【画像】作家ウィリアム・S・バロウズが抱えていた感情の正体『Queer/クィア』場面カット【2点】
〇ストーリー
1950年。メキシコシティに駐在するアメリカ人のウィリアム・リー(ダニエル・クレイグ)は、小さなアメリカ人コミュニティのメンバーとわずかな接触がある程度の、退屈で孤独な日々を送っていた。そんなある日、彼はシティに来たばかりの元兵士ユージーン(ドリュー・スターキー)と出会う。その若く美しい青年は、リーに初めて、誰か大切な人と心を通わせられるかもしれないという期待を抱かせるが――。
〇おすすめポイント
『君の名前で僕を呼んで』(2017)がアカデミー賞など多くの映画賞で話題となったこともあり、世界的に評価されるようになったルカ・グァダニーノ。自身が同性愛者であるからこその経験や心情の変化を作品に落とし込むことが多いのだが、ルカの描き方は、常に”枠”に捉われていないことだ。
世間が当たり前としていることを常に疑い、人間の感情や絆の内部構造までも映し出そうとする。それはテーマが同性愛の場合だけに留まらず、『ボーンズ アンド オール』(2022)のようにカニバリズムであっても、それをマイノリティ、LGBTQ+の”+”部分のように描いていたことからも伝わるはずだ。
そして今作は、デヴィッド・クローネンバーグが監督を務めた『裸のランチ』(1992)の原作者としても知られるウィリアム・S・バロウズによる自伝的小説の映画化となっている。
今でこそクィアは、同性愛やトランスジェンダーとはまた違ったマイノリティをもった者という印象がつよいが、かつては”変わり者”のような悪い意味で使われおり、日本で出版された際にも「おかま」というタイトルになっていた。
それも含めて、人間というのは、すぐに言葉にしたがる生き物ではあるが、本来人間の思考や感情といったものは、言葉では表せないものもあったりする。今作の主人公ウィリアムが抱えているのは、まさにそういった感情であり、自分が何を求めているのかがわからない。同性愛や単純な快楽を求めているのかというと、そういうわけではない。
だからこそ、自分が同性愛者やクィアだとは認めようとしない。それこそ人間が勝手に決めつけたジャンルのようなものでしかないからだ。同性愛者を横目に見ながらウィリアムが求めているのは、常に人間としての絆なのかもしれない。
自分が何者であるかを探求しているようなウィリアムの思考を、現実と幻覚を交差させながら描いていく。心情の変化を繊細に描くことが得意なルカと、ウィリアム・S・バロウズの作品にあるトリップ感が見事なまでに表現されており、両者の個性を上手いバランスで融合させた作品といえるだろう。
〇作品情報
監督:ルカ・グァダニーノ
出演:ダニエル・クレイグ、ドリュー・スターキーほか
原題:Queer 配給:ギャガ 映倫区分:R15+
5 月 9 日(金) 新宿ピカデリー 他 全国ロードショー