※取材は12月2日に行いました
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井上 令和2年は新型コロナウイルスの感染拡大、東京オリンピック・パラリンピックの延期、緊急事態宣言と予想外の出来事が続きました。岸田さんにとっての令和2年はどんな1年でしたか?
岸田 それこそ新年の初詣の頃は、まさかこんな1年になるとは思っていなかったよね。今年はオリンピック・パラリンピックだ! と。楽しみな気持ちで年が明けた。そしたら1月の終わりから異変を感じ始め、結果的にはコロナ一色に。想定していた年とはまったく違う1年になってしまった。それは私だけでなく、ほとんどの人がそう思っているんじゃないですか? 想定していなかった1年。そんな印象です。
井上 それは岸田さんが出馬された総裁選も含めて、ですか?
岸田 そうだね。
井上 びっくりでしたか?
岸田 総裁選挙も本来だったら令和3年にあるはずだったんですよね。それが8月28日に安倍総理の退陣表明があり、前倒しになった。年の初めには思ってもいなかったのが正直なところです。
井上 総選挙が始まる前までは「次の総理は岸田さん」と言われていました。ところが、菅さんが出馬を表明した頃には、一気に風向きが変わってしまった印象です。自民党内で何が起きていたんですか?
岸田 うーん、やっぱりそれぞれの派閥や議員心理として、「勝ち馬に乗る」「強い方に惹かれる」ということがあったんでしょう。当時の菅官房長官が「出る」と言った段階では、もう大きな流れができあがっていた気がします。それまでに水面下でいろんな動きがあった、と。そういうことでしょう。
井上 実際に岸田さんが「風向きが変わったな」と気づいたのはいつくらいですか?
岸田 これはいろいろなところで感じていましたが、最後は候補者が出馬会見を開いた段階でした。そこで、それぞれの派閥や議員の行動が明らかになり、総裁選挙の大きな流れはあの段階で決まったんでしょうね。
井上 当時はどんなお気持ちでしたか? 「ガーン」と衝撃を受けるような感覚なのでしょうか?
岸田 何となく雰囲気は感じていますから。ある日突然、ガツンと現実を突きつけられた感じではなく、少しずつ風向きが変わっていく……そういう感覚でした。
井上 失礼かもしれませんが、ずっと総裁選を取材していて、こんなふうにも感じていたんです。「そもそも岸田さんご本人は総裁選に出たい気持ちは強くないのでは?」「派閥のトップとしての責任感から出馬されたのかも?」って。
岸田 いやいや、それは自分が出たかったからです。仲間から期待してもらうのはありがたいことだけど、出たいから出たんですよ (笑)。
井上 じゃあ、来年に行われる総裁選にも出たいから出るんですね?
岸田 そうですね。
井上 おー。次に向けた準備はもう始まっていますか?
岸田 今回、総裁選挙に初めて挑戦したことは、大変いい経験になりました。負けたことは私の力不足ですが、多くの皆さんに応援してもらい、大変ありがたく思っています。応援してもらった皆さんの気持ちに応えるためにも、次の戦いに向けて努力していきます。多くの国会議員に引き続きいろいろ働きかけ、政策についても共感してもらい、人間関係を作っていきます。また、全国をどんどん歩いて、地方の皆さんに私の考えを知ってもらうこと。こういった努力を地道に積み上げたいなと思っています。
井上 総裁選を戦う中で感覚が変化した部分もありますか? 私は出馬の記者会見のときに自民党本部へ取材に行きました。そのとき、石破さん、岸田さん、菅さんと順番に話されるのを聞き、その後のテレビ討論も見せていただくうち、変わったな、と。岸田さんがだんだんと生き生きしているように見えたんです。正直に言うと、最初は少し自信なさそうな感じもあった気がして。
岸田 初めてだったからね。
井上 それがだんだん吹っ切れて、清々しく見えたんです。
岸田 あ、そう! そうだったら、うれしいですけどね。だんだんと気持ちが乗ってきて勢いが出てきたのかもしれないですね。
井上 ということは、最初はあまり乗ってなかったんですか?
岸田 初めての経験で「さて、どんな戦いになるのかな?」と少し慎重な気持ちがあったのかもしれない。それも始まってみれば、「ああ、こういう感じなんだ」と要領も分かってきました。また、ありがたいことにいろんな人から応援してもらい、アドバイスをもらいましたから。できるだけいろんな人の話を謙虚に聞き、努力をしました。
井上 例えば、どんなアドバイスがありましたか?
岸田 テレビに出るときの目線の向け方、手の置き方、ネクタイの色柄、服装などの見た目のほか、自分の内面をきちんと言葉にして伝えること。本当にさまざまです。
井上 3人の息子さんからもアドバイスはありましたか?
岸田 応援や激励に加えて、座っているときの姿勢について言ってくれたかな。「前のめりの方が好印象だよ」と。ただね、だんだんアドバイスもたくさん溜まってくると、まったく逆のことを言う人も出てくるので(笑)。最後はアドバイスの交通整理が大変でしたね。
井上 岸田派の皆さんの反応はどうでしたか?
岸田 初めて総裁選を経験する若い人たちが張り切ってくれて、テレビ局にも一緒に来てくれましたね。
井上 そうなんですか!
岸田 何人かで分担してスケジュールを組んで、この局に行くときは私たちが、と。必ず付添いがあった。
井上 じゃあ、楽屋でこんな風にしようとか作戦会議を?
岸田 そうそう。
井上 いや~、なんかすごい。総裁選を一生懸命追いかけていたので、裏話が聞けてうれしいです。
(取材・文/佐口賢作)
▽井上咲楽(いのうえ・さくら)
1999年10月2日生まれ、栃木県出身。A型。『アッコにおまかせ!』(TBS)、『おはスタ』(テレビ東京)、『サイエンスZERO』(NHK Eテレ)などに出演中。
Twitter:@bling2sakura
▽岸田文雄(きしだ・ふみお)
1957年7月29日生まれ。自由民主党所属衆議院議員。1993年の初当選以来、9回連続当選。安倍政権では戦後最長となる4年8カ月の間、外務大臣を務めた。第9代宏池会会長。