻弥 水守ゆめ莉:石原夏織 寺本優佳:和多田美咲 横田 文:伊藤麻菜美
くまさ:前野智昭 基:山谷祥生 玲奈:市ノ瀬加那

<ON AIR>
TBS:毎週木曜日 深夜1:28~放送中
BS-TBS:毎週土曜日 深夜2:00~放送中

<配信情報>
TVアニメ「推しが武道館いってくれたら死ぬ」FOD独占配信
 毎週金曜日6時最新話配信 第1話無料配信中
https://fod.fujitv.co.jp/s/genre/anime/ser5a87/

<COMICS>
「推しが武道館いってくれたら死ぬ」は『COMICリュウweb』(徳間書店)にて連載中。
第1巻~第6巻が現在発売中。

▽虹のコンキスタドール
https://2zicon.tokyo/

▽でんぱ組.inc
https://dempagumi.tokyo/

▽根本凪 Twitter
https://twitter.com/nemoto_nagi

(c)平尾アウリ・徳間書店/推し武道製作委員会