携帯各社がここ最近、5Gのネットワークをスタンドアローン(SA)運用へと移行する動きを強めています。SA運用へ移行することで、4Gのネットワークに依存していたノンスタンドアローン(NSA)運用の5Gと比べると4Gにかかる負担が減り、通信品質向上につながることが目的の1つなのですが、より大きな目的は別にあるようです。

4Gに負担がかからず、通信品質向上につながる5G SA

日本では2020年にサービスを開始した5G。すでに6年が経過したこともあって、全国に5Gのネットワークが整備され、その利用も大きく広がってきたことから、携帯各社が次のステップとして進めているのが「5G SA」への移行です。

現在の5Gネットワークは、1つ前の通信規格である「4G」からの移行をスムーズに進めるため、4Gのネットワークの中に5Gの基地局を設置するNSAでの運用が主流です。その5Gを4Gから切り離し、5G専用のネットワークとして運用するのがSA運用になります。

そのNSAからSAへの移行を積極的に進めているのがKDDI。同社は2025年度末までに、5G SAのエリアを人口カバー率で90%超にまで広げるとしています。ソフトバンクも5G SAの本格展開を打ち出し、2025年ごろから対応エリアの急拡大を図っています。

大幅な通信品質低下などが影響し、ネットワーク面で競合の出遅れが指摘されているNTTドコモも、ここ最近5G SAに力を入れる動きを見せています。2025年末に実施された「コミックマーケット107」では、5G SAを積極活用したネットワーク対策を実施していました。そして、まだ5G SAのサービスを展開していない楽天モバイルも、2026年から5G SAを開始する方針を示しており、2026年には携帯4社による5G SA移行がより本格化するものと見られています。

とはいえ、NSAからSAに移行したところで、スマートフォンの通信速度が劇的に向上するわけではありません。それゆえ、世界的に見ても、SA運用に移行している国は決して多いとはいえないのですが、なぜ日本の携帯電話会社が5G SAに力を入れるようになったのかといいますと、大きな理由の1つは通信品質の向上にあります。


2023年にNTTドコモが通信品質を大きく落として以降、携帯各社は通信品質の向上に力をより入れるようになりましたが、そのボトルネックとなりつつあるのがNSA運用の5Gなのです。NSA運用の5Gは、4Gのネットワークと一体化しており、5Gに接続するのにも必ず一度4Gへ接続する必要があるため、4Gに負荷がかかりやすく通信品質低下につながりやすいのです。

ですが、5GをSA運用に移行すれば、4Gと5Gのネットワークが明確に分離されるため、4Gにかかる負担が減り、4Gと5G双方の通信が安定することになります。そうしたことから、通信品質をより高めるべく、携帯各社が5G SAへの移行を積極化しているわけです。

5G SAの切り札「ネットワークスライシング」とは

ですがもう1つ、携帯各社が5G SA運用へ移行するのには大きな理由があり、それは5Gの本領を発揮するためです。NSA運用の5Gで実現できるのは、あくまで5Gの特徴の1つである高速大容量通信のみ。4Gの性能に影響され、5Gの性能をフルに発揮できない仕組みでもあるのです。

その5G SAで使えるようになるのが「ネットワークスライシング」です。これは携帯電話のネットワークを仮想的に分割し、用途に応じた専用のネットワークを提供するもの。固定のブロードバンド通信で、企業などに向けて提供されている専用線のようなサービスを、モバイル通信で実現する仕組みといえば分かりやすいでしょうか。

ネットワークスライシングで分割・割り当てられたネットワークは、その用途専用となるため、周辺の環境に左右されることがありません。周辺で多くの人がスマートフォンを利用し、ネットワークが混雑してしまっていたとしても、その影響を受けることなく安定した通信を継続できるわけです。


5G SAのネットワークスライシング活用に向けた取り組みは、ここ最近積極的に進められています。実際、2026年3月27日から三重県鈴鹿市で実施されていた「2026 FIA F1世界選手権シリーズ Aramco 日本グランプリレース」(F1日本グランプリ)では、ソフトバンクとエリクソンが共同でネットワークスライシングを用いた実証実験を実施していました。

具体的には、ネットワークスライシングでネットワークを5つに分割し、一般ユーザーが利用するスマートフォン向けのほか、映像中継カメラ用、XRコンテンツ用、キャッシュレス決済用など、用途に応じたネットワークを提供していました。XRでは大容量通信が必要ですが、キャッシュレス決済では大容量よりも安定して通信できることが必要であるなど、用途に応じて通信に求められるニーズに違いがあることから、ネットワークスライシングを活用することで、それぞれの用途に適したカスタマイズを施した通信環境を提供するわけです。

ネットワークスライシングを商用サービスとして提供する動きも出てきています。NTTドコモ傘下のNTTドコモビジネスは2026年3月26日、法人向けのサービスとして「5Gスライシング」の提供開始を打ち出しています。これは、NTTドコモの5G SAネットワークを用い、ネットワークスライシングで契約した企業専用のネットワークを用意するものです。

これによって企業が周囲の環境に左右されることなく、安定した通信を確保できるようになることから、常に一定の品質で映像中継することが求められる放送事業者や、ロボットなどの正確な制御が求められる製造業などでの活用が見込まれているようです。

現時点では、国内で5G SAへの移行が途上で、ネットワークスライシングの活用も初期段階というべき状況にあります。ですが、ネットワークスライシングは5Gの切り札ともいわれてきた技術だけに、今後携帯各社もそれを活用したさまざまな取り組みを進め、目に見える形で我々がメリットを享受できる機会も増えてくるのではないでしょうか。

佐野正弘 福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。
現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。 この著者の記事一覧はこちら
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