『月刊エンタメ』に連載中の「井上咲楽の政治家対談」、今回は厚生労働大臣や総務副大臣などを歴任した田村憲久議員が登場。自民党の新型コロナウイルス関連肺炎対策本部長でもある田村議員に、コロナ対策について直撃。
(前後編の前編)
※取材は7月14日に行いました

【写真】イノサクさんも興味津々の田村議員の事務所に飾られた「松阪牛」グッズ

井上 田村さんは自民党の新型コロナウイルス関連肺炎対策本部長として、本当にお忙しい毎日が続いていますよね?

田村 そうですね。7月に入ってからもバタバタとしていますが、4月、5月は家族にも会えない状況でした。地元の三重県にも帰れず、奥さんとは離れ離れの生活が2カ月くらい続きましたね。

井上 私もそうなのですが、読者の方もコロナ対策と言うと、西村康稔経済再生・新型コロナウイルス感染症対策担当大臣のお顔を思い浮かべると思います。自民党の対策本部と、官邸の新型コロナウイルス感染症対策本部はどう違うんですか?

田村 自民党の対策本部はコロナウイルスが中国・武漢で広がり、日本にも影響が現れだした1月の終わり頃に立ち上がりました。1月15日に日本でも最初の市中感染が起こり、党の中でもこれは大きな問題になるだろうという危機感が広がって、感染をどう防いでいくか、治療法やワクチン開発への支援をどのように行っていくかなどについて検討を始めたわけです。

井上 そうなんですね。では、田村さんたちが取りまとめた提言を首相官邸の対策本部に伝えるような仕組みになっているんですか?

田村 そうですね。先日も冬のインフルエンザ流行期に向けた提言をまとめ、政府に伝えました。たとえば、コロナウイルスによる発熱の症状はインフルエンザとなかなか見分けがつきません。一方、データを見ると、インフルエンザは年間平均して1000万人くらいの人がかかり、医療機関を受診しています。ただ、今年の春先は多くの人がコロナ感染防止のために手洗い、うがいをし、マスクをしたので例年に比べるとインフルエンザの患者さんが3分の1くらいに減りました。


井上 そうですね。みんなが例年以上に徹底していました。

田村 ですから、楽観的に考えると今年の冬のインフルエンザの流行は例年以下になるかもしれません。それでも患者数は数百万人規模。それだけの人が発熱などの症状で病院に押し寄せれば、その中にコロナの患者さんもおられるはずです。

井上 確かに、自分では熱がどのウイルスのせいか分かりませんね。

田村 となると、病院に行くこと自体に不安を感じられる方も増えますよね。そこで、各地域に発熱した人が受診する専用の医療機関を作るよう提言しました。熱が出た人たちはそちらに行っていただいて、検査をしていただく。鼻から検体を取る方式であれば、コロナもインフルも同時に検査できるので効率的です。そして、指定病院では院内感染が起こらないよう徹底した対応を行なってもらう。そういったことも含めて冬に向けた準備を政府にさせるべく我々から伝えているわけです。


井上 都知事の会見を見ていて、「コロナ向けの病床を増やしています」「第二波に向けて十分な数を確保できています」と。そう聞いて安心する一方で、他の病気の患者さん受け入れていく体制は変わらずに安定しているのかな? と心配もしてしまいました。

田村 受診して大丈夫なのか? という不安は広がっています。実際に3月以降、国民の皆さんが医療機関に行かなくなっている傾向はデータとして出ています。コロナへの感染が怖いという意識が働き、小児科の予防接種を打たなくちゃいけないのに子どもを病院に連れて行かない。慢性の糖尿病などの病気を抱えておられるのに、診察は受けずに薬だけ長期間もらっている。そんなふうに、コロナの患者さんを扱っている医療機関以外でも患者さんが来ない状況になっています。

井上 そうなんですね。

田村 これには2つの大きな問題があります。1つは医療機関の収入が減り、医療経営が全体に圧迫されていること。もう1つは、患者さんの健康被害です。予防接種も既往症の治療も「不要不急」ではありません。
接種を受けていただく必要があり、治療を行ってもらわなければ病状が悪化する可能性があるわけですから。

井上 そうですよね。

田村 コロナウイルスの感染者数は累計で2万人強(取材時点)。他の病気にかかっている方の数は数千万人です。あなたの命、健康がコロナだけではなく、持病によっても脅かされる、そんな状況の方が怖いですよ、と。こうした状況を改善するため、「この医療機関は感染予防対策を行い、安全です」と示すマークなどを作り、安心して医療機関を受診できる環境を整えていきたい。そんな活動を厚生労働省にやってもらうよう働きかけています。

井上 私のおばあちゃんはデイサービスを利用しています。緊急事態宣言の間もデイに通い続けていて、私はそれがいいことなのか、悪いことなのかと考え込んでしまって……。

田村 なるほど。

井上 おばあちゃんが家で1人なのはすごく心配ですけど、もしデイの誰かがコロナに感染して、そこからもらってきたら……とも不安で。

田村 分かります。
デイサービスや特別養護老人ホームでの集団感染がまったくないわけではありません。ただ、全国にある医療機関や介護施設のうち、集団感染が起きている場所は本当にごくわずかです。みんなが恐れて行かなくなってしまったら、ここでもコロナ以外の健康被害が起きてしまいます。デイサービスに行き、体を動かし、多くの人とコミュニケーションを取ることで自立する能力が保たれていく効果がありますから。逆に家に閉じこもっていると、筋力が衰え、運動機能、認知能力が低下してしまう可能性もあるわけです。だから、井上さんのお祖母様もデイサービスは利用していただいた方がいいと思います。

井上 よかった。

田村 大事なのは、施設側がきちんと感染予防の対策を行っていること。また、そこで働く方々が定期的に検査を受けていただく仕組みづくりも考えていかなければいけません。

>>後編「コロナのワクチンに期待せず、長い戦いに備える」はこちら

(取材・文/佐口賢作)
▽井上咲楽(いのうえ・さくら)
1999年10月2日生まれ、栃木県出身。A型。『おはスタ』(テレビ東京)の水曜レギュラーほかバラエティ番組を中心に活躍。
Twitter:@bling2sakura

▽田村憲久(たむら・のりひさ)
1964年12月15日生まれ、三重県出身。自民党所属衆議院議員。千葉大学卒業後、31歳のとき、96年の総選挙で初当選。以後、当選8回。第2次安倍内閣では厚生労働大臣を務めた。
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