映画『ドキュメンタリー沖縄戦 知られざる悲しみの記憶』が7月25日(土)から、新宿K’s cinemaを皮切りに全国順次公開される。

【写真】太田監督と映画『ドキュメンタリー沖縄戦 知られざる悲しみの記憶』より

この映画は、日本軍の強制による集団自決が行われ、死に切れない子供を親が自ら手を下し殺すなど、「教育勅語」の教えの下、戦われた沖縄戦とはどんなものだったかを、その当時を知る体験者、専門家の証言を中心に、米軍が撮影した記録フィルムを交え紹介したドキュメンタリーで、原発事故の悲劇を描いた劇映画「朝日のあたる家」(山本太郎出演)で話題となった太田隆文が監督を手掛けている。


昨年12月に行われた沖縄での完成披露上映会には1000人を超える県民が来場するなど話題となっている本作の全国公開に注目が集まる中、太田隆文監督のインタビューが届いた。

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──本作の着想のきっかけを教えてください。

太田 僕はもともと青春映画を作っていたんですが、『朝日のあたる家』という原発事故を題材とした社会派映画を作ったことで、それを見たスポンサーから「沖縄戦を体験した人たちの証言を中心としたドキュメンタリー作品を作って欲しい」という依頼が来ました。原発に次ぐ題材として、沖縄戦は前から興味があったので渡りに船で、企画がスタートしました。

──体験者と専門家の方々の証言が出てきますが、どういう方にお話を聞いたんですか?

太田 完成した時に、沖縄戦に詳しい専門家の方が「監督、よくあれだけの人を探し出してインタビューしましたね! 今ご健在の方でベストのメンバーですよ」と言ってくださったんですが、実は手探り状態でスタート、いろんな方の紹介でお訪ねし、お話を伺うということを3年間続けたものをまとめたら、結果的にその道の第一人者と言われる素晴らしい方たちが揃っていたというのが本当のところなんです。映画の神様が導いてくれたんじゃないか? 引き合わせてくれたんじゃないか? そんな思いさえするくらいに、素晴らしい方々と出会えたこと。ありがたかったです。

──構成はどのように考えましたか?

太田 取材を続けて分かったのは、沖縄戦は一言で言えないということ。真珠湾攻撃だと「日本軍がハワイを奇襲して、アメリカ軍に大きな打撃を与えた」と一言で言えるんですが、沖縄戦は、上陸作戦があり、首里城の戦闘があり、集団自決があり、対馬丸事件があり、いろんな事件や戦闘を全てまとめて沖縄戦なんです。ミッドウェーや真珠湾とはかなり違う。取材していくうちに気づいて様々な事件をできるだけ取り込み、沖縄戦の全貌が分かる構成にしました。

──終戦から75年で、体験者の方々も高齢となり、皆さんの証言を映像に収められたのは貴重なことだと思います。
このタイミングで撮影ができたことについてはどう思いますか?

太田 この映画は体験者の証言が中心。多くは高齢者。現在80代の方々は当時5、6歳。なので、細かな記憶がなく、後で親や兄弟から聞いた話で補足したとも聞きます。幼い頃の記憶なんです。現在90代の方は当時15歳くらい。中学生なのでしっかり記憶している。でも、年齢的に今もご存命の方は少ない。中でも集団自決=集団強制死の話は特に難しいものがありました。今も一切話さない方もいらっしゃいます。アメリカ軍に家族が殺されたということではなく、追い詰められ自らの手で家族を殺さなければならなかった方もいて、今証言すると生き残った人や関係者から「あいつがあんなことしなければ、***も生きていたのに…」と批判されたり詰められたりもする。本人も自責の念に駆られる重い十字架を背負っている。
過去の話で終わらせることができないんです。だから、死ぬまで話せない。ただ、今回、そんな集団強制死について、お二人の方に当時のことを話してもらえました。

──ナレーションを宝田明さんと斉藤とも子さんにお願いした理由をお教えください。

太田 アナウンサーが原稿を上手に読むだけでは沖縄戦は伝わらないと思えました。証言者が戦争を体験した人なのに、ナレーターが戦争を知らない若い人ではダメ。そこで戦争に対して「想い」や「経験」がある人をと考えました。宝田さんは子供の頃に満州から引き揚げて来た経験がおありだし、斉藤とも子さんは『ひめゆりの塔』の映画にも出演していて、実際にひめゆり学徒だった方々に会って話を聞いています。どちらも戦争に対する強い「思い」をお持ち。それがとても大切だと感じて、お二人にお願いしました。

──昨年完成披露上映会を開催した沖縄の方たちの反応はいかがでしたか?

太田 戦争を体験された方もいらっしゃったでしょうし、詳しく勉強されている方もいたので「これは違うぞ!」と言われないか?と心配だったのですが、3回の上映後、3回とも拍手が起きました。上映後に声をかけられて「作ってくれてありがとう!」「必ず全国で上映してくださいね、沖縄戦を伝えてくださいね!」と何人にも言われました。
「多くの人に伝える」という映画の意味を感じました。沖縄の皆さんの思い、全国に伝えたいです。

──本作で特に注目してもらいたい部分は?

太田 監督である僕自身が知識ゼロからスタートし、勉強しながら制作したので、専門的になり過ぎず、中学生が見ても分かる内容になっています。「歴史を勉強する難しいドキュメンタリー」というつもりで作ってないし、悲しい話ばかりじゃなくて、途中に「へーそうなんだ」というエピソードも入れて、1時間45分、退屈せずにいろんなことが分かる作品。若い方にもぜひ見て欲しい。沖縄戦だけでなく、今の日本。そして未来が見えてくる作品。映画館で見ていただけると嬉しいです。

▽『ドキュメンタリー沖縄戦 知られざる悲しみの記憶』
7月25日(日)~8月21日(金)まで新宿K’s cinemaにて公開されるほか、第七藝術劇場(大阪)、名古屋シネマテーク(愛知)、京都シネマ(京都)、桜坂劇場(沖縄)ほか全国各地で上映。
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