「今、音楽事務所で一番勢いがあるところは?」そう聞かれるとこの事務所の名前を上げる人も多いだろう。BiSH、BiS、豆柴の大群など7つの女性グループを擁するWACKだ。
そのWACKを率いるのが音楽プロデューサーの渡辺淳之介氏だ。

“破天荒”“型破り”そんな言葉とともに語られることの多い渡辺氏に、このほど公開されたWACKの合宿オーディションを追った映画『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』と、現在のアイドルシーンについて聞いた。(2回連載の2回目)

【写真】精神と体力の限界を超える少女たち…映画場面カット

※インタビュー1「タレントビジネスは代わりがいない、厳しくしないと成功できない」はこちらから。

     *     *     *

――WACKの立ち上げ当初は追う立場でしたが、現在のアイドルシーンにおいては追われる立場になったと思います。

渡辺 いやー、どうなんですかね。僕たちは今でもインディーズというか、邪道だと思っているんです。どでかいシーンで言えば、AKB48グループ、坂道グループ、K-POPのアイドルがいて、地下に僕たちがいるイメージです。謙遜でもなんでもなく、そこにはどうしても勝てないと思います。と言いながらもWACKに所属している子たちの夢、BiSHでいえば東京ドーム公演などは、そういうところに並ばないと実現は難しいと思います。そこに行くための努力はしていますし、まだまだ追いかけている気持ちでやっています。

――一方でWACKを目標にしている運営も多いです。

渡辺 確かにTIFに出させていただくときに、若い運営さんから「WACKさんみたいになりたくてやってます」とか言っていただける機会が多くなりました。
そういうことを言ってもらえるのは、すごくうれしいです。根本的な部分で、「何だ、俺でもできるじゃん」って思ってほしくてやっているところもあります。僕たちもお客さんが3人とか、そういうところから始めて、ここまで来られたのはラッキーだったなと思います。実際、やる気と根性さえあれば誰でも運営はできると思っているので、そう感じてもらえるものを作りたいなとは考えています。

――渡辺さんから見て、今のアイドルシーンはどう映っていますか。

渡辺 中間層と言われるところが非常に少ない状況になっていますよね。シーンはいろんな人たちがいて盛り上がっていくものなので、そこから上がっていくことが大切です。中間層がなくなったことで、僕たちはWACK内でグループを作って、WACKというシーンを作る形でやってきたんですけど、そうじゃないところからシーンが生まれてくるとうれしいですね。どうしても突き上げがないと、僕たちも上がれないですから。

――ここ数年、中間層のアイドルグループが数多く解散していますが、WACK内でもグループの解散や解体がめまぐるしく行われていますよね。

渡辺 みなさん僕のことを残酷と言いますけど(笑)。僕としてはお客さんの方が残酷だと思っています。
お客さんは興味がなくなると、すぐに離れて行ってしまうので、僕たち的には、どうやってお客さんを引き付けていられるかに注力しなくてはいけなくて……。むやみやたらに解散を繰り返せばいいってことではないんですけど、彼女たちの未来もあるので、ずるずる続けるよりも辞めたほうがいいんじゃないかという判断もせざるをえないんですよね。

――先ほどK-POPのお話が出ましたが、NiziUのオーディションは観ていましたか?

渡辺 観てました。すごいですよね。

――どんな感想を持ちましたか?

渡辺 ちょっと話はそれちゃうんですけど、「勝てないよな」って思うんですよ。なぜかと言うと、過去にAKB48のドキュメンタリー映画『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る』(2012年)を観たときも感じたことなんですけど、言い方は悪いですが、メンバーが過呼吸で倒れる姿が残酷に見えているわけですよ。僕たちが、もっと地下アイドルの現場にいたときは、楽屋中で過呼吸の子がいましたからね(笑)。もっと、こっちは壮絶だぞという気持ちもありつつ、誰もが知っている国民的グループと同じ土俵で勝負しても勝てるわけがないと思ったんです。NiziUもJ.Y.Parkさんが手掛けるというインパクトには勝てないし、羨ましいなという気持ちがある一方で、有名だからこそ極端なことはできない部分もあるんだろうなと。だからこそWACKも共存できているのかなと感じます。

――コロナ禍でWACKのスタンスに変化はありましたか?

渡辺 この1年で、改めてライブやイベントの大切さを痛感しました。でも、このコロナ禍で変化するのではなく、当たり前に音楽を作って、当たり前に活動を続けていくことこそが大事だなと思っています。
やっぱり配信ライブでは生の良さを感じられないですし、僕の中では生のライブに代わるものは見つかってないんですよね。これが5年続かれてしまうと、僕たちは生きていけないですけど(笑)。でも、それは皆さん同じ状況ですし、今は耐えながら真摯に音楽制作をしていくだけです。

【あわせて読む】BiSH セントチヒロ・チッチが語るオーディション「嫌われようが、言いたいことは全部言って帰ろうと決めていた」
WACK 渡辺淳之介「NiziUが羨ましいと思う一方、だからこそ共存できているのかなとも」

▽『らいか ろりん すとん-IDOL AUDiTiON-』
1月15日(金)よりテアトル新宿ほかにて全国順次公開
監督:岩淵弘樹 バクシーシ山下 エリザベス宮地
プロデューサー:渡辺淳之介
撮影:岩淵弘樹 バクシーシ山下 エリザベス宮地 白鳥勇輝
出演:BiSH BiS EMPiRE CARRY LOOSE 豆柴の大群 GO TO THE BEDS PARADISES WAgg オーディション候補生
配給:松竹 映画営業部ODS事業室/開発企画部映像企画開発室
2020年/82分/ヴィスタサイズ/2.0ch ステレオ/(C)WACK.INC

▽『らいか ろりん すとん-IDOL AUDiTiON-』公式サイト
http://rolin-ston-movie.com/
編集部おすすめ