【写真】『カルキ 2898-AD』場面写真【9点】
〇ストーリー
2898年の未来。世界は荒廃し、地上最後の都市カーシーは、200歳の支配者スプリーム・ヤスキンと、空に浮かぶ巨大要塞コンプレックスに支配されていた。しかし、奴隷のスマティが宇宙の悪を滅ぼす“運命の子”を身ごもったことで、コンプレックスと反乱軍の大戦争の火ぶたが切られる!そこへ一匹狼の賞金稼ぎバイラヴァが加わり、過去の宿命が動き出す!!果たして勝利を得るのは誰なのか?そしてスマティは身ごもった救世主“カルキ”を、この世界に送り出すことができるのか?
〇おすすめポイント
1月3日に公開された『カルキ 2898-AD』。新年早々にインド映画が公開されるとは、良いスタートになることを願っている。
そんな同作は、サンディエゴのコミコンで詳細なヴィジュアルがお披露目となり、アメリカのコミコンステージ(よくマーベルやDC映画のキャストがインタビューに答えているところ)で企画が発表された初めてのインド映画となったほど、アメリカと共同でプロモーションを行った作品である。
「バーフバリ」でお馴染みのプラバース主演ということは大前提として、今作がそこまで話題となった理由としては、ユニバースものとして、スピンオフはもちろん、アニメやコミック化などを想定した本格的なメディアミックスとしても注目されていたからだ。ちなみに日本でも前日譚となる短編アニメ『ブッジ&バイラヴァ』がJAIHOとHuluで配信中。
今までにも「バーフバリ」や「シンガム」シリーズのように、のちにコミックやアニメ化される作品はいくつかあったものの、それを最初から想定して制作されたものは珍しい。また同時にSF大作としても、インドがどこまでできるかに注目が集まっていたというわけだ。
インドといえば、今やハリウッドなどから外注されるほど、VFXに関しては世界トップレベルの技術を持っているのだが、実はピンキリだったりもする。例えばタミル語映画『Captain』(2022)やプラバース主演でいうと『Adipurush』(2023)のように、少し前のプレステレベルな作品も多々あるからだ。その点では、今作は最高峰といえるクオリティ。
インドが制作したSF映画で、これほどのものは観たことがない。一気にインドにおけるSFの可能性を広げたといえるだろう。
明らかにヴィジュアルが「デューン」で、所々にマーベルやスター・ウォーズのコピペ状態だったことは、ひとまず置いておいて、パート2に関しては、2024年5月の時点で、すでに60%が完成しており、キャストたちが自分の役割についてコメントしていることから、企画倒れということは無さそうだ。このシリーズが、どこまで走り続けてくれるかには期待したい。
今作の下敷きになっているのは、ヒンドゥー神話「マハーバーラタ」であるが、「マハーバーラタ」とSFの組み合わせ自体は、それほど珍しいものではない。コミックでいえば、グラント・モリソンによる「18 Days」もそうだ。
ただ一方で、宗教離れが進むZ世代にとっては、ヒンドゥー神話を題材とした作品は、あまり好まれていなかったりもして、今後、神話を真正面から扱った作品は減っていくだろう。何が言いたいかというと、今作のターゲットが、比較的若い世代にしていくのであれば、神話という基盤から離れて、どれだけオリジナリティに向かっていき、そのなかで今後の勝負である。
ユニバース化という点で話をすると、インドでは、現在いくつものユニバース作品が企画されている。
『ブラフマーストラ』(2022)の「アストラバース」3部作に関しては、冒頭に登場するシャー・ルク・カーン演じるモハンが、監督のアヤーン・ムカルジーが助監督を務めた『Swades: We, the People』(2004)のキャラクターが、もし力を手に入れていたら~という裏設定があるなど、マインドがコミックオタクらしいものも。
もちろん、全部が全部というわけではないが、インド映画の続編というと、「Baaghi」シリーズのように、設定がリセットされ、主演俳優やキャラクター名が同じでも繋がっていないことの方が圧倒的に多かった。
それはソフトやケーブルテレビなどでしか、過去作を観れない問題があったからだろう。しかし現在は、配信サービスが普及しているため、簡単に過去作にアクセスが可能となった。それによって、直接的な続編制作にそれほど抵抗が無くなったのではないだろうか。
そんな続編事情に加え、ここ近年でユニバース作品の制作が加速している理由としては、やはりマーベルやDC映画の影響としか言いようがない。日本の漫画や映画を見てもアメコミの影響が色濃く出てきているのだから、インドも例外ではない。
単純にアメリカのBox Officeにランクインするほど、インド映画の世界公開が一般的になってきている昨今ではあるが、メディアミックスによって、よりインドエンタメが身近になることは間違いないのだ。
例えばコミック化されれば、それをアメリカで翻訳出版されるかもしれないし、ゲーム化であれば、ネットを通じて誰でもアクセスできる。過去に『ラ・ワン』や『闇の帝王DON ベルリン強奪作戦』(同作ともに2011)など、ゲームとの連動作品もあったが、当時は電力の問題もあったりして、ゲーム機自体がそこまで普及していなかった。
ところが今では、環境が180度違っている。
さらにドラマが映画化、映画がドラマ化される流れも来るだろう。…と思っていたら丁度、Amazonプライムの人気ドラマ「ミルザープル~抗争の街~」の映画化が決定したというニュースが飛び込んできた。日本ではドラマが映画化することなど日常茶飯事ではあるが、インドでは、かなり珍しい。
もし、この試みが成功すれば、ドラマが映画化され、それが世界で上映され、それを観たユーザーがインドドラマに夢中になる流れがより激化するはずだ。
Hotstar作品が配信されていない日本では実感がないかもしれないが、ドラマ「ミズ・マーベル」でカマラの父親を演じているモハン・カプールは、インドドラマ界では名バイプレイヤーであり、Disney+Hotstarドラマにもいくつか出演している。つまりインドドラマへのアピールは、すでに様々な作品で始まっている。2025年3月から配信予定の「デアデビル: ボーン・アゲイン」にも登場するのは、明らかにそういう意味だ。
インドドラマは、今や韓国ドラマを追い抜くほどにハイクオリティの作品が、ひしめき合っている状態で、日本で話題になっていないことが怪奇現象のようにも思えるほど。
今後、映画とドラマなどの様々なメディア連動が一般的になってくると、さすがに日本であっても無視できなくなってくるはずだ。
ただ、マーベル、DCもそうだが、映画連動をやり過ぎて飽きられてしまう心配は付いて回るだろう。その程よいバランスを見つけ出すのは、エンタメ界の永遠のテーマかもしれない……。
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〇作品情報
監督:ナーグ・アシュウィン
出演:プラバース、ディーピカー・パードゥコーン、アミターブ・バッチャンほか
2024|インド|テルグ語|シネスコ|5.1ch
字幕翻訳:藤井美佳
字幕監修:山田桂子|提供:ツイン、Hulu
配給:ツイン
映倫:G
公式サイト:kalki-movie.com
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