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2025年7月はどうも松たか子祭りらしい。ドラマや映画への出演、Blu-ray発売など彼女を目にする機会が増量する。今まで、私は職業柄、多種多様のタイプの人を見て生きてきたつもりだけれど、(敢えてこう呼ぶが)松さんのような女性はなかなかいない。今月の彼女の活躍ぶりを記しつつ、さらに個人的に思う魅惑について考えてみたい。
◆妻役から伝わってくるそれぞれの情感
第27回上海国際映画祭で審査員特別賞を受賞した、話題の映画『夏の砂の上』(アスミック・エース)で、松さんの姿を観た。オダギリジョー演じる小浦治と、松さん演じる恵子は、一人息子を亡くした喪失感から、別居中。夏のある日、治が住む家にやってきたのは高校生の姪っ子。ほぼ面識のないふたりが生活を共にして、少しずつ荒んだ心が溶けていく。
恵子はふつうの女性だった。昨今、松さんが演じた役の中では特筆すべきことのない役なのに、彼女が演じるとなんとも言えない情感が伝わってくる。
そんな恵子役とは真逆の役だったのが、今月23日(水)にBlu-ray&DVDが発売となる映画『ファーストキス 1ST KISS』(東宝)の硯カンナ役。件の恵子と同じく、夫の駆(松村北斗)との結婚生活は離婚寸前の冷え切った状態。ただ夫が不慮の事故によって命を失う事実を知り、偶然知ったタイムリープを使いながら、なんとか夫の命を食い止めようと奔走する。その必死な様子がとても可愛らしく、大きな愛とはなんぞよを教えてもらう作品だった。どちらも名作だけど、カンナのほうが松さんらしい、全力さが感じられた。ちなみに私は2回も劇場に足を運んだ。
◆果たしてネルラの姿とは?
7月の松祭りのメインイベントに相応しいのが、ドラマ『しあわせな結婚』(テレビ朝日系/17日(木)放送)のスタートだ。こちらの作品、今年の年初から作品についてテレビ局から匂わせ告知はあったものの、主演が阿部サダヲ、脚本が大石静である以外は何も情報公開がなかった。しばらくしてヒロインが松さんであると発表されるや否や、ファンは歓喜。とはいえ、第一話の放送まで阿部演じる主役の原田幸太郎と、松さん演じる鈴木ネルラが夫婦である設定以外、飛び抜けた情報はない。
と、ここに並べてきた通り、今月の松さんはとても露出が高い。加えて私が一番楽しんでいるのは、ドラマの番宣のためのバラエティー番組への出演だ。夫役の阿部サダヲはイメージ通り、積極的にしゃべるタイプではない。対するように松さんはC Mキャラクター『ヤマザキパン』のイメージを、いちびたりとも裏切らず、気持ちよく明るい。たまに素が見られるバラエティー番組では芸人殺しのごとく、どんな要望も聞き入れて、リアクションも最高。
先日もまさかの『アメトーク!』(テレビ朝日系)に出演していた。この日は『ビビリ-1グランプリ』が放送されており、自らもビビリだと言う松さん。ワイプのリアクションも可愛らしく、途中、ヘビのおもちゃを出演者にぶん投げたり、突然の音出しを仕掛けて、いたずら演出に参加する様子も見られた。
女優がバラエティ番組に出演すると(偏見かもしれないが)「番宣だから来ているのです」といった、雰囲気が前面に押し出されているのでは? と疑念を持ってしまう。そりゃ自分が出たいのは作品であって、お茶の間を和ませるのは本意ではない。
◆昔よりも今の方が可愛い奇跡!
48歳とは思えない可愛らしさがあって、何を着ても似合って、演じたら感動を世間に振りまいて。年齢を重ねれば重ねるほど魅力が増していく。『ロングバケーション』(フジテレビ系・1996年)の奥沢涼子から比べると、今の方がずっとずっと可愛らしいなんて、なんという奇跡の人なのだろう。
彼女の魅力の泉はなんだろうと考えると、いつも迷ってしまうけれど、最近たどり着いた一つの答えがある。
広瀬すずのラジオ番組『よはくじかん』(TOKYO FM)にゲスト出演した際、松さんは役作りについてこう話している。
「(演技は)うまくはないので、ただあの人一生懸命やっているな、みたいな。とりあえず一生懸命やってみます、それがいいか悪いかわかんないけど。とりあえずやってみます精神でやってきちゃった人だから」
ああ、そうか。
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