10月1日より、「J:COM BS(旧BS松竹東急)」が編成リニューアルを行い、人気のアジアドラマや昭和名作ドラマ、歌謡番組など多彩な放送ラインナップで24時間放送を行っている。

そのなかでも注目を集めているコンテンツのひとつが、1968年から1973年にかけて放送された名作ドラマ『キイハンター』だ。
国際警察の秘密捜査グループに所属する“キイハンター”たちの活躍を描いた同作は、その壮大なスケールや華麗なアクションもあって国内外で注目を集め、最盛期には30%を超える高視聴率を記録。社会現象ともいえる大ヒットとなった。J:COM BSではその全262話を順次放送する予定だ。今回、同作のメインキャストのひとりで、スピード狂の島竜彦を演じた谷隼人さんにインタビューを実施。作品への想いや撮影秘話、見どころなどを存分に語ってもらった。

○令和の現代でも色褪せないアクションやファッションが満載

──J:COM BSで『キイハンター』が全話放送されると聞いたときの気持ちを教えてください。

放送開始から57年ほど経っていますから、令和の今、みなさんがご覧になって「違和感はないかな? 受け入れられるかな?」と少し不安を覚えました。同時にとても嬉しかったですね。やはり、この作品で“谷隼人”として世に出してもらったという想いがありますから。観ていただいたら、絶対、何かしら感動してもらえるものがあるのではないかと思います。

──キイハンターと呼ばれる国際警察の秘密捜査グループのメンバーが大活躍するストーリーですね。

当時としては、かなり先を行く内容だったと思います。
番組のスタート時点では、丹波哲朗さん(黒木鉄也役)と野際陽子さん(津川啓子役)、千葉真一さん(風間洋介役)、そして私、谷隼人(島竜彦役)と大川栄子ちゃん(谷口ユミ役)の5人がメンバーでした。最初の頃、私が演じる島は“坊や”と呼ばれるような扱いだったのですが、ユミちゃんとともにだんだん役が大きくなり上の世代のメンバーとも対等になっていきます。そういった成長の過程も見ていただけるし、ボス役の丹波さんのなんとも言えない存在感や千葉さんの華麗なるアクション、野際さんの素敵なファッションなども出てくるので、ぜひ楽しんで見てほしいですね。

──アクションのダイナミックさは『キイハンター』の大きな魅力ですね。

とくに千葉さんのアクションシーンはすごい。走っているジープから飛び降りたり、ヘリコプターやセスナからぶら下がったり、吹き替えなしで命懸けのスタントをこなしていました。普通は俳優さんがやらないですよ。

ちなみに、ジープからは私も一緒に飛び降りました。台本では、ジープで横道にスピンして入り、ふたりで斜面を転げながら降りて単車を盗んで逃げていくという設定だったのですが、ジープで走行中に千葉さんがいきなり「谷、飛び降りるぞ」と。それを聞いて「え? 車から飛び降りるわけないよね?」と耳を疑いましたけど(笑)。そのときは先に飛んだ千葉さんを見て、「あんな風にやるのか、こうやるとかっこよく見えるのか」と思いながら私も続いて飛び降りました。今ほど(撮影技術などの)高等テクニックもない時代ですし、そういった立ち回りのすごさもぜひ見てほしい。


それ以外のシーンでも、カーアクションの際はちょっと横道の方に逸れて走っていくことが多かったですね。その方が撮影もやりやすいですから。公道ではなかなかできなかったので、自衛隊の演習場や多摩の方などに行って撮影していました。

○本土復帰前の沖縄でロケした際の撮影秘話も!

──ほかに、ロケの思い出などはありますか。

放送が始まった当初はモノクロ放送だったのですが、途中でカラー放送になったとき、その記念で沖縄に行きました。しかし宿泊しているホテルの塀が壊されるくらいファンの方が殺到して、消防車が散水するほどの騒ぎに。これじゃあホテルの出入りができず撮影もままならないということで、ファンの方に納得してもらうため、レギュラー陣が5,000枚以上色紙を書いてお渡ししたことがありました。

お土産も買いに行けないので、お土産屋さんをホテルに呼んで来てもらったくらいです。当時は、沖縄の本土復帰前でアメリカ統治下のため1ドル360円の時代でしたが、当地での視聴率は最高で95%くらいもあったそうです。こんなにすごい人気がある番組なんだと、そのとき改めて実感しましたね。

沖縄ロケのエピソード(第27~28話)には、(編注:谷隼人さんのご夫人の)松岡きっこさんもゲスト出演していまして……。ミニスカートで出てますよ。
あれで出会ったからよくなかったんだな(笑)。

『キイハンター』は長期にわたって放送していたので、ほかにもさまざまな方が出てますよ。たとえば演出家の蜷川幸雄さんや、 その奥さんの真山知子さんなども出演されています。そういった意外なゲストを見つけるのもまた楽しかったり。

──ストーリー以外の部分でもいろいろ楽しめそうですね。

途中で村山新治監督、鶴田浩二さん主演の『あゝ予科練』という映画に出演したとき、気合を入れて坊主にしたことがあるのですが、『キイハンター』の近藤照男プロデューサーから「降板してもいいのか。カツラ作ってもらえよ」と言われて、カツラをかぶって出ている回もあります。

ほかにも、今の時代に見直されている昭和のファッションなども楽しめますし、クルマもいろいろ出てきます。僕ら、毎日違うクルマを運転していましたから。当時の風景を今と比較して楽しむこともできますしね。

──全262話もありますが、谷さんが気に入っているエピソードや思い入れのあるエピソードは?

思い出のあるエピソードはいっぱいありますね。そのなかでも放送が始まって少し経ったころ、私と大川栄子ちゃんが主役を任された回(佐藤肇監督の第12話「幽霊船が呼んでいる」)は、ふたりが役者として伸びていくときの熱気を感じてもらえるおもしろい作品だと思います。


──レギュラー陣が交代で主役を務めるリレー方式も『キイハンター』の特徴でしたね。

毎週放送されていたので1週間に1本作らなきゃいけないのに、撮影が10日間くらいかかってしまう。時間が足りなくて複数話を同時進行で撮影するので、だんだん「誰々編」のように主役を交代で務めるようになりました。台本も常に3~4冊くらい持ってましたね。

そんななか、丹波さんはお好きな麻雀の途中で撮影所にいらして「おい、今日はどこやるんだ」という感じで、セリフも何も覚えてらっしゃらない。先々週に撮影が終わった回の台本を持って来られたこともあります。でも、作品ができて上映されてみると、その丹波さんがいちばんかっこいいんですよ。私が尊敬する高倉健さんがよく「作品には生き様が出るぞ」とおっしゃっていましたが、やっぱりそういう存在感がスクリーンにも映るんだなと思いました。

──今回の放送で『キイハンター』を初めて観る人にメッセージをお願いします。

昭和40年代に、国際警察を舞台に繰り広げられるアクションドラマの先駆け的な作品が『キイハンター』です。架空の設定ではあるのですが、決して絵空事ではなく、登場人物が作品の世界で起こる事件や犯罪に一生懸命向き合って挑んでいくところがドラマとしてとてもおもしろいのではないかと思います。

現代とのギャップを感じさせない部分もあれば、異なる部分もあります。
しかし根底に流れているもの、たとえば人の心とか愛、葛藤、野心などは同じ。私もこの機に、千葉真一さんに負けるもんかと思って頑張っていたギラギラした自分をもう一度観直してみたいなと思っています。人によってさまざまな楽しみ方ができる作品だと思うので、ぜひ観てみてください!
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