2016年6月2日、アメリカのコマース・シティで行われたサッカー女子国際親善試合、日本VSアメリカ。筆者は“お団子頭”の選手に魅了された。トップ下として先発した彼女の、なでしこジャパン(日本女子代表)デビュー戦だった。
アスリート能力の高い世界女王の選手たちを相手にフィジカルコンタクトで負けずにボールを収め続け、無尽蔵のスタミナで攻守に渡ってボールによく絡む。そんな強烈なインパクトを残したのが、千葉園子である。その独創性溢れるプレースタイルはどのように育まれたのだろうか?

サッカーアニメ映画『さよなら私のクラマー』に重なる中学時代
6月11日に公開されたサッカーアニメ映画『さよなら私のクラマー ファーストタッチ』(原作出版:講談社・著者:新川直司)には、日本の女子サッカーのリアルが描かれている。主人公の恩田希は中学時代に男子サッカー部に在籍し、高校から女子サッカー部に入部していく。テレビ版『さよなら私のクラマー』では高校時代の模様が描かれているが、映画版では中学生時代をメインにしたストーリーが展開されている。
日本の女子サッカーには、プロ化以上に「中学生年代のチームが少なすぎる」という積年の課題がある。進学した中学校に女子サッカー部がないために、その段階でプレーを辞めてしまう少女がどうしても多くなるのだ。それでも、この映画の主人公は男子サッカー部に入部してプレーを続ける。実際にそのような女子選手もいる。現在、なでしこリーグ1部を戦うASハリマアルビオンに所属する千葉園子もその1人だ。
千葉園子選手!!⚽✨ https://t.co/ypT3GEW35k
— ASハリマアルビオン (@HARIMA_ALBION) June 9, 2021
「私は小学校3年生の時にサッカーを始めて、その頃は地元の少年団に所属していました。全体で25人くらいのチームの中に女子も常に5人はいるような環境でした。
中学生は思春期でもあるので、男子を下の名前で呼んだり、逆に男子に下の名前で呼ばれたりするのが恥ずかしかったりもする複雑な時期なので、映画を観ていて色々と思い出しました。たくさんの人に観て欲しい映画ですね。
実は、私は小学生の時は走ることをはじめスポーツテスト的なものは男女合わせても全部1番だったんです。それが中学生になって今までできていたことができなくなり、男女の違いも鮮明に出て、どんどん抜かれていくのが切なかったですね。
中学時代は学校の(男子)サッカー部に所属していて、平日は部活で練習して試合も出ていたのですが、週末は『大阪市レディースフットボールクラブ』という女子チームでプレーしていました。自転車で片道60~70分間くらいかけて通っていましたね(笑)。
男子とのスピードやフィジカルの違いを日頃から体感していたので、それを意識して判断の速さを意識するようになりました。それが週末に年齢制限のない女子チームに行っても活きていましたし、上のカテゴリーに行っても活きていると思います。
昨年、永里優季選手(元女子日本代表、現レーシング・ルイビル)が男子サッカー(神奈川県社会人サッカーリーグ2部、はやぶさイレブン)でプレーされていましたが、本当に凄いことです。尊敬しています」
兄との他愛もないボール遊びから始まり、リフティングの回数がどんどん伸びていくことに楽しみを覚えてサッカーを始めた千葉は、セレッソ大阪のホームタウン出身。地元C大阪のエースで2002年の日韓W杯ではホームである長居陸上競技場でのチュニジア戦でゴールを決めた森島寛晃(現株式会社セレッソ大阪代表取締役社長)に憧れを抱くサッカー少女だった。
中学卒業後は小中学校時代の同期である正野可菜子(現オルカ鴨川FC)、岡野有里子(現ディアヴォロッソ広島)と共に兵庫県姫路市の日ノ本学園高等学校へ進学。“3バカ子”と呼ばれていたそうだ。
「最初は姫路に行くのも嫌だったんですが、あの時に日ノ本学園へ行っていなかったら今の自分はなかったと思います。だから、家族に感謝しています」
日ノ本学園高校卒業後は姫路日ノ本短期大学を経て、その卒業生が中心となって創設されたASハリマアルビオンへ加入。以来、現在では唯一となる生え抜きの創設メンバーとしてプレーしている。

ASハリマアルビオン:近年は最先端のトレンドも導入
千葉が所属するASハリマアルビオン(ハリマ)では、今季、2012年12月の創設当時からチームを指揮していた田渕径二監督(現スポーツディレクター)が現場を離れた。後任は男子サッカーの関西1部アルテリーヴォ和歌山などで指揮を執ってきた元Jリーガー坂元要介氏が務めている。
ハリマは長らくなでしこリーグ2部に所属しており、どうしてもチームを編成する上で完成された選手を獲得することができなかった。ただ、毎年のように個性が際立つ選手が多く、そんな個の能力の高さで局面を打開するサッカーをしてきた。
それでも2018年辺りからチーム練習でも「レーン」という言葉を使い始め、数的優位やポジション的優位、個の優位性を活かすポジショナルプレーの要素など、欧州最先端のトレンドも導入し、年々その完成度を高めて来た。
2019年までハリマでプレーし、現在は海外挑戦中の元U23女子日本代表FW葛馬史奈(国民体育振興公団[KSPO]韓国、下記写真9番)は、「2019年のハリマのサッカーが1番楽しかった」と名残惜しそうに話していた。
「私が2015年に13ゴール決めたシーズンは両サイドのウイングの選手が凄く速かったので、カウンターでその2人のサイド突破からのクロスに、何とか私が頑張ってついて行ってヘディングで合わせる、という攻撃パターンが決まっていました。
当時のハリマは守備でも独特なスタイルでやっていました。マークする相手を決めて、その選手が前に上がっても後ろに下がっても、ひたすら付いて行くという完全なマンツーマン守備のサッカーでした。そのサイドアタッカーの選手たちが抜けたのもあって、現在のスタイルに変わってきたと思います。
2019年は(最終順位が6位だったが、)後期の勝率が1位でした。最終的にもチームの総得点がリーグ2位だったので、その時プレーしていた選手はみんな『1番楽しかった』とよく言っていますね。史奈には帰って来て欲しいです(笑)」
―チームとしての今季の目標は?
「今年から監督が交代しましたし、メンバーも毎試合定まっていたわけでもありません。私自身も結果を出せていなかったので何とも言えません。
それでも新加入の選手の特徴が分かって来て、やっとそれが出てきたというのが、ここ最近の状況です。ここから中断期間も含めたこの夏を通して、しっかりと“勝てるチーム”にしていきたいと考えています」
続く【後編】では、千葉が「1度は戻りたい場所」と言う、代表経験や自身のプレースタイルについてを伺う。
千葉園子プロフィール
1993年6月15日(28歳)出身:大阪府大阪市
身長:162cm、体重:48kg
所属チーム:ASハリマアルビオン(2013-)
ポジション:MF、FW 背番号:10
なでしこジャパン通算:5試合0得点
なでしこリーグ・チャレンジリーグ通算:120試合41得点(今季:10試合4得点)