「栃木県生まれの眉毛ガール」井上咲楽の政治家対談、今回は環境大臣や東京オリンピック・パラリンピック担当大臣などを歴任してきた丸川珠代議員が登場。トップ当選を果たしても変わらない、議員としての心得とは。


※取材は2020年1月8日に行いました

井上 昨年の参議院選挙のとき、亀戸での街頭演説の後、丸川さんに直撃取材させていただきました。

丸川 そうか! あのときにいらしていたんですね。ありがとうございました。選挙中だったからものすごくバタバタだったでしょう。あんまりゆっくりお話する余裕もなくて、申し訳ありませんでした。でも、すごくしっかりした質問をされるから、素晴らしいなと思っていました。井上さんは今おいくつなんですか?

井上 去年20歳になりました。

丸川 20歳! 有権者3年目かあ。我々、バブル世代は20歳の頃、もっとこう、のんびりふわふわしていたので驚きです。若い人は楽しく、楽しく世の中を生きることに力を傾けて、真剣に政治のことや自分の人生がどうなるかなんて心配はあんまりしてなかったかもしれない。ただ、私は平成5年にテレビ朝日に入社したんですけど、だんだん就職の状況が厳しくなっていました。私の大学でも、就職浪人をする人がいましたから。


井上 東大生でもですか!

丸川 そう! もちろん、本人の選択の自由ですから、余裕があっての浪人だったかもしれないけど。確かに、就職氷河期の始まりで、うちは主人(衆議院議員の大塚拓氏)が2つ下なんですけど、そのくらいから本格的になって……。でもそれも、井上さんにしてみるとはるか昔の話よね?

井上 私、’99年生まれです。

丸川 うわ! じゃあ、就職氷河期が始まった頃はまだ生まれてないんだ。ということは、私はお母さんでもおかしくないってことですね……。ショック。うちはまだ子どもが7歳なんです。私は結婚も含め、いろんな意味でタイミングがズレてはいるんですけど。

井上 私も妹が下に3人いて、一番下が9歳です。

丸川 2歳しか違わないんだ。出身は東京ですか?

井上 生まれは栃木ですが、今は東京に住んでいます。

丸川 栃木のどちら?

井上 益子町というところで……。


丸川 焼き物の町だ。

井上 そうです! 益子焼で有名な益子町です。

丸川 いつから東京においでになったんですか?

井上 東京に住み始めたのは、18歳のときですね。地元の高校を卒業するまでは、お仕事のたびに益子から通っていました。

丸川 通いで仕事をしていたの!?

井上 はい(笑)。でも、その頃はまだそんなに仕事も多くなかったのでなんとかなっていました。

丸川 でも、大変だったでしょう?

井上 最後の方はちょっとだけ大変でした。今、お話させていただいていても感じますし、参院選のときも思ったんですけど、丸川さんは人と会話するときの向き合い方がすごく丁寧ですよね。

丸川 ありがとうございます。

井上 もちろん、街頭で会う有権者の方への接し方もとても丁寧で、取材しながら、やっぱり当選される方は違う! と思ったんです。

丸川 最初に当選した選挙が13年前になるんですけど、ちょうど自民党がとても厳しい時期の選挙(旧民主党に破れ、結党以来初めて参議院第一党の座を失う)だったんですね。そんな中で当選して、本当に1人1票なんだなと実感したんです。


井上 1人1票?

丸川 私は69万1367票いただきました。1人1票と考えたとき、私は69万まで1、2、3、4……と数字を数えたことがない、と気づいて。ないですよね?

井上 ないです。

丸川 あんまりこういうことを考えて選挙活動をしている人はいないかもしれないけど、私は本当に1人から1票をいただいたのだなと思ったんですね。しかも、1票1票みんな1人ひとりのもの。誰もが平等に1票しか持っていない。それを積み重ねた結果が約69万票になっている。私が数えたことのない数字の数だけ応援してもらって、当選したんだと思ったら、ちょっと身震いするような重圧と感動があって。これは大事にしなくちゃいけない。どんなに組織やチームがあっても、1人1票。これを忘れないでいようと思ってずっとやっています。

井上 それはぶっちぎりでのトップ当選(参院選東京選挙区で約114万票を獲得)を果たされても、変わりませんか?

丸川 もちろんです。
最初の選挙で刻まれた感覚から変わっていません。

井上 個人的にすごく気になっている都知事選について聞いてもいいですか?

丸川 もちろん。どうぞ。

井上 私は今の構図を不思議に思っていて。前回の都知事選で野党は小池さんを支持していました。でも、今回はこのままいくと自民党が小池さんを推す方向で、野党は統一候補として山本太郎さん……もありそうだなと思っています。丸川さんは、どう感じていらっしゃいますか?

丸川 野党の皆さんがどうされるかは想像がつかないんですけど、私たちは小池さんが前回の選挙で示されたことをどのくらいなさっているかを見ています。また、オリンピック・パラリンピックの成功のためにはどうしたらいいかも考えています。

井上 次の都知事は東京オリンピック・パラリンピックの顔ですもんね。

丸川 準備期間も当然大切ですが、直前こそ一番大変な時期だとも思っているんですね。今までオリンピック・パラリンピックを開催した国から聞くと、入念に準備をしても直前に予想外のことが起きると言います。

井上 そうなんですか?

丸川 たとえば、イギリス。
ロンドンオリンピックの直前になって警備員が1000人単位で足りないことが発覚。とにかくかき集めたものの、どうしても足りずに、女王陛下の護衛をしていらっしゃる部隊にオリンピックのVIP警備に回っていただいたと伺いました。東京で同じことが起きるとは思っていませんが、「あ、ここの数値、ゼロを1桁間違えている!」なんて夢を見てしまうくらい心配は尽きません。

井上 丸川さんは、元東京オリンピック・パラリンピック担当大臣ですもんね。

丸川 今も組織委員会の理事ですし、オリンピック・パラリンピックに対して強く責任を感じています。暑さ対策や交通問題。特に湾岸地域は大井埠頭、青海埠頭と大きなコンテナターミナルがあって、物流の大動脈です。ところが、晴海の選手村から羽田空港、あるいは豊洲にかけて選手、関係者の移動ルートが重なります。都も新たな道路を作りましたし、国もトンネルを作るなど支援をしました。それでも本番の運用には民間の皆さんの協力は不可欠。そういった場面にきちんと対応できる方が都知事であって欲しい。ですから、今度の都知事選は本当に難しい選択で、私たちがどういう形で選挙を戦うのかはまだもう少し様子を見ないと分からないですね。


井上 だからこその丸川さんの都知事選出馬は?

丸川 報道は目にしていますけど、まったく考えておりません(笑)。私は東京都全体を選挙区とする東京都選出の国会議員ですから、オリパラ後も強く意識しています。前回の東京オリンピックの後は、不況がきました。今回はそうならないため、どうしたらいいのか。東京はオリパラ後に向けてたくさんの再開発プロジェクトが待機しています。景気が良ければ順番に実現していき、街の魅力もどんどん高まって、ニューヨーク、パリ、ロンドンといった都市と戦える東京になっていくはずです。しかし、景気が落ち込んでしまうと再開発プロジェクトの中には止まってしまう案件も出るかもしれません。流れを途絶えさせないための対策を進めていくこと。これも大切な仕事の1つだと思っています。

井上 継続が大事なんですね。

丸川 もちろん、東京だけでなく全国も。オリパラ期間も含め、日本全国のいい映像をどれだけ海外に発信できるかが大事だなと思っています。おいでになった方がゴールデンルート(観光客がよく行くルート)以外のところにどれだけ足を運んでくださるかな、と。環境省もSNSを作るとき、日本語を英語に翻訳するのではなく、ネイティブの方に最初から作文をしてもらうというやり方を取りました。多言語化もそのレベルまで進めてきているんですね。その財源は皆さんが出国するときに払ってくださっている出国税です。各地域の国立公園、空港、美術館、博物館も海外からのお客様が来やすいような環境に変えていきたいなと思っています。

井上 私、一般で応募して、地元の聖火ランナーになったんです!

丸川 すごい! とっても貴重な体験になると思いますよ。

井上 今までオリンピックはテレビで観るもので、違う世界の話という感覚でした。でも、物心ついてから初めて身近で開催されることになって、しかも自分が聖火ランナーをすることになって、今はぐっと身近に感じています。ただ、地方にはどこまでオリンピック・パラリンピックの恩恵があるのかな? という疑問もあります。私は田舎の出身なので、東京は盛り上がっているけど、会場のない地方はいまいちとならないかなって……。また、開催する側は熱気や恩恵をくまなく届かせたいと思っているのか。気になります。

丸川 それはオリパラを担当した大臣、組織委員会や事務局のメンバー、みんなが考えていることです。東京だけではない「日本のオリンピック」としてどうやって発信していくか。考えに考えてきました。

井上 そうなんですね。

丸川 たとえば、会期中に選手村では百万食以上の食事を選手、スタッフに提供します。その食材は全国から集まるわけで、産地を示すことができれば生産者の方、生産地の皆さんがオリパラに参加した意識が高まります。そこで、生産地の名称をどこまで表示していいか1つひとつをIOCと協議してきました。ようやく「何々県産」まで表示してよくなったんですが、その答え1つを引き出すまで本当に何年も話し合ってきたんですよ。

井上 え~!!

丸川 他にも、私がオリパラ大臣のときに、お花屋さんの業界の方から「被災地のお花をメダリストへのビクトリーブーケにしたい」というアイデアをいただきました。被災地支援として素晴らしいと思い、IOCと協議を重ね、ついこの間、正式発表にこぎ着けました。こちらも実現まで3年かかっています。なかなかニュースになりませんが、組織委員会をはじめスタッフは本当に地道な努力をしてくれているんです。

井上 政治の世界では、身近なことも細かく年月をかけてやっているんですね。

丸川 そうなの、1つひとつ素早く決まればいいんだけど、なかなかそうもいかなくて。でも、1人のスポーツファンとしてもオリパラは楽しみですね。自国開催は日本の選手にとってアドバンテージがあると思います。遠くまで移動し、環境に慣れる時間を取った上で競技に望まなくてもいいですから。おそらく過去最高のメダルの数が狙えるんじゃないかなと期待しています。しかも、自分たちの国の選手がメダルを取る瞬間を、行こうと思えば行ける距離の競技会場で見ることができます。

井上 そう考えると、改めてすごいことですよね。

丸川 井上さんをはじめ、聖火ランナーも日本全国を走るので、ぜひ一瞬でもいいからみんなに観に行って欲しいなと思います。

(取材・文/佐口賢作)
「取材を終えて」~井上咲楽の感想~オリンピックも、東京だけじゃなくて地方にも恩恵があるようにと、あまりビックニュースにはならないけど、とても喜ぶ人がいることを分かっていらっしゃいます。細かいところにも時間をかけて一生懸命に取り組まれている姿勢を見て、政治家という仕事のすごさを改めて感じました。そして、野党も与党もおかしな構図になっている都知事選、必ず大きな動きがあると思うので、しっかり取材していきます。丸川議員が <新たに選挙権を得た若い世代> に読んでほしい1冊
丸川珠代・元 東京オリパラ担当大臣「東京だけではない、日本のオリンピックにするために」

『逝きし世の面影』(渡辺京二 著/平凡社ライブラリー 刊)
日本の近代論や思想史を在野で研究してきた思想史家の渡辺京二氏による大作。幕末から明治に日本を訪れた、異邦人による訪日記を読破し、文化と文明を綴っていく。「外国人の視点で描かれる江戸時代後期の日本というのは本当に穏やかで、自然が豊かなんです。もちろん、貧しく苦しい思いもあったとは思いますが、今とは違う豊かさが見えてくる1冊。私が『日本人でよかったな』と思える暮らしの要素の根っこが書かれている、すごく好きな本です」
▽井上咲楽(いのうえ・さくら)
1999年10月2日生まれ、栃木県出身。A型。現在は『アッコにおまかせ』(TBS)などバラエティ番組を中心に活躍。
Twitter:@bling2sakura

▽丸川珠代(まるかわ・たまよ)
1971年1月19日生まれ、兵庫県出身。自由民主党所属の参議院議員。2007年初当選。環境大臣、オリンピック・パラリンピック担当大臣などを歴任。夫は衆議院議員の大塚拓氏。
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