昨2022年9月にプレミアリーグ、チェルシーの指揮官に就任したグレアム・ポッター監督だが、現地時間の4月2日、急遽解任が言い渡された。あまりにも早過ぎる決定に、現地イングランドでも「なぜ、今なのか?」と疑問視する声が多く上がった。
周囲が答えを出せぬまま暫定監督として刃のバトンを手渡されたのは、2019年から2021年にもチェルシーの監督として手腕を発揮したフランク・ランパード監督だ。2019/20シーズンには、リーグで同クラブを4位までに引き上げ、38試合中20勝の記録を残している。
ところで、監督が「出戻り」というケースと、「新任」のケースでは、どちらがクラブにとってベストなのだろうか?今回ランパード監督がチェルシーに復帰したことをきっかけに、プレミアリーグが興味深い分析結果を出している。

プレミアリーグ出戻り監督たちの成績比較
プレミアリーグで行われた興味深い分析とは、「出戻り監督は新任時よりもクラブにとって良い結果を残せたのか?」というものだ。まずは出戻り経験のある主な監督たちの、新任時と比較した獲得勝ち点を見てみよう。
フース・ヒディンク監督(チェルシー)
- 新任時:2009年2月16日~2009年5月31日:勝ち点13(試合平均2.62)
- 出戻時:2015年12月20日~2016年6月30日:勝ち点21(試合平均1.52)
ジョゼ・モウリーニョ監督(チェルシー)
- 新任時:2004年6月2日~2007年9月19日:勝ち点120(試合平均2.33)
- 出戻時:2013年6月3日~2015年12月17日:勝ち点92(試合平均2.00)
ロイ・ホジソン監督(クリスタル・パレス現監督)
- 新任時:2017年9月12日~2021年5月24日:勝ち点148(試合平均1.22)
- 出戻時:2023年3月21日~現在進行中:勝ち点1(試合平均3.00)※測定途中
スティーブ・コッペル監督(クリスタル・パレス)
- 新任時:1984年6月3日~1993年5月17日:勝ち点42(試合平均1.17)
- 出戻時:1997年2月28日~1998年3月13日:勝ち点28(試合平均0.8)
ハワード・ケンドール監督(エバートン)
- 新任時:1990年11月6日~1993年12月5日:勝ち点60(試合平均1.28)
- 出戻時:1997年6月27日~1998年6月25日:勝ち点38(試合平均1.05)
ケビン・キーガン監督(ニューカッスル・ユナイテッド)
- 新任時:1992年2月5日~1997年1月7日:勝ち点143(試合平均1.85)
- 出戻時:2008年1月17日~2008年9月4日:勝ち点19(試合平均1.11)
デイビッド・モイーズ監督(ウェストハム・ユナイテッド現監督)
- 新任時:2017年11月7日~2018年5月16日:勝ち点27(試合平均1.22)
- 出戻時:2019年12月29日~現在進行中:勝ち点123(試合平均1.37)
分析結果を見る限り、いずれの監督も新任時に比べると出戻り時にはあまり良い結果が出せていないことがわかる。試合平均の勝ち点に注目すると、ここで挙げた中では、ウェストハムのデイビッド・モイーズ現監督が唯一、新任時よりも好パフォーマンスという数値だ(クリスタル・パレスのロイ・ホジソン監督は出戻直後測定中にて除く)。
では、監督にとって新任と出戻りの大きな気持ちの違いとは何だろうか?少し掘り下げてみよう。

逆境好きは出戻りをした方がうまくいく?
初めて新しいクラブを担当する時というのは、もちろん精神的に強いプレッシャーと緊張感があるが、一方で「楽しみ」もある状態だと思うのだ。どんな選手たちがいるのだろうか、どんなクラブにしていこうかなどと期待感が高まり、ある意味ポジティブ思考が働く。
しかし、古巣へ出戻りとなると、おそらく多くの監督の思考は楽しむという余裕はなく、自分がどうにかクラブを良くしなければならないと、非常に重いタスクを背負ってスタートする。ゆえに、逆境状態の方が自己を奮い立たせられるタイプの監督であれば、クラブの行く末に期待が高まると言えるのではないか。
この筆者の理論に基づいて言えば、例えばウェストハムのモイーズ監督が現在(2023年4月時点)出戻りで好調な結果を叩き出しているのは、同監督が逆境に強いタイプだということになる。今回のチェルシーのランパード監督も嵐のような環境の方が燃える人物である場合には、クラブの今後に大いに期待ができそうだ。

プレミアリーグという「潔癖」のステージ
プレミアリーグの監督入れ替えの周期スピードには、改めて驚かされるものがある。
「結果が出なければアウト」というシステムはとても重要だ。しかし、監督の教えが選手たちに馴染み初め、効果を発揮するまでには時間も必要なはずである。監督という与える側の存在と、受け取る側の選手たちとの相性にもよるが、短期間でスムーズにその効果が発揮されることは稀だと筆者は思う。まだその過程の段階で、結果が出ないから退任となると、宝くじのようにクラブ側が常に数パーセントの「奇跡の相性」を探し求める必要がある。
結果を出すスピードを大切にするのか、それとも長期戦で監督と選手の関係性を育てることを重視するのか、正しい方法は未だ無いのかもしれない。