なでしこジャパン(サッカー日本女子代表)経験者であり、現在なでしこリーグ1部のASハリマアルビオンに所属する千葉園子のインタビュー。
中学生時代やチームについて伺った【前編】に続き、この後編では、代表経験や現在の千葉自身のプレーについて聞く。
なでしこジャパンは「1度は戻りたい場所」
千葉は2016年6月2日のアメリカ戦で代表デビューし、国際Aマッチ出場は1年も経たない間に5試合を記録した。しかし、その後は怪我もあって代表からは遠ざかっている。それでも、なでしこチャレンジ(なでしこジャパンに準ずる実質B代表)には選出され続けている。
プレナスなでしこリーグ1部開幕まで、あと10日✨
— なでしこリーグ (@Nadeshiko_L) March 18, 2021
今回は、ASハリマアルビオンの @soogenkidayo選手に「すごいと思う選手」を伺ってみました⚽@GaaaSuuu09
選手の〇〇がすごい!!!
とのことです
笑顔がカッコいいっ
そして… pic.twitter.com/3o6sFEbXVY
観る者を魅了する独創的なプレースタイルは他の選手との“違い”を示せる武器だが、2部リーグからの選出であったことや、チームと代表のサッカーの違いには戸惑いもあった。
「今まで全く経験して来なかったゾーンディフェンスだったので、守備の面で戸惑いました。どこまでマークについていって受け渡すのかが分からず、本来いるべき位置や埋めるスペースを理解するのにも苦労しました。
攻撃面ではパスコースがいっぱいあって、選手間の距離が良いのでサポートが近く、パスが少しズレても普通に受けてもらえる。ただ、どのパスコースを選択するのか?は判断に迷っていたと思います。
今なら迷わずシンプルにプレーすることを心掛けます。自分で運べたり、仕掛けるところは自分で行きますけど、それも含めてシンプルにプレーしたいですね。
代表に入ってからは大学時代に憧れていた杉田亜未選手(伊賀FCくノ一三重)とも仲良くなれましたし、現在は代表でもエースの菅澤優衣香選手(三菱重工浦和レッズレディース)とも仲良くしてもらっています。
なでしこジャパンは現役を続けている間は常に目指すべき場所だと思っています。1度は戻りたい場所ですね」

「今年は得点王を狙う」
6月5日に開催された「2021プレナスなでしこリーグ1部」 第11節、敵地での大和シルフィード戦にフル出場した千葉は3試合連続となるゴールを決めた。2014年以降、千葉がなでしこリーグとチャレンジリーグ(当時2部相当)で積み上げた120試合の出場により、自身が挙げた得点はこれが41ゴール目となった。
千葉が積み上げた41得点を内訳すると「右足18、左足5、へディング18」。約44%と半数近くをヘディングで記録しているのは興味深い。
「今年は開幕から7試合ゴールが獲れていませんでしたが、偶然とはいえ5月の後半に映画(『さよなら私のクラマー ファーストタッチ』前編に詳細)を観てから獲り始めましたね。
2015年に13ゴール獲った時に7ゴールがヘディングだったので、ヘディングのゴールが多いのは知っていたのですが、まさかそんなに。
でも『得点獲ってもヘディングか?』と思われないように、もっと足でズバッと決めたいです。そのためにもゴール前ではもっとゴールを意識していかないといけないと思います」
※参考:Jリーグで歴代最多のヘディングゴール記録者となっている元日本代表FW前田遼一(現ジュビロ磐田U18コーチ)氏は、J1通算154ゴールの約30%となる46得点をヘディングで記録。また、元日本代表DF田中マルクス闘莉王はDFながらJ1通算75得点を挙げ、約55%となる41得点をヘディングで記録。
―ただ、直近2年では37試合で17ゴール。内訳は右足10、左足2、ヘディング5、と変化しています。チームのスタイルに関係しているのでは?
「それはあると思います。やっぱりカウンターからサイド突破してのクロスがメインだった頃と、選手間の距離が近くてコンパクトなサッカーになった今とは違いますから。まだ圧倒的な結果を残せていないので、やり易いとは言えないのですが、今のサッカーは面白いと思います」
千葉は2018年の夏に前十字靭帯断裂と半月板損傷を経験し、膝の手術を決断。そして、長年苦しんで来た脱臼癖のあった両肩の手術にも踏み切った。短期間に3度の手術を行い、完治までにかかる期間はそれぞれ8カ月と診断された。
「並大抵の努力ではアスリートとしての体に戻れない」と悟った彼女は、毎日チーム練習が始まるまでの時間や、アウェイ遠征でチームに帯同しない日に、人一倍リハビリを続けてカムバックを果たした。
また、彼女は代表に選出されるような選手でありながら、以前はフルタイムで物流倉庫の作業員として勤務していたのだが、現在は白衣を着て水質を分析する職場へと変わり、体への負担はかなり軽減されたようだ。
そして、現代サッカーでは現在のハリマや多くのチームが採用しているように、攻撃時と守備時でフォーメーションを変化させる戦術を採用するのが一般的となった。中盤から前線にかけて中央やサイドを問わずに全てのポジションでプレーできる彼女には追い風が吹いている。
「追い風が吹いていると胸を張って言いたいところです(笑)。
今年はFWやトップ下としてプレーしていて、ある程度の自由を与えられています。ベースとなる動きや役割はあるんですが、そこにプラスして、『自分の色を出す』、ことを求められています。
ゴールを期待されているので、そこはもう少し獲っていかないといけないのですが、だからと言って何でも『ゴールを!ゴールを!』って考えていたらプレーが固くなって何もできなくなるので、考えすぎないようにはしています。
それでも、今年は個人としては得点王を狙っています!」

スケールの大きなプレーを可能にする“後出しジャンケン”
「サッカー選手としても人としても成長させてくれたチームに感謝していますし、なでしこリーグ通算100試合出場も全てハリマで達成できたことを誇りに思っています」
と語る千葉は、チーム在籍9年目でハリマ唯一の創設メンバーでもある。前述したようにプレーエリアの広い彼女は様々なポジションを経験して来た。
だからこそ、ずっと気になっていることがあった。彼女の本当の武器は何なのか?すると、本人も「分からない」と言う。チームのバランスを考えて献身的にプレーしてきた中で、やや見失っていたものがあるのかもしれない。
そんな彼女が現在、「得点王を目指している」とシンプルに、そして力強く答えてくれたのは面白い。
2016年6月2日、アメリカのコマース・シティで行われた女子国際親善試合、日本VSアメリカ戦。筆者はトップ下として先発した“お団子頭”の選手に魅了された。サッカー選手としてだけでなくアスリート能力の高い世界女王の選手たちを相手に、代表デビュー戦だった彼女は局面での1対1で当たり負けしないどころか、相手に体を預けて巧みにボールをキープし、攻撃の起点になっていた。守備の局面でも際立つ運動量で果敢に守備のスイッチを入れ続けていた。その“お団子頭”の選手こそが、千葉園子だった。
彼女はテクニックやスピードに優れ、閃き溢れる攻撃のアイデアも魅力なアタッカーだが、それらを繋ぎ合わせるためのフィジカル的な強さを兼ね備えるプレースタイルは独創性に溢れている。緩急を操り、柔も剛も感じさせるプレーぶりは観る者を虜にするのだ。
意表を突くロングシュートや空中戦の強さのような豪快なプレー、“10番”らしいテクニカルなドリブルやスルーパスでのチャンスメイク、裏への抜け出しやカウンターで一気にゴールへ持ち込むスピード溢れるプレーの迫力、身を挺した守備で味方を牽引する姿など、彼女のプレーはスケールの大きさが際立つ。バスケットボールだったら、得点とリバウンドとアシストのトリプルダブルを何度も達成するような選手かもしれない。
1つ1つのプレーに注視してみると、さらに面白い。
「テクニック」「スピード」「フィジカル」をそれぞれジャンケンの「グー」「チョキ」「パー」のように喩えると、相手選手が「グー」を出してきたら「パー」を、「チョキ」で来たら「グー」を出すように、どの要素に相手より優位性があるのかを判断して局面をシンプルに打開していく。1対1のデュエルに優れる彼女は“後出しジャンケン”をしているようにも見えるのだ。
映画『さよなら私のクラマー ファーストタッチ』では主人公・恩田希のプレーが、「ノンちゃんのフットボールには夢がある」と表現される場面がある。
“そーちゃん”のフットボールには夢があるのだ。
関連記事:なでしこASハリマ、千葉園子インタビュー【前編】映画『さよなら私のクラマー』と中学時代
千葉園子プロフィール
1993年6月15日(28歳)出身:大阪府大阪市
身長:162cm、体重:48kg
所属チーム:ASハリマアルビオン(2013-)
ポジション:MF、FW 背番号:10
なでしこジャパン通算:5試合0得点
なでしこリーグ・チャレンジリーグ通算:120試合41得点(今季:10試合4得点)