Jリーグ中継『DAZN』でピッチサイドレポーターを担当する岡山県在住のフリーアナウンサー・加戸英佳さんのインタビュー。

「夢だった」リポーターのお仕事についてのお話を伺った「前編」に続き、「後編」ではファジアーノ岡山(以下、ファジ)への想いを伺い、J2の楽しみ方まで考えてもらいました。加戸さんによる「マイ・ファジ・ベスト11」の取材経験に基づいた選出理由は必読!(取材・文・写真:新垣 博之)

ピッチサイドリポーター加戸英佳さん【特別インタビュー】後編「岡山とJ2の楽しみ方」

加戸英佳さんが選んだファジアーノ岡山ベスト11

GK:一森 純(現・ガンバ大阪

DF:加地 亮(解説者、元日本代表でG大阪や岡山などでプレー)

DF:片山 瑛一(現・清水エスパルス

DF:井上 黎生人(現・岡山)

DF:徳元 悠平(現・岡山)

MF:白井 永地(現・岡山)

MF:塚川 孝輝(現・川崎フロンターレ

MF:上田 康太(現・栃木SC)

MF:仲間 隼斗(現・柏レイソル

FW:豊川 雄太(現・セレッソ大阪)

FW:上門 知樹(現・岡山)

ピッチサイドリポーター加戸英佳さん【特別インタビュー】後編「岡山とJ2の楽しみ方」

最初に好きになった選手

―今回の取材にあたって事前にお題を設けていました。お願いします。

「題して、『マイ・ファジ・ベスト11』です。選考に凄く悩んだんですよ。対象は私がリポーターになった2017年以降にファジでプレーされて、私自身が取材した選手です。手作り感満載ですが(笑)」

―興味深いベスト11です。最初に選んだのは?

「加地さんですね。私はファジがまだJリーグに昇格していなかった頃はガンバの試合をよく観ていたんです。その中で加地さんは最初に好きになった選手なので特別な存在です。加地さんが引退した最後の年にリポーターとして入って、2試合だけでしたがホームゲームの担当もさせてもらったので嬉しかったですね。

緊張もあるんですが、私は好きな選手を離れて見ていたいと思うタイプなんですね。それでも最後のファンサービスの時にはサポーターさんの列に一緒に並んで、初めて写真を撮ってもらいました。良い思い出です。

それに顔も覚えていただいていて、今でも民放局さんの解説で来場される際はご挨拶してくださいます。本当に良い人だなって思いますね」

―緊張と言えば、代表経験のある解説者の方々と組む試合などは緊張しないのですか?

「ファジでもプレーされていた元日本代表の岩政大樹さん(元鹿島アントラーズなど)が解説を担当された試合もあって、その試合がチャリティマッチも組まれていた日でした。その日は播戸竜二さん(元日本代表、G大阪などでプレー)始め、“テレビの中にいる人たち”ばかりだったので緊張しましたね(笑)」

―ベスト11の話に戻ります。GKは一森選手ですね。

「彼はレノファ山口でJFL時代からプレーしていて、仕事と両立しながらサッカーでも頑張ってきた選手です。そういう苦労も知っている選手なので、生活もサッカーのために一貫しているストイックな姿勢も取材を通して感じさせてくれた選手です。足下も上手くてシュートストップも抜群なので、東口順昭選手の牙城は高いんですが、J1での活躍を観たいですね。ベスト11はGKの選出が1番悩みました」

―そして仲間選手や塚川選手、豊川選手、片山選手と現在J1で活躍する選手が入ってますね。

「仲間選手はファジが上位争い(最終順位J2・9位)をした2019年のシーズンを牽引してくれた選手ですね。自身で15ゴールを挙げた以上に、ドリブル突破で何度もチャンスを作れる彼の存在は大きかったと思います。

豊川選手はファジでは最初途中出場が多かったんですね。2016年のプレーオフ準決勝では途中出場で赤嶺真吾選手へ頭でアシストして、ベルギーでは最終節に途中出場で3ゴール1アシストと大活躍し、チームの残留に貢献しました。出場時間が短くてもチームに貢献できることが凄いですよね!今年はセレッソで今のところ全てスタメン出場なのでゴール量産を期待しています。

塚川選手はあのJ最強の川崎で錚々たるメンバーの中で普通にプレーしてる姿を観ている時、泣きそうになりました。『似合ってる~』って(笑)。

片山選手はもともとFWの選手でしたがDFにコンバートされて適応力も高い選手です。本来はSBの選手ですが、どうしても入れたくて。セレッソでも活躍し、今年はミゲル・アンヘル・ロティーナ監督と共にエスパルスに移籍しているので、信頼の厚さも感じます。今は怪我で離脱していますが、復帰したらさらに活躍してもらいたいです」

―では、取材対応が良い選手と言えば?

「上田選手ですね。パスだけじゃなくて気も配れる選手なんです。左足のFKは芸術的で何度魅力されたことか!今のファジは縦パスをズバッと刺せる選手が少ないので、今のチームに欲しいタイプの選手という意味でも選出しました。移籍したのはショックでした。

それから、白井選手は両ゴール前や中央・サイドと、どこにでも顔を出せる運動量が多い選手で、ファジサポさんからも、『いったい白井選手は何人いるの?』って言われています。ずっと走り回っているのに、今年はフルタイム出場中です。私も取材した際に、『白井選手って何人いるんですか?』と伺うと、『3人くらいですね』と返してくれるお茶目な一面もあるんです(笑)」

―そうするとベスト11のフォーメーションは[4-4-2]ではなく?

「[4-6-2]です(笑)」

―そして、現在も岡山でプレーされている選手が白井選手含めて4選手入っていますね。

「左SBの徳元選手は左利きでクロスの精度も良いですし、試合状況を見て判断しながらプレーできる選手でもあるので試合でずっと出ていてほしい選手ですね。時間を使ったり作ったりできるクレバーな選手です。

上門選手は今年もJ2第5節のモンテディオ山形戦や第7節の愛媛FC戦でスーパーなミドルシュートを決めたようなキック力が凄まじい選手です。取材していて知ったんですがシュートを蹴る時の足の使い方が他の選手とちょっと違うんですよね。彼をフリーにすると相手チームは怖いはずなので、長くプレーして欲しい選手ですね。

そして、今年鳥取から加入したCBの井上選手なんですが、彼は絶対にJ1に行くと思います。今のファジは失点は少ないんですが、押し込まれる場面は少なくないんですね。シュートを撃たれる場面も最後の最後に詰めてるのは、いつも井上選手なんです。ヘディングも強いですし、彼は今後どんどんステップアップしていく選手だと思います。できればファジと一緒J1にあがってほしいですけど、注目の選手ですよ!」

ピッチサイドリポーター加戸英佳さん【特別インタビュー】後編「岡山とJ2の楽しみ方」

「独断ファジ強化策」から考えるJ2の楽しみ方

ベスト11の選出について伺っただけでも、岡山からJ1へ多くの有力な選手が引き抜かれているのは一目瞭然となった。そこで加戸さんと考えたいのが、J2の楽しみ方だ。岡山の話になると主観的になるので別のクラブを例に出し、「独断ファジ強化策」を論じながら、J2の楽しみ方を探った。

例として挙げたのは、今年からJ1の舞台で戦っている徳島ヴォルティス。彼等もここ3年ほどでDF大崎玲央(現・ヴィッセル神戸)、広瀬陸斗(現・鹿島アントラーズ)、馬渡和彰(現・大宮アルディージャ)、MF杉本竜士(現・横浜FC)、FW渡大生(現・アビスパ福岡)、山崎凌吾(現・名古屋グランパス)と多くの選手がJ1へ“個人昇格”していった。昨季終了後にはリカルド・ロドリゲス監督まで浦和レッズに引き抜かれてしまったほどだ。それでも彼等は昨年のJ2で優勝し、今季はJ1でも堂々としたサッカーを披露している。

―岡山と同じく徳島もここ数年で多くの選手がJ1へ個人昇格しています。遂には監督まで引き抜かれてしまいました。でも、彼等は今季昇格したJ1でも堂々としたサッカーをしています。岡山との違いには何があるのでしょうか?

「引き抜かれるという意味では良い選手がそれだけ所属しているチームだと思うんですね。こうしてベスト11に挙げた選手だけでもこんなにいるわけですから。プロなので、『選手を育てる』っていう表現は適切ではないのかもしれませんが、個人昇格のオファーが来ても、『ファジでJ1へ昇格したい』と思ってもらえるチームにならないといけない。そのためには強くならないといけない。やっぱり、徳島さんは1度J1に昇格しているのが大きいと思いますね」

―ただ、2013年にJ2・4位で『J1昇格プレーオフ』を制した年の徳島は、“昇格請負人”小林伸二監督(現・ギラヴァンツ北九州)、DF千代反田充、アレックス、MF柴崎晃誠(現・サンフレッチェ広島)といった経験豊富な指揮官や選手を補強したチームでした。

「それで言ったらファジも2016年に6位に入って初めてプレーオフを戦った時、加地さんと岩政さんの元日本代表コンビや、MF矢島慎也選手(現・G大阪)やFW豊川選手のような五輪代表クラスの選手が活躍していました。あのプレーオフの決勝でセレッソに勝っていたら(0-1の敗戦)と今でも思いますね。

ただ、現在のファジは新卒やJ2、J3から獲得した若手選手が多いチーム編成になっていて、尚且つユースチームの強化にも着手して選手を育てていく方針に舵を切り始めています。だからといって完全に育成に特化したクラブにしていくわけではなく、J1昇格という目標を維持していくためのアカデミー強化だとクラブも発表しています。

時間はかかるかもしれませんが、お隣のサンフレッチェ広島さんが良い例で、アカデミー出身の選手がトップチームで活躍すれば、クラブとしても実績ができて岡山という地域も盛り上がっていきますよね! ちょうど先日ファジでも出場時間は短かったんですが、山田恭也というアカデミー出身の選手がJリーグデビューしました。クラブとしては2人目なのでまだまだ実績は少ないです。こういう選手たちがチームの中心選手として活躍してくれる日がくるのを楽しみにていますし、クラブ全体で進化していくファジを楽しみに見ていきたいところですね」

―伸びしろがある今後の岡山に期待ですね!ところで、そのプレーオフが昨季に続いて今年も開催されないことになりました。その影響はどう感じていますか?

「正直、ファジのような獲りたくても獲れない選手がいるような予算規模のチームだと、J1への昇格が自動昇格の上位2チームだけだと厳しい現実があると思います。そういう部分があるので6位までにプレーオフの出場権があると、『何とかそこに入っていけばチャンスがある』と思えるし、実績もあります。プレーオフがあるのとないのとでは全然違うと思いますね。最終節まで多くのチームにその可能性があるので、リーグ全体に置いても大きな影響力があると思います」

―その『J1昇格プレーオフ』を勝ち上がったチームがJ1で著しく成績が振るわないために、2018年からはJ1・16位チームとの入替戦を交えた『J1参入プレーオフ』となりました。

「J2クラブには高いハードルになっていると思います。でも、実際にプレーオフ勝者がJ1で結果を残せていなかったのも事実で。そうは言っても、徳島さんがJ1を経験した価値も大きかったと思いますよね。しかもJ2クラブは引き分けは負けなので、勝たないと昇格できないのは厳しいです。ただ、ドキドキ感は違いますよね」

―そう考えると2019年は加戸さんが担当していた岡山、京都がプレーオフの6位争い、岐阜は降格してしまいました。J2はJ1昇格もJ3降格もあるヒリヒリしたリーグです。

「岐阜さんの降格が決まった試合は私が担当していて、当然ながら降格のインタビューの経験はないので・・いい経験になりましたけど・・私も辛かったですね」

ピッチサイドリポーター加戸英佳さん【特別インタビュー】後編「岡山とJ2の楽しみ方」

ファジのJ1昇格インタビューやサッカーの面白さを伝えたい!

―では今後ピッチリポーターとして、やってみたいことはどんなことですか?

「岡山でファジと一緒にリポーターとしてJ1昇格を経験して、J1昇格インタビューをすることですね!そして、ファジサポさんだけでなく、他クラブのサポーターさんにも、『岡山のリポーターと言えば、加戸ちゃん』って認識してもらえるようになること。もっと言えば、サッカーの楽しさや見方や角度、切り口には色んな面白さがあるっていうことを伝えて広めていきたいと思っています。

やっぱりビッグマッチや大事な試合って東京からコメンタリーの皆さんがくることが多くて、岡山に限らずそういった大事な試合を任せてもらえるようなピッチリポーターになりたい。逆に地方にいても東京で開催される大事な試合に呼んでもらえるくらいに!」

―ちなみに今インタビューしてみたい選手は?

「英ちゃん(加戸さんの大学時代の同級生・横浜FCのDF武田英二郎)ですね。英ちゃんは心臓の手術もしていてかなりの苦労人なので。年齢的にも今年で33歳、どんどん引退していく選手が多いのでインタビューしたいですね!

それから、大学サッカーを見ていてJリーグにも知っている選手がどんどん入って来ているので、青学の後輩や大学サッカー経験者にインタビューしたいですね!」

ジュビロ磐田の山田大記選手のブレイク辺りから大学サッカーの選手がJ1で即戦力として活躍し始めたと思うのですが、一方で「Jユースは何のためにあるの?」という問題提起もあります。加戸さんだからこそ分かる大学サッカーの魅力はどこにあるのですか?

「山田選手は大学生の頃から注目していましたね!やっぱり19歳~22歳の4年間をどう過ごすか?が重要だと思います。大学サッカーにはJユースからプロのトップチームに上がりたかったけど、上がれなかった選手も多いですし、その悔しさを持ちながらも新たな環境でどう4年間を過ごすか?高校生と大学生では考え方に変化があります。サッカーへの理解も違うので成長の仕方も違うと思いますね。今はトップ昇格を断って大学サッカーに入って来る選手も多いので、私は大学サッカーをお薦めしたいですね」

―それでは最後に岡山へ帰ってきた妹の由佳選手(現・吉備国際大学Charme岡山高梁)へにはどんな言葉をかけたいですか?

「妹がいるから良い繋がりができたこともありますし、代表に入った時もあのユニフォームを着てプレーしている姿を観てメチャクチャ感動しましたし、誇りに思いました。岡山に帰って来た妹には悔いのないように、サッカーを心から楽しんでプレーして、やりきって欲しいと思います」

ピッチサイドリポーター加戸英佳さん【特別インタビュー】後編「岡山とJ2の楽しみ方」

―コロナ禍が終息した暁には、みんなでラサスタ(※1)集合、ゴンベ(※2)行きですね!

「それ最高ですね!よろしくお願いします!」

※1ラサスタ:加戸由佳選手も在籍した岡山湯郷Belleの本拠地・岡山県美作ラグビー・サッカー場の略

※2ゴンベ:ラサスタ近辺にある湯郷Belleの選手・サポーター御用達の老舗喫茶店『ゴンベ』の店内。写真:筆者

―本日はありがとうございました!

編集部おすすめ