【写真】蘭子と豪の告白に「神回」の声『あんぱん』第6週
週タイトル「くるしむのか愛するのか」は、出征前の豪に思いを伝えるかどうか悩む蘭子の心をそのまま言葉にしたようだった。蘭子は、ただ思いを伝える勇気が出なかったわけではない。失うかもしれない人を愛し抜く覚悟がまだできていなかったのだ。それは豪も同じで、命を懸ける場所へ向かう自分が誰かに想いを託していいのか、愛を伝える資格があるのか。そんな葛藤が胸の内を渦巻いていたに違いない。
「手に入れること」と「失うこと」は、いつだってセットだ。今自分が持っている物も、お金も、地位も、いつかは手元から離れてしまう。出征で命を失う確率が高いのならば…思いを伝えるのを諦めようとしてしまうのも無理はないだろう。
それでも豪は蘭子に想いを伝えた。蘭子もその気持ちを受け止め、不確実と分かっていながら「戻ってきたらお嫁さんに」と約束を交わした。豪が無事に戻ってこられるかどうか分からない中、それでも「今、この瞬間」を残そうとした二人の覚悟に胸をぎゅっと掴まれる。
「失うこと」を恐れながら生きるのも、「今」だけを見て生きるのも、どちらにもきっと後悔はつきまとう。「あのときこうしていれば」と思う瞬間は、どちらの生き方にも訪れるだろう。それならば豪と蘭子のように、今目の前にある大切なものを求めてもいいのかもしれないと強く考えさせられた。
一方、東京で“自由”を手にした嵩(北村匠海)は、自分の“今”が失われる可能性など、まるで考えていない様子だ。「東京は自由だよ」「のぶちゃんもおいで」という軽やかな言葉は、しがらみの中で暮らすのぶ(今田美桜)には、どこか無責任に響いたことだろう。
家族同然の豪が戦地に向かい、学校で忠君愛国の精神を叩き込まれているのぶと、夢に近い東京で気の合う仲間と過ごす嵩。戦争への意識に差があるのは仕方がない。だが、のぶが今どんな心境で、どんな状況の中にいるのか、どんな言葉を求めているのか…嵩がそれを少しでも慮ることができたなら、二人がすれ違うことはなかったかもしれない。
嵩が今の暮らしを無邪気に楽しめているのは、家族の支えと、自分が関わっていないところで苦しんでいる誰かの存在があってこそだ。嵩はまだその事実に気づいていないが、戦火が近づけば、いつか必ず「失う日」が訪れる。その落差は、残酷なほど鮮明に現実を突きつけるだろう。
手にしたものは、いつか必ず失ってしまう。
【あわせて読む】松嶋菜々子『あんぱん』で見せた圧倒的な美と存在感─なぜ彼女は今なお輝き続けるのか?