2022年4月15日から5月1日にかけて、タイ、ベトナム、マレーシアで集中開催されているAFCチャンピオンズリーグ(ACL2022)。日本と同じ東地区にて、中国からは広州FCと山東泰山の2チームが参戦している。
中国の苦戦には、自国の中国サッカー・スーパーリーグ(4月23日開幕)を優先し、ACLにはユースチーム主体のメンバーで挑んでいるという大きな要因がある。ただそうだとしても、そもそも国際大会に挑む姿勢として適切だったのだろうか。他国との試合を組むことのハードルが非常に高い昨今、中国は経験を積む場を1つ無駄にしているように感じてならない。
ここでは「眠れる獅子」こと中国サッカーの現状について考察する。

眠りが深くなってしまった「眠れる獅子」
2002年、日韓ワールドカップでW杯初出場を果たした中国代表。本大会での成績は優れなかった(グループステージ全敗)が「眠れる獅子」の目覚めは近いと多くの人が思ったはずだ。
2004年のAFCアジアカップにおいても、中国は自国開催というアドバンテージがあったとはいえ、決勝戦まで進み準優勝。確かな実力を付けたと思われた。
しかしそれから約20年。中国サッカーは停滞し、それどころかアジアでの立ち位置は後退しているようにさえ見える。14億人を越える世界一の人口を誇り、GDP(国内総生産)でも世界2位。サッカー人気も高いにも関わらず、なぜ中国サッカーはここまで苦しんでいるのだろうか。

存続の危機に陥る中国クラブ
一時は確かに中国サッカーがサッカー界全体に大きな影響を与えていた。親会社の資金力を武器に、広州恒大をはじめとする多くのクラブが、欧州から著名な選手や指導者を獲得。2013年と2015年には広州恒大がACLで優勝するなど、クラブ単位ではアジアで確固たる地位を築くようになっていた。
さらに2020年4月には、広州恒大が再び世界を驚かせた。サッカー専用スタジアムでは世界一となる、収容人数10万人のスタジアムが2022年中に完成予定だと計画を発表したのだ。
しかし、直後に潮目が変わる。人件費の高騰と中国政府の持続可能な経営を促す取り組みによって収支のバランスが崩壊し、さらに新型コロナウイルスの影響で試合が行なえない状況に陥ったことで、2部や3部で経営破綻するクラブが相次いだ。
さらに2021年には、1部のクラブにまで波及。親会社の資金力に頼っていたクラブが多かったことで、新型コロナウイルスによって親会社が経営難に陥った途端に次々と崩壊していく。
1部の強豪だった江蘇FCが運営停止。広州恒大は親会社の中国恒大集団が多額の負債を抱え、スタジアムの建設は中断。売却先を探すため、地元政府の管理下に置かれた。運営は地元の国有企業へと変わり、チーム名も広州FCへと変更された。
また、破綻までは至らなくとも、大半のクラブが財政難にあると報道されている。

中国代表の低迷
中国代表も難しい時期を続けている。国をあげての強化を行なってきたものの、前述の2002年の日韓ワールドカップ初出場以降はW杯を逃し続け、しびれを切らしたのか近年は資金力に頼った短期的な強化が目立つ。
中国のクラブチームでプレーする外国籍選手を帰化させ、前線に強力なスカッドを置き、そこにボールを集めるという方法でW杯を目指したのだ。
ところが前述したクラブチームの経営難により「金の切れ目が縁の切れ目」という、ことわざ通りになってしまう。帰化した選手達は次々にチームを退団。今カタールW杯ではアジア最終予選まで進出し日本と同組となったが、今年1月に対戦した時には数多くいた帰化選手が0名にまでなっていた。

資金力に頼りきった強化策の先に
アジアにおいて強豪の一角に位置していた中国代表、そしてクラブチーム。さらに上を目指すべく国をあげての強化策やクラブチームの豊富な資金力を駆使した結果、むしろアジアでの立ち位置は下がってしまっている。
Jリーグも1993年の誕生当初は世界的な外国籍選手を獲得しており、中国スーパーリーグはその背中を見ていたのかもしれない。ところがその後には大きな差が生まれている。
中国サッカー界はバブルが弾け、即戦力として代表チームに力を与えていた帰化選手は、チームを去った。だが長期的にみれば、これは裾野を広げ指導者の育成を進めるなど、地道な強化策に転換するチャンスになり得るのではないだろうか。
真の集団スポーツであるサッカーにおいて、その国のレベルを全体的に上げるための近道はない、と理解した時、「眠れる獅子」の目覚めへの大きな1歩となるはずだ。