今年9周年を迎えるHKT48。秋には新劇場のオープンも控え、HKT48はどう動き出しているのか…ドキュメンタリー形式で綴る短期集中連載がスタート。
長年グループの活動を追い続けてきた元『週刊プロレス』記者で、『活字アイドル論』『ももクロ独創録』など多くの著書を持つ小島和宏氏がメンバーへの徹底取材を行い、HKT48の「今」に迫る。第三回目は、1期生の松岡菜摘本村碧唯に、無観客公演『HKT48 THE LIVE』への
思いを聞いた。(毎週土曜日午前7時公開)

【第二回目はこちら】“変心”村重杏奈がHKT48の精神的支柱になった理由「ふざけるだけじゃなくて、グループを守りたい」

【写真】無観客公演『HKT48 THE LIVE』の様子

 コロナ禍で劇場公演ができなくなってしまったあいだ、他の48グループでは劇場で無観客公演を行ない、その模様を配信するなどして、活動を継続してきた。

 もちろん16人での公演は「3密」に引っかかってしまうので、出演者を減らした変則的な公演とはなるが、そうすることでグループが生きている証にもなる。

 だが、いまだ新劇場がオープンしていないHKT48は無観客公演を開催することもできない。そこで生まれたのが『HKT48 THE LIVE』と銘打たれた新しい形での配信限定ライブだった。

 会場はいつもレッスン場として使用している場所。メンバーも初回は9人でスタートしたが、全員が揃ってのパフォーマンスはゼロ。1曲につき最大でも3人で歌うことになる(例外としてそこに森保まどかがピアノで参加)。なぜならばメンバー間のソーシャルディスタンスを保つには、レッスン場ではそれが限界だからだ。

 だからメンバーは基本、立ち位置から動かない。軽い振り付けはあるけれども、その場から動かないから、動きはかなり制限される。


 つまりは「歌」のみで聴かせるライブ、ということになる。

 ただ単にそういう試みをするだけなら話は簡単だ。みんなが順繰りに出演できるようにローテーションを組めば、すべてのメンバーが平等に出演機会を与えられる。メンバーにとっても、ファンにとっても平和なシステムなのだが、今回はそういう措置は取られなかった。

「最初にテストみたいなものがあったんですよ。それで一定以上のレベルに達していないメンバーは配信ライブには出られないんです」

 1期生にしてチームHのキャプテン、そして選抜メンバーの常連でもある松岡菜摘は、このライブがスタートしてから1か月以上、出演することができなかった。9年目にして対峙した「挫折」について、彼女はゆっくりと語りはじめた。

「焦りというか、もどかしさというか、くやしさというか……。

 歌のスキルに関しては自信がなかったので、もう最初のころはみんなと一緒にやるのも恥ずかしくて、1人でボイトレを受けさせてもらっていたぐらいなんですよ。9年間、やってきましたけど、大人数のグループなので、コンサートでも1人で歌う機会ってほとんどなかったんです。そういう部分での経験値がない。だから、もうそれだけで緊張するし、苦戦しましたね」

 ボイトレはずっと続いてきた。
自分でも少しずつレベルアップしてきていることはわかる。でも、お声はかからない……松岡菜摘は「ずっと配信が見られなかった」と言う。

「自分が所属しているグループの映像なのに、自分がいないのってすごく違和感があるじゃないですか? F24(若手メンバーのみで構成されたチーム)の公演を見た時もすごく不思議な感覚だったんですけど、今回はやっぱり出演しているメンバーがすごくキラキラしているから『それに比べて、私はなにをやっているんだろう』って気持ちになっちゃって。 だから自分がはじめて出演する直前まで見られなかったです」

 もうひとり、同じ1期生でチームKⅣのキャプテンを務める本村碧唯も大きな壁に直面していた。

「私は最初から出られないだろうなって、自分でもわかっていたので(苦笑)。歌っていうか、自分の声が好きじゃないんですよね。でも配信を見ていると、みんな楽しそうだから、早く出たいなって。それにファンの方からも『いつ出るの?』『なんで出ないの?』って声も届いて、そうだよね、がんばって早く出なくちゃって」

 松岡菜摘と比べると、かなり前向きで、配信ライブもしっかりと見てきた本村碧唯だが、やはり1か月以上も出演できないとモヤモヤした気持ちにもなってくる。

「個人的には昔みたいにみんなで楽しくわちゃわちゃするようなことをやりたいな、とか思うんですよ。きっとメンバーおのおのがやりたいと思っていることはいっぱいあるはずなんだけど、やりたいと思うことが『いま、やれるもの』ではなかったりして、なかなか実現できない中で『いま、できること』がこういう形の配信ライブだったんですよね。

 実際、9回目の配信でやっと出演することができましたけど、そのときに感じたのは『ファンのみなさんのコールが恋しい』でしたから(笑)。きっと、ファンの方もそろそろコールしたいと思っているんだろうなぁって。
でも配信を見てくださった方から『動いている姿を見れてよかった、うれしかった』という声をたくさんいただいて、あぁ、ボイトレをがんばってよかったなぁ~って。少しでも成長した姿を見せることができてよかったなって思いました」

 実はそこにこそ、今回の企画の肝があるのではないか?

 フルメンバーでのパフォーマンスができない、ということを逆手にとって、歌に特化したライブを配信する。徹底的に歌と向き合うことで、個々のスキルだけでなく、グループ全体の歌唱力が大幅にアップする。今後、劇場公演やコンサートが開催されるようになったら、その歌唱力の上にダンスやフォーメーションという武器が加わってくるわけで、いままでのHKT48を上回るパフォーマンスが披露されることは間違いない。

 すぐに結果が出せないゆえに、忙しい中では後回しにされがちな歌唱力が、この期間に礎から築きなおすことができたのは、これから10周年に向けてのHKT48の活動で必ずやプラスに働くことであろう。

 配信すら見ることができなかった松岡菜摘は8回目の公演で初出演が叶った。

「ボイトレの先生から『1人でボイトレさせてください、と哀しそうな顔で歌っていた人とは別人のようだったよ』と言われました(笑)。

 ただ、やっぱり踊りたいなって思いましたね。踊ることで表現の仕方が変わるし、今回、よくわかったので踊ることで私、緊張を隠すことができていたんだなって。だって、まったく緊張を隠せていなかったから(苦笑)。あとはやっぱりお客さんの前で歌いたいですよね。配信ライブだと、お客さんの反応がリアルタイムではわからない。
公演だと、そこに言葉がなくてもお客さんの表情とかでいろんなことがわかるじゃないですか? そんなことを思いながら『いままで当たり前だったことって、けっして当たり前じゃなかったんだな』と痛感しました。いい経験です」

 もちろんボイトレだけではなく、ダンスレッスンも少人数単位ながらしっかりと行われている。これらがしっかりと形になってくれば、新劇場オープン日はHKT48にとって『第二の生誕祭』となるかもしれない。

(つづく)

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