7月10日からスタートした新ドラマ『愛の、がっこう。』(フジテレビ系)。
公式Xのプロフィール欄には「まじめすぎる高校教師と孤独なホスト、出会わないはずの2人の愛の物語」と記されており、ストーリーを勝手に想像して「安いレディコミみたいだな」と正直思ったが、1話の放送終了後にはそんな安易な想像をした自分を恥じた。ご都合主義は一切なし。今後のストーリーにはついつい期待したくなった。『愛の、がっこう。』の魅力を語っていきたい。

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やはり多くの視聴者を虜にしたドラマ『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』(フジテレビ系)を手がけた脚本家・井上由美子と演出家・西谷弘が再タッグを組んだだけあり、登場人物の心情についつい視線を奪われてしまう。序盤、ホストクラブ「THE JOKER」で働くホスト・カヲル(ラウール)にのめり込み、親のお金を勝手に使った生徒・沢口夏希(早坂美海)が、担任教師・小川愛実(木村文乃)に「学校も親も適当すぎるんだよ。褒めておけば、あたしが思い通りになると思ってる」「カヲルは違う。あたしのこと馬鹿って言ってくれた。『バーカ』って抱きしめてくれた」と言い放った。

このシーンだけ見ると、夏希はカヲルの接客テクニックにあっさりと篭絡された印象しか受けない。
加えて、「金払ってくれているから優しかっただけだろ?」とツッコミたくもなる。ただ、ホストにハマった背景を口にするセリフ回し、さらには涙ながらに訴える早坂の演技も相まって、思春期特有の複雑な感情が見事に表現されていた。そして、「子供だけではなく大人にとっても、ホストクラブくらいしか自分自身と向き合ってくれる環境がないのでは?」と感じ、“ホストに行くお金ほしさに身体を売る女性”の気持ちに少しだけ触れられたような気もした。

後半ではまた違った気づきを与えてくれた。夏希の母親・あかり(映美くらら)からカヲルに二度と近づかないように一筆書かせることを仰せつかり、愛実はカヲルのもとを訪れる。しかし、一向にカヲルからはアクションがない。しびれを切らした愛実は「THE JOKER」に乗り込むと、カヲルはその熱意に負けたのか「ここは勘弁して」と自身が住むホストクラブの寮の屋上へと愛実を連れて行く。カヲルは念書を書き始めるが、とても大人が書いた文字とは思えないクオリティ。ただ、話を聞くと「小学校3年までは半分くらい。中学は3日くらい」「俺は親父いないし、母親はダニ、寄生虫」と劣悪な家庭環境だったために学校にほとんど通えなかったという。

カヲルの発言を慮ると、学歴以前に義務教育で養われるはずの学もないのだろう。中盤に「THE JOKER」のナンバーワンホスト・神門つばさ(荒井啓志)と言い合いになった際、「(ホストは)自分の全部をかけてやるもんなんだよ」とホストとしてのプライドを口にしていた。
ホストという仕事にやりがいを覚えているのかもしれないが、ただホストくらいしか働き口がなかったようにも感じた。言い換えると、学校に通わせてもらえなかった、“普通”という網から漏れ落ちた男性の受け皿としてホストという職業が機能しているのかもしれない。

「ホストと女性教師の禁断の愛」みたいなイメージに思われそうだが、私たちの生活と地続きな世界を描いた作品なのかもしれない。

ストーリーばかりに触れたが、やはり本作の魅力はメイン2人の“ハマリ役感”だ。愛実はよく言えば厳格な、悪く言えば家父長制にどっぷり浸かったような家庭で生まれ育ったゆえに、自身もかなり堅物だ。それでいて元カレにストーカー行為を繰り返すなど、執念深い一面も兼ね備えている。1話から、気味悪さや不快感を与えかねないネガティブな一面を多く見せた愛実ではあるが、不思議と不快感はない。むしろポップさがあり、愛実が転ぶ姿には可愛らしささえ覚える。『看守の流儀』(テレビ朝日系)や『PICU 小児集中治療室』(フジテレビ系)など、毅然とした役を演じることが多い木村。凛々しさを持ちつつも、どこか隙のある可愛らしさを持つ愛実という役をどう演じるのか見ものだ。

また、ラウールのハマリ方もすごい。神門とつかみ合いになりそうな時に愛実が仲介に入ると、愛実の耳元に「先生、ありがとうございます」と聴覚がフワフワしそうな囁きボイスを残して神門はその場を去るが、その様子を見ていたカヲルは「ぴゅ~」と口笛を鳴らしそうな表情を見せ、「かっこいいね」と口にする。
先ほどまでバチバチだった神門を「かっこいいね」と言える余裕。決して無理をせずにそれを言っている感じに“強者み”があり、「なぜこのビジュアルと立ち振る舞いでナンバーワンになれないのか?」と疑問に持ちたくなるほど。男性の筆者が見ても惚れ惚れする。ホストとしての目線を釘付けにする立ち振る舞い、さらにはカヲルが抱える葛藤を、これからどう表現してくれるのかも注目したい。

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