堂安律と奥川雅也の日本人コンビによるアベックゴール(3月14日)など、日本にも話題を提供しているドイツ・ブンデスリーガのアルミニア・ビーレフェルト。

残り3試合となった今季のブンデスリーガでは現在暫定15位に位置している。

ただ、彼等には成績以上に勝ち取りたいサスティナビリティ(持続可能性)がある。

堂安と奥川が救う!ビーレフェルトが勝ち取りたいサスティナビリティ

40年近く前から日本人を登用してきた稀有なクラブ

ビーレフェルトが今季ブンデス1部を戦うのは12年ぶり。元日本代表MF香川真司をはじめとする多くの日本人選手がブンデスリーガでプレーするようになった2010年代には、1度も1部に所属していなかったこともあり、日本のサッカーファンとは縁のないクラブだった。

しかし、同クラブには14年前にもアジア人コンビが誕生していた。

1997-1998より加入したイラン代表FWアリ・ダエイと同代表MFカリム・バゲリである。日本が「ジョホールバルの歓喜」で沸いた対戦相手には、移籍初年度でリーグ7ゴールを挙げて翌年にバイエルン・ミュンヘンへ引き抜かれるダエイがいた。そして、W杯初出場を決めた日本の勝因は、攻守の要バゲリの累積警告による出場停止が大きかった。

さらに遡ると、1983年から元日本代表FW尾崎加寿夫が加入し、元日本代表MF奥寺康彦に続くドイツで2人目の日本人プロ選手として契約。1984-85には、名将へネス・バイスバイラ―氏の下で薫陶を受けた当時35歳の日本人指導者・鈴木良平氏を「事実上の監督」として招聘している。このシーズン、ビーレフェルトは2部降格に終わったが、鈴木氏は後に初代女子日本代表監督として指揮を執ることになった。

つまり、ビーレフェルトは欧州全体から「サッカー後進国」扱いされていたアジアからの人材を、40年近く前から登用してきた稀有なクラブなのだ。

堂安と奥川が救う!ビーレフェルトが勝ち取りたいサスティナビリティ

2部独走優勝と12年ぶり1部での苦戦

近年のビーレフェルトは2018年12月にウーべ・ノイハウス監督を招聘してから著しい上昇曲線を描き始めた。

昨季は熾烈で無骨なブンデス2部で組織的なパスサッカーを完成させ、2位以下に勝点10差をつけて独走優勝。フィールド選手顔負けのキック精度とパスセンスを備えるGKシュテファン・オルテガから丁寧なパスを繋ぐようにチーム力を着実に積み上げ、攻守に隙のない戦いぶりで12年ぶりの1部昇格を果たした。

そして、予算規模が1部ではリーグ最少である彼等は、今季も2部時代に培った完成度の高いパスサッカーで挑んだ。しかし、内容的には手応えも掴みながら、第3節から7連敗を喫するなど結果が伴わない。

GKオルテガはビルドアップの起点として重要な働きを見せ、本職のゴール前でリーグトップのセーブ数を記録する奮闘。来季バイエルン移籍の報道もあるほど評価が高いのだが、チームは理想と現実の狭間で揺れている。

勝利が遠い原因はリーグワースト2位の23ゴールという得点力不足にある。ここまでチームが放った総シュート数もリーグワースト2位の285本なのも深刻だ。攻撃的なサッカーを志向していたはずが、得点どころかシュートも撃てていない。

また、ロングボールを使う回数が増えたことで、全体が間延びする傾向が強い。個々の能力が低いチームには致命的な弱点として露呈して大量失点による連敗を招き、昇格の立役者ノイハウス監督は第23節終了後に解任された。

堂安と奥川が救う!ビーレフェルトが勝ち取りたいサスティナビリティ

モダンにアップデートされた日本人コンビ

そんな中、指揮を任されたフランク・クラマー新監督はレッドブル・ザルツブルクのアカデミーやドイツのユース代表での確かな実績がある育成型指導者で、プレッシング戦術に長けている。

新監督はサイドアタッカーを起用しない「4-3-1-2」を採用し、中盤での密度の濃いプレッシングを重視。チームはDFラインを高く押し上げて攻守両面でコンパクトになり、モダンなスタイルを体現。20本以上のシュートを放つ試合もあるなど変貌を遂げた。

そして、チームと共にアップデートされているのが日本人コンビ(堂安&奥川)なのである。

今季開幕直前、オランダのPSVアイントホーフェンからレンタル移籍でやってきた日本代表MF堂安律は加入直後から主力として定着。4得点3アシストを記録し、MFながらチーム最多でリーグ全体8位となる61本のシュートを放つなど、チームの絶対的な柱としてプレーしている。また、卓越したドリブルスキルや体幹の強さを活かしたキープ力の高さもあり、デュエル勝利数もリーグ8位の352回と大活躍している。

そんな堂安を新監督はこれまでの定位置である右サイドMFではなく、FWやトップ下として起用。攻撃の幅よりも、奪って速く攻める「縦への推進力」を優先しているのだ。

チームNo.1の個人技を持つ「堂安をどのエリアで活かすのか?」は以前からチームの課題でもあったが、モダンなサッカーへアップデートされた現チームでは、「FW堂安」は最適解である。

そして、冬の移籍市場で指揮官の古巣ザルツブルクから加入したMF奥川雅也は、京都サンガの下部組織時代から「古都のネイマール」と呼ばれたドリブラーだった。

しかし、現在の奥川はオーストリアの強豪で欧州最先端のプレッシング戦術を体得。前へボールを奪いに出る場面でも、プレスバックで戻る場面でも献身的にプレーできる。“闘えるインサイドMF”として新境地を開拓し、初ゴールも奪った彼は指揮官が信頼を寄せる残留のキーマンである。

堂安と奥川が救う!ビーレフェルトが勝ち取りたいサスティナビリティ

残留より重要視するサスティナビリティ

ビーレフェルトは2010年代に3部降格を2度経験し、クラブライセンスの交付すら危ぶまれるチーム消滅の危機に陥った。

現在はコロナ禍が続く状況だが、ドイツ紙『キッカー』にて、「もうそれはないよ」と、スポーツディレクターとしてクラブの運営やチーム編成を担うサミ・アラビ氏は言う。

また、アラビ氏はこう説明した。「クラマー監督を招聘したのはトップチームとユースチームで豊富な経験をもつ専門性や分析力がクラブにマッチしたからだ。クラブは将来的に若手選手の育成により力を入れ、ユースのトレーニングセンターを拡充し、トップチームが身近になるよう独自のチーム編成の最適化をはかっている」

1部昇格を掴み、経営的にも安定し、サッカーのスタイルもモダンになってきた彼等には、目先の結果以上に持続可能な価値(サスティナビリティ)が必要なのである。

それは自前の若手育成だけでなく、堂安や奥川のような強豪クラブで出場機会が少ない若手が武者修行を積む場所としても魅力的なはずだ。

果たして、堂安と奥川は40年近く前から日本人を登用してきたビーレフェルトを1部残留へ導けるのか?

ビーレフェルトは走行距離で2位、デュエル勝利数はトップを記録しているように、最後まで諦めずに闘うゲルマン魂の集団である。

データ参照:ブンデスリーガ公式

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