とろサーモン久保田かずのぶ初の自叙伝『慟哭の冠』が大きな話題を読んでいる。YouTubeチャンネル「毎週キングコング」で紹介され大きな反響を呼ぶと、そのディープな内容も相まって各所で話題沸騰。
重版3刷を決定し、東京での出版記念イベントに続き、5月9日(金)には大阪でもイベントが実施される予定だ。今回は、上梓に際して久保田にインタビューを実施。久保田自身の考え方から、書籍を通してのメッセージまで話を聞いてみた。(前後編の後編)

【写真】早くも重版3刷りが決定した久保田かずのぶ初の自叙伝『慟哭の冠』【5点】

――書籍や久保田さんのエピソードトークでもわかる通り、何度も泥水をすすってきたかと思います。その中で、お笑いに関しては自分らしくいる矜持を強く感じたのですが、なぜブレずにいられたのでしょうか?

久保田 いろいろダメだったけど、お笑いだけはうまくいっていてここまで来られた。唯一自分に残されたものだった。お笑いも漫才も好きだし、好きなものだけは絶対に否定されたくないと思って、どんなことを言われようと頑張れたんです。すごいんだぞ俺はと。周りからはただの石に見えるかもしれないけど、磨いたらダイヤになるんだという気持ちでしたね。

――東京に出てきて一度仕事がない状況でも気持ちが折れたりはしなかったのでしょうか?

久保田 当時は否定されたというより場所がなかった感覚ですね。神様が振り向いてくれていないなと思いましたね。ずっと河川敷でお笑いという野球やっていると思っていたけど、キャッチャーもいない、カッチカチのうんこ投げているだけだったというか(笑)。


――そんな状況でも久保田さんには多くの後輩が周りにいて、慕われていたんだということが書籍ではよくわかります。

久保田 下にも頑張っているやつはいて、マインドは一緒なんですよ。徒党を組んで上をぶっ倒していくしかないと思っていました。環境とか状態とか、温度差もあると思いますけど、それが全部一致していたんですよね。

――人と出会い、人の優しさに気づくことで、新しい自分になるという話もありました。久保田さん自身は何回くらい新しい自分になっていますか?

久保田 むちゃくちゃいい質問ですね。うーん、4回かな。1は大阪で苦しんでいたとき。2は結婚してから最初の方に苦労があって仕事が増えだしたとき。3は東京に進出して地獄を見たとき。4は軌道に乗ってまた飯が食えるようになったときですかね。

――明確に4回もあると、人間的な成長も自分で感じられるのでしょうか?

久保田 もう感じまくりですよ。
親とか身内は、僕が大阪や東京でこんだけ苦労していることを知らんのですよ。だから、「かずのぶって元からからあんなやったかな。なんだったんだろう、私たちが見ていたのは」って言っているらしいですよ(笑)。

――成長している中でも、久保田さんは話題に事欠かずネットニュースになったり、炎上してしまうこともあるかと思います。それについてはあまり気にされないのでしょうか?

久保田 もうなんにもないですよ。慣れましたわ(笑)。SNSが発達して、事実がなにかもわからんような時代になったじゃないですか。俺がもうちょっと性格悪かったら、画像をうまいこと加工して支持を集められそうな気がしますけどね。それくらい本物が見えていないような気がします。

――表に出る方に限らず、日常でもSNSでも小競り合いがすぐに起きたり、生きづらく窮屈な時代になったように感じます。久保田さんからアドバイスするとしたら、いかがでしょうか?

久保田 生きていたら必ず不幸が降りかかるときってあるじゃないですか。ずっと幸せなまま死ぬって絶対にないと思うので。
解決できない苛立ちをぶつけるために、人のせいにしたりもしてしまう。たとえば、急に雨が降ったら嫌だし、傘持っていたらラッキーじゃないですか。でも、その雨さえも楽しむやつがいるんですよ。そういう考え方がいいんじゃないですかね。嫌なことや些細な不幸も楽しく明るく取れるような考え方を持ったほうがいいなと思います。

――改めて書籍についてもお聞かせください。どのような人に届いたら嬉しいでしょうか?

久保田 社会で困っていたり、弱いと自分のことを思っている方、窮屈に感じている方に読んでほしいですね。

――読者に向けた言葉である「なかがき」はSNSでの拡散も自由で、多くの人に刺さっている部分かと思います。ここに込められた思いを教えて下さい。

久保田 僕は本をめちゃくちゃ読むタイプじゃないんですけど、自伝ってその人の承認欲求だったり、「こんなことあってたまらんかってん。わかる?」という嘆きがありますよね。今の時代は「わかった」で終わってしまいそうな気がして。
だったら読んでいる人たちと照らし合わせて「辛いときがあったときはこういうふうにしてみればどうですか」という提案をしようと思いました。自伝プラスアルファで相手に対して何か言うことができればなと思い、わかりやすくなかがきというスタイルにしました。

――「なかがき」は心に響く一方で、久保田さんの半生だけを読んでもとにかくドラマチックで物語を読んでいるような感覚でした。

久保田 この本が映画化されればいいなと思っています(笑)。

――確かに映像化にすごく合いそうですよね。

久保田 昨日、中川家の剛さんから連絡きて、珍しくラリーが続いたんですよ。「本読んだよ。面白かった」と来て、「ありがとうございます」と返して。本来はここで終わるんですけど、また「ドラマ化できるよ」って来て。気使ってくれているのかなと思って、お辞儀の絵文字返して終わらせたつもりが「濃い内容やな。おもろい」って。そこから、お前の元嫁は米倉涼子にしろとか、久保田の役は浅野忠信にしろとか(笑)。
「そんな激渋おっさんじゃ誰も笑わんでしょ」と返して。監督は三谷幸喜さんで、歌舞伎町のキャバ嬢はゆうちゃみとか言っていましたけど、もうあの人が監督してるやんって(笑)。ずっと言ってきましたね。

――それだけ刺さった作品だったということですよね。最後に、改めて読者の方へメッセージをお願いします。

久保田 あなたの人生の登場人物になれてよかったです。

▽久保田のぶかず
1979年9月29日生まれ、宮崎県出身。2002年に村田秀亮と「とろサーモン」を結成。2017年M-1グランプリ王者。個人としては『ドキュメンタル8』で優勝するもお蔵入り、続く『ドキュメンタル9』(Amazon Prime)でも優勝し、キャリーオーバーも含めて賞金2,000万円を手にする。今回、初の自叙伝『慟哭の冠』(KADOKAWA)を上梓。発売前から話題に。
5月9日(金)には大阪・ロフトプラスワンウエストにて書籍の発売記念トークイベントを開催する(18時開場/19時開演)https://t.livepocket.jp/e/i3ft7

とろサーモン久保田の幸福論「生きていたら必ず不幸が降りかかる、ずっと幸せなまま死ぬって絶対にない」

▽『慟哭の冠』(KADOKAWA)
https://www.amazon.co.jp/dp/4041159474/

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