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アイドルオタクにもいろんな考え方の人がいると思うんですけど、僕は「ルックスさえよければ、あとはどうでもいいや」というタイプではないんです。やっぱりアイドルが一番輝く場所はライブですからね。そうなるとパフォーマンス力ってものすごく重要ですよ。アイドルにも実力が求められるのは間違いない。
でも「アイドルにとって理想のパフォーマンスとは?」と改めて聞かれると、すごく難しい。彼女たちは声優とも違うし、アーティストともまた違いますから。アイドルの場合は「パフォーマンスが上手い」ことがすべてではなく、例えば、観ているファンに成長を感じさせることが大事なんです。歌にしてもダンスにしても、むしろ少しぎこちないくらいの方がよかったりすることもあるし。
例えばダンスだと、メンバー全員がビシッと揃っているのはもちろんカッコいいですよ。だけど1人だけ違和感のある動きをしていても、それはそれで味があるかなと思うんです。
Task Have Funのふうちゃん(熊澤風花)なんて完全に憑依型の表現者だから、毎回、動きが違うんですよ。もともとの振り付けは決まっているはずなのに。でも、それがライブの醍醐味じゃないですか。完璧にリハーサル通りのものを見せられるより、僕は好きですね。
実際、お笑いでもライブならではの緊張感というのは大事な要素になるんです。団長(安田)なんて打ち合わせにない振りとかを本番で急にブッこんでくるんですよ。僕は基本的に段取り通りに進めたい人だから「おいおい、勘弁してくれよ~」と内心では思っているんだけど、それで会場の雰囲気がピリッと締まるのは確かですから。そう考えると、やっぱり完成度が高いからって必ずしもお客さんが喜んでくれるわけじゃないのかもしれないな。
僕の好きなグループでいうと、病ンドルとか解散したリンダ3世は、最初から上手さを目指していないんですね。正直パフォーマンスはヨレヨレなんだけど、そこを矯正しちゃったら彼女たちが歌う意味がなくなってしまう。これこそが実力主義のアーティストにはない、アイドル特有の奥深さなんです。
例えば歌手のLiSAファンの人が「今日はだいぶ音程外していたけど、そこがよかった」なんて考えないじゃないですか。一方の病ンドルなんて、わざとヨレヨレしながら病んでいる雰囲気を出そうとしているわけですから。それはそれで一種の真剣勝負なんですよ。
ところが「じゃあアイドルは下手な方がいいの?」って話になると、それは絶対違う。歌でもダンスでも最低限のスキルは必要。練習もしない下手糞な子が「これも個性です」とか開き直っていたら「フザけるな!」ということになりますって。
それからよくあるのは、やっている曲は高度なんだけどメンバーのパフォーマンスが追いついていないパターン。「イタタ……」って思いますよね。僕は自分自身がアイドルになりたかったこともあって、彼女たちをリスペクトしているんです。
パフォーマンスに関して僕が特に注目しているのは、メンバーの表情ですね。ちゃんと曲の世界観に入り込んでいるか、観ている人に訴えてくるものがあるか……。実際、そこは豆柴の大群のメンバーにもよくアドバイスしています。
『恋のかけ算 ABCDEFG』のMV撮影でも何度も注意しましたしね。MVは水着姿で5人がはしゃぐ内容なんです。ところが自分たちではワチャワチャ感をせいいっぱい出しているつもりかもだけど、観る側には全然伝わってこない。こっちとしては弾ける若さを表現したいのに……。だから「MAXでやってほしい。やりすぎるくらいでちょうどいいから」って説得しました。演者って過剰にやらないとダメですよ。
完璧なものを求めているわけではない。むしろ下手な方が味があるときもある。でも下手すぎたら怒るし、きちんと成長した姿は見せてほしい。う~ん……自分でも矛盾したようなことを言っているなと感じますけど、アイドルというのはそれくらいデリケートなバランスの上に成り立っている職業なんですよね。
もちろん歌やダンスのスキルは必要だけど、それよりも大事なのはキラキラ輝いているオーラですよ。ついつい応援したくなるような必死で頑張る姿。僕自身、アイドルからは毎日のようにパワーをもらっているし、とにかく全力でキラキラ輝こうとする姿勢だけは絶対に忘れないでほしいしん!