7月23日、いよいよ東京2020オリンピック(東京五輪)が開幕する。サッカー競技は恒例の開幕前スタートとなり、先陣を切るのは女子日本代表こと、なでしこジャパンである。

東京五輪の女子サッカー競技は、参加全12カ国を4カ国ずつ3つのグループに分け、1回総当たりのグループステージを戦う。各グループの上位2カ国と成績上位2チームが決勝トーナメントへと勝ち上がり、7月30日からスタートする準々決勝以降の戦いに舞台を移す。

グループEに組み込まれた日本は、開幕2日前の7月21日にカナダとの初戦を迎え、24日にはイギリス、27日にはチリと対戦。ここでは3カ国との対戦ポイントや背景、注目の選手についてご紹介したい。

なでしこジャパンの超一流の対戦相手たち!世界最優秀選手、W杯得点王、世界最高GK

世代交代の是非が問われるカナダ戦

北海道の札幌ドームで対戦するカナダ女子代表は、なでしこジャパンが2012年のロンドン五輪でも初戦を戦った相手だ。「2011 FIFA 女子W杯ドイツ大会」で優勝していた日本は黄金時代にあり、そのロンドン五輪初戦は2-1でカナダを下し、決勝でアメリカに敗れたものの銀メダル獲得となった。

一方、カナダもロンドン五輪では3位に入り、日本が出場を逃した前回のリオディジャネイロ五輪でも銅メダルを獲得。現在のFIFAランキングでは8位につけている。同10位の日本にとっては格上との対戦となるため、国際大会で最も重要である初戦には最高の準備をして挑みたい。

カナダ代表メンバーには、女子サッカー界の絶対女王である隣国アメリカでプレーする選手が多いが、近年盛り上がりを見せるイングランドや欧州女子サッカーの最高峰フランスリーグでプレーする選手もいて実力者が並ぶ。パスセンスが光る23歳のMFジェシー・フレミングは、すでに代表通算80試合を越える経験を持つ。また、今月34歳になる主将MFデジリー・スコットが並ぶ中盤は、確かな強さと技術を兼ね備えている好チームの雰囲気を醸し出している。

中でも、38歳となったFWクリスティン・シンクレアの招集に話題が集まるが、さすがに運動量の低下は2年前の「2019 FIFA 女子W杯フランス大会」でも目についた。

ただ、同大会で日本を下して準優勝に輝くことになるオランダ相手にゴールを挙げるなどし、ブラジルのマルタと並んでW杯5大会で得点を記録した選手だ。代表通算186ゴールは男女通じて国際試合の最多得点記録者である。前人未踏の経験値で培った確かな技術と得点感覚は、トップ下ともセンターフォワードとも言える独特のポジションと役割の中で研ぎ澄まされている。

また、今年から代表入りした24歳のFWエヴリーヌ・ヴィーンズは、南フロリダ大学時代からクラブレベルでは1試合1ゴールのハイアベレージを記録する点取り屋。現在はフランスでプレーしている。ラストパスも巧みなシンクレアやMF陣からヴィーンズのスピードを活かした速攻は脅威だ。日本としては攻撃時もカナダのカウンター攻撃の起点になる芽を抑えるリスクヘッジをとりながら、安定した試合運びを心掛けながら勝負所を作って仕掛けたい。

MF長谷川唯やDF清水梨紗などの若手がチームの中心になった日本と、未だベテランが幅を利かせているカナダによる世代交代の是非が問われる対決でもある。フラットに見ると好ゲームの予感満載だが、緊張感の高い試合になるだろう。

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FIFA最優秀選手とW杯得点女王擁するイギリス

初戦と同じく札幌ドームで迎える7月24日の第2節で対戦するのが、イギリス女子代表だ。FIFA(国際サッカー連盟)管轄の大会ではない五輪には、英国4協会(イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)の統一チームとして出場することになる。今回のチームはイングランドから15人、スコットランドから2人、ウェールズから1人で構成される18選手がエントリー。同時に4人のイングランド人のバックアップメンバーも発表されている。

ちなみに、イギリスではなくイングランドは、FIFAランク6位に位置している。

日本の脅威となるのは、2年前の女子W杯フランス大会でイングランド女子代表として6ゴールを挙げて大会得点女王に輝いたFWエレン・ホワイト。グループステージの第3戦では、なでしこジャパンからも2ゴールを挙げ、最終的に母国をベスト4に導いたエースである。現在32歳のホワイトは9年前のロンドン五輪でもプレーしており、経験も豊富。女子サッカー界のエースFWは突破力やスピードに秀でているタイプが多いが、彼女はいわゆる“個”の能力では少し劣る。スピードは凡庸だが、組織の一員として献身的にチームプレーを遵守する選手であり、最後にゴール前で勝負した際の決定力に優れる。“違い”を示さなくてもシンプルにプレーすることで周囲がチャンスを作ってくれる環境があるためでもある。

そして、右サイドバックを担うルーシー・ブロンズこそが、このチームの最重要プレーヤーである。近年の男子サッカー界では「サイドバックは最重要ポジション」と評価され始めているが、女子サッカーでもその傾向が強い。現在29歳のブロンズは昨年のFIFA女子最優秀選手であり、女子サッカー界における同ポジションの第一人者である。

2017年からの3シーズン、女子サッカー界の絶対女王オリンピック・リヨンでプレーしていたブロンズは、1対1の守備に強く、逆サイドからのクロスに中央へ絞って対応できる戦術眼の高さやDFとしての強さがある。攻撃面でも高い位置をとり続けるようなタイプではないが、サイドバックの位置からゲームをコントロールできる。

リヨンでもチームメイトだったFWニキータ・パリスと右サイドでハーフスペース(中央とサイドの中間)とワイドを相互補完する絶妙のポジショニングと連携を見せ、中央に入って来て得点に直結するシュートやラストパスも繰り出す司令塔的なプレーも得意としている。プレーに“デザイン”がある彼女は、イングランド代表通算81試合で9ゴールを記録。どんなポジションでもこなせるオールラウンドな選手である。

そして、このイギリス女子代表を率いるへゲ・リーセ監督は、現役時代にノルウェー代表の司令塔として活躍。1995年の女子W杯スウェーデン大会と、2000年のシドニー五輪の両大会で優勝し、95年W杯ではMVPに輝いている。直後に日本の日興證券女子サッカー部ドリームレディースに移籍し、現在なでしこジャパンで主に守備面の指導を担う大部由美コーチとはチームメイトだった。

2011年になでしこジャパンが女子W杯ドイツ大会で優勝した際は、決勝の対戦相手であったアメリカ女子代表のアシスタントコーチを務めていたリーセ監督。今回のイギリス代表監督に就任したのは今年3月だ。元マンチェスター・ユナイテッドやエバートンでプレーしたレジェンドであるフィル・ネビル前監督が1月に退任したイングランド女子代表の暫定監督にも就任したが、9月からは現オランダ女子代表のサリーナ・ヴィーフマン監督が指揮を執ることが決まっている。

さすがにコロナ禍でのコンディション作りやチーム作りは進んでいないだろうが、ブロンズやホワイトの他にもベテランMFジル・スコットや、近年盛り上がりを見せるイングランドWSL(女子スーパーリーグ)で台頭した実力派の若手選手も多く招集されており、アスリート能力の高い個のチカラは脅威である。

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女子サッカー界最高の守護神がいるチリ

そして日本女子代表は、宮城県の宮城スタジアムで迎える7月27日のグループステージ最終節で、ブラジルに次ぐ南米予選を2位で突破しカメルーンとの大陸間プレーオフを制して五輪初出場を勝ち取ったチリ女子代表と対戦する。

女子の競技力向上が欧州ほどは進んでいないとはいえ、サッカー大国が揃う南米から僅か1.5枠である五輪への出場切符を掴みとるのは至難の業である。2年前のフランスW杯で主要国際大会初出場を飾り、タイ相手に歴史的初勝利を挙げていたチリは、女子サッカー界の新興勢力でもある。

FIFAランキング37位のチリを支える堅守において大きな壁になるのが、リヨンのフランスリーグ14連覇を止めたパリ・サンジェルマン(PSG)で2017年からプレーしているGKクリスティアナ・エンドラーである。今夏からそのリヨンに移籍するが、イングランドのチェルシーやスペインのバレンシアでのプレー経験もある彼女は、東京五輪開幕日の7月23日に30歳の誕生日を迎える。

公称187cmの長身を活かしたハイボール処理は男子レベルで、それ以上にプレーの読みが鋭い。16歳まではU-17代表にフィールドプレーヤーとして選出されていたこともあるが、相手がシュートを撃つ直前、あるいはトラップしてからシュートを撃つまでのコンマ数秒の僅かな時間で前方へ出てアタックする。相手と少しでも距離を詰めてゴールが小さく見えるように、そしてボールに触れられる可能性を少しでも上げて決定的なシュートをブロックするようにセーブする。その実力はどれだけ謙遜しても女子サッカー界最高の守護神であり、2019年の女子W杯フランス大会では0-3で敗れたアメリカ戦でMVPを受賞したほどである。

エンドラーのピッチ上での立ち居振る舞いは、女子だけでなく男子にもGK人気を促せるほどにエレガントである。FIFAランキング10位の日本としては、チリから勝点3を確保するのは当然だ。未来のなでじこジャパンのGK誕生のためにも、彼女の好セーブを何本も引き出すほど攻め倒したい。

冒頭で述べたように今大会は参加12カ国中の8カ国が準々決勝に進出できる。コロナ禍でコンディションが定まらない中では、5人交代枠も含めたルールを存分に駆使してグループステージの3試合を戦うチームが多くなると予想される。そのため、グループ首位通過でチカラの劣る国との準々決勝での対戦を狙うことは、あまり意味がないかもしれない。

大会前最後の強化試合、FIFAランキング9位の豪州戦ではコンディション面で有利なパフォーマンスを披露して1-0と勝ち切った、なでしこジャパン。まずは一戦一戦を大切に戦うことが求められる。

なでしこジャパン、東京五輪対戦日程(グループE)

  • 7月21日(水)16:30 :イギリス vs チリ:札幌ドーム
  • 7月21日(水)19:30 :日本 vs カナダ:札幌ドーム
  • 7月24日(土)16:30 :チリ vs カナダ:札幌ドーム
  • 7月24日(土)19:30 :日本 vs イギリス:札幌ドーム
  • 7月27日(火)20:00 :チリ vs 日本:宮城スタジアム
  • 7月27日(火)20:00 :カナダ vs イギリス:茨城カシマスタジアム
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