【写真】オープンを控えるHKT48の新劇場
コロナ禍ですべてのアイドルグループが大きな影響を受けた。特に大人数で活動するグループは、全員がステージ上に集まるだけでソーシャルディスタンスが保てなくなる、という深刻な状況に直面していた。
各グループとも配信ライブなどで新しい方向性を模索してきたが、少しずつ深刻な状況が緩和されてくると、もうひとつの問題が浮上する。東京から離れた場所に拠点を置いているグループはテレビ出演しようとしても「大人数での大移動」を伴うため、そう簡単には事が進まない。
この時期、メディアから発信することができない、というのはちょっと手痛い。熱心なファンは積極的に情報を取りにいくが、それ以外の人たちは基本的に受け身だ。情報が発信されない=なにもやっていない、と思われてしまっても仕方がない。
だが、実際にはどうか?
HKT48は着実に動いている。目に見えない部分も含めて、大きなうねりが今、メンバーの中で起きているのだ。
そんな大事な時期がコロナ禍のせいで伝わらないのは、なんとも歯がゆい。
2020年7月17日。
メンバーもファンも待ち焦がれていた新劇場がこの日、お披露目となった。
HKT48が結成された2011年に専用劇場もオープンしたのだが、入館していた商業施設が再開発のため2016年3月にクローズとなってしまったため、HKT48劇場も閉めざるを得なくなった。
それからの4年半は福岡市内にある複数のホールを使用して劇場公演を続けてきた。そこで毎年恒例の周年公演が行われたり、メンバーの卒業公演も開催されてきたりもしたので、もちろんメンバーにも思い入れはできてきてはいるが、やっぱり「家」とは居心地が違う。
「本当に劇場は“家”感が強いんですよ。だから、いろんなホールを渡り歩いてきた時期はやっぱり……たしかに慣れてきたし、愛着も沸いてきたけれども、他のイベントが入ったりすると私たちは出ていかなくちゃいけない。だから、新しい劇場がオープンするのはありがたいですよね」
そう語るのは1期生の村重杏奈。彼女は昨年からソロでのタレント活動も積極的に展開しており「自称・指原の右腕」としてテレビでも大活躍。「HKT48のことはよく知らないけど、村重杏奈は知っている」という層は着実に広がっている。
1期生にとって、専用劇場のオープンに立ち会うのはこれが2回目となる。それだけに冷静に状況を見つめることもできるのだが、村重は「不安」を口にした。
「正直、本当にこれからずっとここに立っていけるのかどうか、という不安はありますよね。時期が時期なのであんまり派手なセレモニーもできなかったし、まだステージ以外はなにもないような状況なので実感も沸いていないんですよ。いままでと同じで『借りたところに入っている』感覚。ずっと楽屋に入って過ごして、公演を続けていくようにならないと前のような“家”感は出ないんだろうし、逆にオープンしたら自然とそういう気持ちになっていくんだろうけど、今はこの新しい家を守っていけるように努力しなくちゃっていう責任感のほうが強いし、なかなか動けないから不安になってしまうんでしょうね」
新しい劇場は福岡PayPayドームに隣接するエンターテインメント施設『BOSS E・ZO FUKUOKA』の1階に入る。旧劇場があった場所の近くに「戻る」イメージだ。この施設は新たな観光名所になることが見込まれており、その1階に「HKT48」の看板を掲げることは、それだけでも大きなプラスになる。
さらにネーミングライツ契約を締結したことで、正式な名称は『西日本シティ銀行 HKT48劇場』に決定。地域に密着してきた活動が新たな拠点で実を結んだことになるが、村重が「家を守る」という責任感を背負うのは、きっと、そういう側面があるからだろう。
すでに『BOSS E・ZO FUKUOKA』自体はオープンしているが、劇場に関しては「10月下旬オープン予定」というざっくりとしたアナウンスしかない。コロナ対策を講じた施設の最終調整作業もあるし、観客を入れての劇場公演に関しては今後の感染状況を慎重に見据えながら決めていかなくてはならない。
ただ、すでに「箱」はそこにあり、選抜メンバーがソーシャルディスタンスを守る形でステージに立った、という事実は揺るがない。
いまエンターテインメント業界では、明日の予定すら立たないのが当たり前の状態になっている。そんな中で新劇場のオープンを控えているHKT48は「希望の光」だ。もし、10月のオープンが実現すれば、11月26日には「9周年記念公演」も行われるだろうし、9周年を迎えるということは、その日から記念すべき10周年へのカウントダウンもはじまる。2021年11月26日まで明るいニュースが確定しているのは、こんな閉塞した状況で救いとしか言いようがない。
「私もまだ実感がないというか、ホーム感はあまりないんですよ。まだ1回しか行っていないし。ただ、9年前にはじめて劇場に足を運んだときの衝撃はいまでも鮮明に覚えています。天井が高くて、ステージも広くて、セリも上がる。ここが私たちの劇場になるんだ。すげぇ!って」
笑みを浮かべながら、まるで昨日のことのように9年前の思い出を語ってくれたのは、こちらも1期生で現在、チームHのキャプテンを務める松岡菜摘だ。
「新しい劇場にはレッスン場が併設されているんですけど、まだそこへの引っ越しもできていないんですよね。
ただ待つだけではなく、明日のために自主的に動き出した1期生。
そして「大人たちに意見を言うとき」とは?
水面下でのメンバーの動きは、9年近い歴史の中でもっとも濃密で激しいものになっていた。
(つづく)
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