明治安田生命J3リーグ、2021シーズン前半戦を3位で折り返したFC岐阜。前半戦の岐阜は、元日本代表MF柏木陽介の電撃加入もあって注目が集まる中、J2昇格に向けての土台作りに徹した。

その中、9ゴールを挙げて現在J3得点ランキングのトップに立つのがFW川西翔太だ。2011年にガンバ大阪でプロデビューした川西は、モンテディオ山形、大分トリニータを経て、2019年に岐阜に加入。J3降格を経験するも、昨季はプロ入り後初の全試合出場と2桁得点を記録。攻撃だけでなく最前線からの守備でもチームを牽引する。

ここでは現在の岐阜そのものを体現している川西に、チームや自身のキャリアなど多岐にわたって語ってもらおう。本インタビュー前編では、岐阜の現在地や自身の得点量産の理由に迫る。

J3岐阜、川西翔太インタビュー【前編】得点ランク首位につける理由とは

岐阜の現在地「J2へ昇格する戦い方に」

2021シーズン前半戦を8勝1分5敗の3位で折り返した岐阜は、14試合で21得点13失点と攻守のバランスが整備され、川西の得点ランクトップだけならず、MF吉濱遼平はリーグ最多タイの6アシストを記録。また、これまでラモス瑠偉氏(2014-2016)や大木武氏(2017-2019)を指揮官として「攻撃サッカー」を掲げてきた戦い方に、転機が訪れていることがデータから伺える。

昨季のJ3では、ブラウブリッツ秋田が開幕から28戦無敗のままに独走優勝を決め(その後3敗を喫して無敗優勝とはならず)、6位で終えた岐阜も秋田にはホームで0-5の大敗を喫するなど2戦2敗した。秋田はボール支配率やパス本数、ペナルティエリア内への進入回数などが軒並みリーグ最低値を記録しながらも、リーグで2位タイの55ゴールを挙げる生産性の高いチームだったが、今季の岐阜はその秋田に酷似しており、戦い方に影響を受けたのかが気になるところだ。川西はこう言及する。

「今季のウチ(岐阜)は、パスをつなぐボールポゼッションからの攻撃というよりも、しっかりとした守備からの攻撃を意識していて、特にゴールに直結することを前提とした速い攻撃がコンセプトになっています。昨季とは監督も変わり、現在の安間貴義監督はJ1のFC東京でコーチとして指導されていた方なので、特に秋田を意識してっていうのはないと思います。

ただ秋田も、昨季2位でJ2に昇格したSC相模原も、同じような戦い方をしていたので『J2へ昇格するために』と考えれば、今のような戦い方になるのかもしれません」

ーシーズン後半戦へ向けて攻撃のバリエーションを増やすという意味では、元日本代表MF柏木陽介選手の存在は大きくなりますね?

「前半戦最後の方では、自分が1トップに入って(吉濱)遼平と柏木選手がシャドーでサポートしてくれる形が出来て上手くいきました。安間監督と上手くコミュニケーションも取れているので、前半戦よりももっと良くしていくことに取り組んでいるところですね」

J3岐阜、川西翔太インタビュー【前編】得点ランク首位につける理由とは

岐阜加入後に得点量産の理由は?

今季の川西は身長が184cmくらいに見えるほど(実際は177cm)大きな存在感を放っている。「止めて蹴る」基本技術が高く、正確なポストプレーやキープ力の高さ、積極果敢な前線からのプレスや味方が使うためのスペース作りなどが際立つ。これまでJリーグ通算241試合に出場し44得点(J1:33試合4得点、J2:160試合21得点、J3:48試合19得点)を挙げてきた川西だが、うち6割以上に当たる27得点は岐阜に加入して以降の直近約2年間の記録だ。さらに前半戦だけでリーグトップの9得点を挙げている今季は、量産体制に入っている。

「実は今季開幕前の練習試合では全く点が獲れていませんでした。開幕戦(ホームでヴァンラーレ八戸と対戦して0-0)で獲れなかったのが大きかったのかもしれません。点を獲れるようなシチュエーションも作れなかったので。練習試合と公式戦の違いや『今のサッカーでどう点を獲っていくのか?』を考え、どんどんプレーにも変化を加えていっていたら、ポンポンと獲れるようになって来ました」

ー大卒プロ1年目のG大阪でプレーしていた頃から、ご自身のプレースタイルは大きくは変わっていないようにも思うのですが?

「ガンバを出てからは中盤でプレーすることも多かったのですが、今前線(FW)に戻ってあの頃の感覚が戻ってきたと思います。でも今は、ボランチとか中盤でプレーしてきた経験が大きいし、それが活きていると思いますね」

ー今季はクロスからのゴールも多いと思いますが、相手ディフェンダー(DF)と駆け引きをする上ではどのようなことを考えているのでしょうか?

「僕は相手DFが足を止める瞬間を狙っています。クロスが上がる瞬間にDFはボールを見るので、どうしても足が止まるんです。裏へのボールが出る瞬間というのもDFはラインを押し上げるのを止めるので、その瞬間も足が止まるじゃないですか?その一瞬を逃さずに動き直せば、DFは付いて来れないんじゃないかなって考えています」

J3岐阜、川西翔太インタビュー【前編】得点ランク首位につける理由とは

原点はG大阪時代の平井将生

子供の頃の川西にはサッカーをテレビで「観た」記憶がない。サッカーは専ら「プレー専門」だった。しかし一緒に練習をするチームメイトや試合をする相手、同世代の選手たちのプレーを「観て学び」、自らのプレーに落とし込んだり参考にして来たようだ。

そして2011年にG大阪でプロデビューした頃からは、チームメイトだったFW平井将生(現FCマルヤス岡崎)の存在が大きかったという。

「ガンバ時代にチームメイトだった平井将生の影響は強いですね。動き出しがメチャクチャ巧かったので、ガンバにいる時は身近にいる将生の動きをずっと見て勉強していました。今はオグリさん(※1)や寿人さん(※2)の動きを動画などで見ているのですが、やっぱりベースとなる僕の原点は将生です。ガンバに将生がいたことは自分にとってかなり大きかったと思います」

※1)元日本代表FW大黒将志の愛称:現G大阪アカデミーストライカーコーチ、下部組織から所属したG大阪などJ9クラブで通算177得点。フランスやイタリアなどでもプレー。
※2)元日本代表FW佐藤寿人:現サンフレッチェ広島などで活躍。J1とJ2両方で得点王に輝くなど、Jリーグ歴代最多220得点。現在は解説や指導者として活躍。

「ガンバでトップチームの試合に出れなくなっていた頃、近くにはいつも(平井)将生がいて、練習試合では『アイツが点取ったら自分も取らないと』と、競い合っていました。アイツはトップの試合にも出ていて点も取れていたので『将生がやれるのなら自分にもできる!』とも思っていたんです。でも、やっぱり将生の動き出しやシュートの質は高くて、そう考えると自分にとっては偉大な先輩だなって思っていました。

自分の方が年下なのに“アイツ”って言ってますけど(笑)。本当にリスペクトしています」

大丈夫です。その平井選手に「理想のパサーは?」と伺うと、大先輩の二川孝広選手(元日本代表MF、現FCティアモ枚方)のことを指して「二川です」と呼び捨てでした(笑)。

「(笑)フタさん(二川)はゆるキャラですよ。みんなに『扱いにくい』とか『変わってる』って言われてますけど。意外と面白い人で『フタさん、ご飯行きましょう』って言ったら笑いながら『エへへ、行こうか』って連れて行ってくれます。それだけ仲良くしてもらいながら、結婚したこととか子供ができたことは教えてくれませんでしたけどね(笑)。チームの誰にも言ってなかったと思います」

J3岐阜、川西翔太インタビュー【前編】得点ランク首位につける理由とは

負けている時に決められるエースに

今季の前半戦全14試合中、川西がゴールを決めた7試合ではチームも6勝1敗という結果に。逆に決められなかった7試合では2勝1分4敗と「川西が決めないと勝てない」という結果が出ている。9ゴールのうち先制点も4つ、決勝点(先制点も含む)も4つ挙げている川西。ゴール後にチームメイトに囲まれる様子はエースの風格が漂う。川西が考えるエース像とはどのようなものだろうか。

「先制点や良いタイミングで点を獲れている感触はあるんですけど、やっぱりチームが負けている時に決められるようになりたいですね。

上位チーム相手の試合、カターレ富山戦(4月25日第6節)とロアッソ熊本戦(5月2日第7節)では、続けて点が取れずに0-1で負けてしまってホントに悔しかったですから。1試合に1点は決めたいです」

「今季はワンタッチゴールが多く、実は自分の得意な形のゴールというのはあまりないんです。昨季の富山戦(第17節、2-1で勝利)で、左サイドからドリブルで相手をいなして決めたゴールが自分の形です。昨季の方が自分が考える理想のゴールは多かったと思いますね」

今季は得点王も見えていますが。

「まずはチームとして早くJ2昇格を決めることが最優先です。昇格を決めれば、自分の得点にもフォーカスできると思います。自分が得点に専念できるような環境を作るためにも、まずはJ2昇格を目標に戦っていきたいと思います」

それにしても、ゴール前に入っていく際に「相手の足を見ている」というのは、相手からすれば人体の構造上のことであって防ぎようがない。川西はこうした普遍的な能力をどうやって身につけたのか。インタビュー後編では、そのルーツに迫っていきます。

川西翔太プロフィール

1988年10月28日生まれ(32歳)177cm72kg、奈良県出身。中学卒業後に青森山田高校にサッカー留学、2年生時に夏のインターハイ優勝を経験。大阪体育大学へ進学後、2回生時に総理大臣杯優勝。

大学卒業後はG大阪に加入、J1優勝争いやJ2降格、J1昇格も経験するなど、チームの過渡期に3年間プレー。2014年から3年間プレーした山形、2017年から2年間在籍した大分でもJ1昇格を経験。2019年から岐阜に加入し、J3降格を経験するも、2020シーズンはプロ入り後初の全試合出場と2桁得点(10得点)を記録。2021シーズンは前半戦を終了し、J3得点ランキングトップとなる9得点を挙げてチームを牽引中。基本技術が高く、ポストプレーやオフ・ザ・ボールの動きにも優れるFWで、ボランチやサイドMF、トップ下としてもプレーできる。最近の趣味はゴルフ。

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