5月30日に行われたUEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝は、2年ぶりのイングランド勢対決となった。今季のプレミアリーグを4位で終えていたチェルシーが、同リーグ王者のマンチェスター・シティを1-0で下し、2011/12シーズン以来9年ぶりの欧州王者の栄冠を勝ち取った。
チェルシーの指揮官であるドイツ人のトーマス・トゥヘル監督は、昨季フランスのパリ・サンジェルマン(PSG)を率いてCL決勝で敗れており、雪辱を果たした格好だ。
振り返れば、2018/19シーズンにリバプールを優勝に導いたユルゲン・クロップ監督に始まり、昨季のハンジ・フリック監督(当時バイエルン・ミュンヘン、EURO後にドイツ代表監督就任)、今季のトゥヘル監督と、ドイツ人指揮官による“3連覇”となった。
ちなみに、昨季のCLベスト4にはフリック監督とトゥヘル監督以外にもユリアン・ナーゲルスマン監督(来季よりバイエルン監督就任)のRBライプツィヒが進出しており、ドイツ人監督の手腕が欧州レベルで際立つ。
4人ともタイプは異なる。しかし、1つの戦術に拘るのではなく攻撃ではポゼッションとカウンターを使い分け、守備でも前線からのプレッシングと自陣に引くリトリートを使い分けられる。攻撃から守備への切り替え、守備から攻撃への切り替えなどトランジションに最も力を発揮できる点が共通しており、どんな局面でも柔軟に戦えるチームへと発展させられる現代的な監督たちだ。
そこで今回はドイツ人監督に着目しつつ、欧州CLの優勝クラブと優勝監督について深堀りしていきたい。

21世紀以降の欧州CL:スペイン勢時代と3カ国の寡占
上記リスト『欧州CL優勝クラブと優勝監督』の対象としたのは21世紀以降。選手の移籍に自由化が導入されるに至った1995年の「ボスマン判決」からの流れが加速し、レアル・マドリードが「銀河系軍団」を形成し始めた頃、世紀と共にサッカー界も歴史的な転換点を迎えていた。
21世紀以降のCL最多優勝クラブとなっているのは、そのレアル・マドリードだ。前述の銀河系軍団に形成された「20世紀最高のクラブ」は、5回の欧州王者に輝き21世紀もリードしている。次点は4回優勝のバルセロナで、3回のバイエルンが続く。また全21大会中では、優勝クラブが9つ生まれている。
優勝クラブの所属リーグ国でカウントすると、レアル・マドリードとバルセロナ含むスペイン勢が全21大会中の約43%となる9大会を制している。特に2013/14シーズンからの“5連覇”が大きく、独り勝ちに近い状況だ。
次に多いのはイングランド勢の5回。クラブ別の優勝回数では上位に登場しないが、3クラブがCL優勝を経験しているのは興味深い。ドイツ勢の3回が全てバイエルンであるのとは正反対の例である。
ちなみに21世紀以降にCL優勝を経験している所属リーグ国は5カ国に限定され、2009/10のインテル(イタリア)の優勝を最後に、スペインとイングランド、ドイツの3カ国の中から11年連続でチャンピオンが生まれる寡占状態が続いている。

欧州CL優勝監督:同国人監督は半数に満たない
次にCL優勝監督の集計だが、まずはFIFAワールドカップ(W杯)と比較したい。前回2018年のロシア大会までで全21大会が行われたW杯では、全ての優勝国は同国人監督が率いている。対して、21世紀以降の欧州CLでは優勝クラブを同国人監督が率いていた例は半分に満たない10ケースのみ。W杯とは全く異なる数字が残るのだ。
しかも、これを5年ごとに集計すると、2000~2005年には4ケースあったものが、2005年からは2ケース、2010年からは3ケース、2015年から現在までの6シーズンでは1ケースのみと縮小傾向が著しい。欧州のクラブサッカーシーンに「国境はない」とはよく言われるが、それが選手だけでなく監督の市場でも顕著となってきている。
21世紀以降のCL優勝監督で最多を記録しているのは、ジヌディーヌ・ジダン監督とカルロ・アンチェロッティ監督の3回。
そして、バルセロナ時代に2度のCL制覇を経験したジョゼップ・グアルディオラ監督、“ミラクル・ポルト”とインテルで1回ずつ栄冠を勝ち取っているジョゼ・モウリーニョ監督が続く。
上記4人の監督で全21大会中10大会制覇と約半数の大会を制しており、他の11大会は異なる監督が1回ずつタイトル獲得に導いている格好だ。

21世紀以降に5人のCL優勝監督を輩出したドイツ、ゼロが続くイングランド
欧州CL優勝監督の出身国で集計すると、ドイツとスペインが優勝5回ずつで最多。時点がイタリアの4回、フランスの3回と続くが、これはフランス人のジダン監督とイタリア人のアンチェロッティ監督の3回が大きい。
ちなみに21世紀以降5回のCL優勝を経験しているイングランド勢は、スコットランド人のアレックス・ファーガソン監督を“外国籍”とすれば、1人もCL優勝監督を輩出していない、という皮肉な結果を招いている。
ドイツ人監督による優勝5回は全てが異なる人物で、ドイツは5人のCL優勝監督を輩出している。近年のドイツ人監督による“3連覇”は、3つのクラブで3人の監督が記録しており、うち2ケースはイングランドのクラブで達成した功績である。
近年のイングランドは若手選手を多く輩出し、2017年にはU17とU20のW杯で優勝。スペインとドイツも若手選手の育成から始まり、彼等を育成した指導者たちが成功を収める流れがあっただけに、今後数年でCLを制するイングランド人監督誕生の可能性がある。
「ビッグ6」と言われるプレミアリーグのトップクラブ(リバプール、マンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッド、アーセナル、チェルシー、トッテナム)は、スーパーリーグ構想よりも自国人監督の育成に投資することが長い成功をもたらす可能性が高いと言えるのではないだろうか?

クロップ、トゥヘルに続くか?“マインツの系譜”スヴェンソン
イングランドのクラブを率いてCL優勝したドイツ人監督の2ケースがクロップ監督とトゥヘル監督なのだが、彼等が初めてトップチーム監督のキャリアをスタートさせたのは、共にドイツのマインツだった。ステップアップ先が同じくドイツのボルシア・ドルトムントであるのも共通している。ちなみに元日本代表MF香川真司はドルトムントで彼等の指導を直々に受けている。
2人のCL優勝監督を輩出したのがマインツであるのが驚きなのだが、次なるクロップやトゥヘルとなる可能性があるのが、マインツの現指揮官であるボ・スヴェンソン監督である。
今年1月の就任直後こそ敗戦が続いていたが、2月以降は8勝5分2敗。2部降格圏内の17位で迎えた就任時から、12位へとジャンプアップ。バイエルンをも撃破する大躍進へとマインツを導いたのだ。
2001年から2008年までマインツの指揮を執り、2004/05シーズンにクラブ創設100年目で初めてブンデスリーガ1部へ昇格させたのがクロップ監督。2009年から2014年までマインツを指揮し、2010/11シーズンにブンデス1部で5位へと大躍進させたのがトゥヘル監督。その間、2007年から2014年までDFとしてプレーしていたのがスヴェンソンである。
現在は監督に就任して半年も経っておらず、リソースも限られるマインツではゲーゲンプレッシングによる守備からの速攻と堅守を武器にして戦い、勝点を積み上げてきている。シンプルなチーム作りではあるが、今後はクロップ監督やトゥヘル監督のようにビッグクラブに招聘されて戦術的にもアップデートされていく監督となるだろう。
スヴェンソン監督はデンマーク人である。しかし“マインツ産監督”として飛躍し、クロップ監督やトゥヘル監督と欧州最高峰の舞台であるCLで対戦する日は意外と近いのかもしれない。