『月刊エンタメ』に連載中の「井上咲楽の政治家対談」、今回は自由民主党幹事長代行を務め、郵政大臣や総務大臣などを歴任してきた野田聖子議員が登場。同期だから知る安倍元総理の素顔と辞任の裏側とは。

※取材は9月8日に行いました

【写真】取材後、お酒好きの野田議員からサプライズでお酒のプレゼントも

井上 先ほどまで自民党本部で取材していたんですよ(取材日は、自民党総裁選挙に向けた立会演説会が行われ、石破茂氏、菅義偉氏、岸田文雄氏が立候補の決意などを述べた)。

野田 私もテレビで観ていましたよ。

井上 どうでした? 印象は?

野田 それぞれの個性が出ていたよね。菅さんは無難で、石破節は少しくどい感じがしたし、岸田さんは気負いが見えた。ものすごく温厚で、穏やかな人だから、そのぶん一生懸命、自分を奮い立たせているんでしょうね。中でも驚いたのは菅さんが「不妊治療の保険適用」を明言したこと。びっくりして、そこしか覚えていないくらい。

井上 そんなにですか!

野田 一般的には「ふーん」と思うかもしれないけど、これは途轍もないことなんです。私たち女性議員が20年かけて不妊治療の保険適用について取り組んでいるけど、厚生労働省にはけんもほろろに断られてしまったの。

井上 それを菅さんが発言したと。

野田 そう。ここで言っちゃったからには、総理になったらやらざる得ないでしょう。
咲楽ちゃんは? 印象に残った話はあった?

井上 菅さんが「携帯料金引き下げ」や「ふるさと納税」に触れたところです。生活に密着した話題なので、私たちの世代が政治に興味を持つきっかけになるかも、と。あと、岸田さんは宏池会の会長として義務感から総裁選に出ているのかな、本心はどうなのかなとも考えちゃいました。

野田 いや、そこは違うと思います。だって国会議員だったらみんな出たい。総理大臣になりたいもの。

井上 じゃあ、菅さんも?

野田 絶対に思っていたはず。国会議員になったら、みんな総理になることを考える。総理の持つパワーで世の中をよくするのが、究極のゴールでしょう。むしろ私は「目指していない」と言う人は嘘つきだと思っている。だって、総理になれば困っている人をいっぱい助けられるのに。

井上 確かに、できることは格段に増えそうです。


野田 そう。だから、人をハッピーにしたいと考えるなら、一番に目指すところは総理だと思う。

井上 私は、野田さんが今回の総裁選に出馬すると思っていました。

野田 今回は想定外だったんです。というのも、7月に安倍さんと1対1で会う機会があってね。任期を全うする気持ちを感じたし、こちらもそのつもりで「次は私が出るから」と伝えると、安倍さんから「頑張ってね」と励まされたの。

井上 1対1で会う上に、そういうラフな関係なことにも驚きです。

野田 当選同期だからね。照れくさくもあるけど、仲良し。基本的には彼がヘコんだときに話をするの。

井上 ヘコんだときに?

野田 そう。調子のいいときは近くに来てくれる取り巻きがいっぱいいるでしょう。


井上 なるほど(笑)。安倍さんのことは普段何と呼んでいるんですか?

野田 普段は総理ですね。昔は同期会で「晋ちゃん」「聖子ちゃん」と呼び合っていました。最初に出会ったときは、私たちも30代で若かったから。「30歳で若い」と言ったら、咲楽ちゃんには違和感あるかな?

井上 うーん(笑)。

野田 国会議員の世界は平均年齢が60歳を過ぎているから、30代はフレッシュなのよ。それに、みんなまだ仲間を「先生」と呼び合うのに抵抗があったのね。それで、私は同期会のメンバーから「聖子」と。ただ、安倍さんは育ちがいいから呼び捨てにせず、「聖子ちゃん」と呼んでくれていました。

井上 ちなみに7月に会ったとき、辞任の気配は感じましたか?

野田 確かに元気がないなとは思った。ただ、状況的に頑張っても頑張っても報われないところがあったから、そこまで深く受け止めなかった。

井上 というと?

野田 印象に残っているのは、コロナ対策の話。
日本の対策は客観的に見ればうまくいっていて、重症化した人も、亡くなった人も他の国に比べたらダントツに少ない。でも、それはニュースのトップにはならない。

井上 それよりも、新規の感染者数が毎日大きく扱われていましたね。

野田 そう。まるで何も改善されてないような刷り込みが続けられ、対策への客観的な評価がきちんとされていないことを安倍さんは非常に寂しく思っていました。また、何かと言えば、布マスクと犬を抱いた動画のことで批判される、と。でも、最後は笑顔を見せていたし、世間が言うほどへこたれていないとも感じたんです。だから任期いっぱいまで頑張るだろうし、私も「これからだ!」と準備をしていたら、突然の辞任表明。私と会ったあとの約ひと月の間に、誰かが、何かが安倍さんの心を折っちゃったんだな、と。

井上 それは世間ですか? 党内の誰かですか?

野田 そこは分からない。でも、私としては持病を抱えながらも、リーダーをやっていって欲しかった。

井上 どうしてですか?

野田 病気が再発したことはもちろんつらいけど、強くない人でも国民のために総理の仕事ができるところを見たかった。
閣議も週1回でいいじゃない。本会議に出られないことがあっても、副総理がいるわけだし。難病や障害を持っていてもオーバーワークにならず、いい仕事ができる。そういうリーダー像を見せてくれたらよかったのにな、と。そうしたら社会も変わるし、もっと労り合える優しい国になっていくと思うから。病気を告白されたからこそ、頑張ってほしかった気持ちがあります。

井上 確かに励まされる人もたくさんいると思います。

野田 総理は私たちの究極のアイコンだからね。アイコンが常に強くて元気だったら、そうじゃない人は排除されてしまう。弱さのある人、それを認められる人がトップにいてくれたら、もっと多様性のある社会になっていくと思う。

>>「井上咲楽が自民党幹事長代行・野田聖子議員に聞く『将来総理大臣になったら、何がしたいですか?』」に続く

(取材・文/佐口賢作)
▽井上咲楽(いのうえ・さくら)
1999年10月2日生まれ、栃木県出身。A型。
『アッコにおまかせ!』(TBS)、『おはスタ』(テレビ東京)、『サイエンスZERO』(NHK Eテレ)などに出演中。Twitter:@bling2sakura

▽野田聖子(のだ・せいこ)
1960年9月3日生まれ、福岡県出身。自由民主党幹事長代行。衆議院議員。上智大学卒業後、26歳で岐阜県議会議員に。93年、衆議院初当選。以後、当選9回。総務大臣、衆院予算委員長などを歴任。
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