4月9日。明治安田生命J1リーグの第7節で、京都サンガと対戦し逆転勝利を挙げたアビスパ福岡(2-1)は、現時点勝ち点14となり、サンフレッチェ広島と並んで3位タイに浮上した。
2023シーズン、全34試合中7試合のみを終えた段階ではあるものの、開幕前には福岡の降格予想をする有識者がいたことを考えると、序盤戦でのリーグ最大のサプライズと言えるだろう。
ここでは、そんな福岡の好調の理由やここまでの課程、意外な課題、未来について、長年のサポーター目線からご紹介しよう。

これまでの福岡の最高成績
これまでの福岡の最高順位は、J1に2ステージ制が導入されていた2000年の、2ndシーズン途中で記録した4位だった。当時のJ1リーグは、鹿島アントラーズとジュビロ磐田の2強と言われた時代。前年に14位だった福岡は、アルゼンチン人のネストール・オマール・ピッコリ監督(2000-2001)に率いられ、とにかく勇敢だった。
過酷な練習で鍛え抜いて得られた闘争心を前面に押し出し、時にはヒールと言われながらも強豪と渡り合った福岡。なかでも2ndステージでは2強とたて続けに対戦するも一切怯むことなく、第9節には敵地で鹿島と引き分け(1-1)、第10節で磐田に勝利(2-1)し、上位争いに食い込む。この出来事は今もなお、当時からのサポーターの語り草となっている。

4年目の長谷部監督の手腕
23年ぶりにその歴史を塗り替え、2023シーズンJ1第7節で最高順位の3位を記録した福岡。さまざまな要因が積み重なって得られた結果だが、なかでも継続路線を貫くクラブの姿勢、そして2020シーズンからチームを率いる長谷部茂利監督の手腕は見逃せない。
想定した成績を残せないと、シーズン中であっても容赦なくクラブを追われるのがサッカーの監督だ。同じクラブで長年監督を務めるのは容易ではない。実際に今2023シーズンも、J2の清水エスパルスが監督交代に踏み切った(4月3日に秋葉忠宏監督就任)。

危機を立て直し高まる信頼感
一流の監督の条件とは何だろうか。優勝に導ける監督か、はたまた多種多様な戦術を持つ監督か。筆者は「一度悪くなった状況を立て直せる監督」だと考える。
就任後、チームの順位を上昇させられる監督は少なくないが、数年指揮を執っていると大抵どこかで流れが悪い時期が訪れる。その流れを断ち切れずに解任や辞任となる監督は実に多く、一度崩れたチームを立て直せる監督は一握り。クラブもそう考えるからこそ、多くのケースで監督交代を選択する。
福岡も、2022シーズンに流れの悪い時期を経た。チーム内に新型コロナウイルスが蔓延し、第22節から第29節まで8試合未勝利(2分6敗)。J1参入プレーオフ出場圏となる16位まで順位を落とし、J1残留に向けて黄色信号が灯った。しかし、クラブの継続路線はブレることなく、チームは最後の5試合を3勝1分1敗で駆け抜けて残留に成功。この立て直しにより、長谷部監督とチームへのサポーターからの信頼感はさらに高まることとなった。

意図的な継続路線を採れている
そして2023シーズン、福岡は前評判の低さを覆すとともに、J1で3年目を迎えたことによる効果を発揮してきている。まず、スタッフや主力選手のほとんどをチームに残せており、意図的な継続路線を採れていること。
加えて、成績のみが要因ではないものの、過去には良好とはいえない時期もあった福岡県内の強豪校との関係も改善。九州随一の実績を持つ福岡大学から、FW鶴野怜樹、GK菅沼一晃、MF重見柾斗と2年間で3人の加入が発表されたのは偶然ではない。

地元では動員数に課題も
ただし、福岡に関するすべてが順調というわけではない。見事な成績とは裏腹に、ホームのベスト電器スタジアムの平均観客動員数が、第7節終了時点で7,153人であること。これはリーグ最下位の数字だ。劇的な勝利が多くサポーターで沸くスタジアムには、一方で空席が目立つ。
福岡にはプロ野球の人気球団である福岡ソフトバンクホークスが存在するが、福岡市でタクシーに乗ると「ホークス勝ったばい」と言われるのは福岡あるあるの1つ。その人気に押され、在福メディアでアビスパ福岡について報じられる機会は少ない。喜びに満ち溢れるサポーターと、試合結果や順位を知らない多くの県民の間には垣根があるのが実情だ。

とにかく勝って、タイトルを取る
ただし、注目を集める手段がないわけではない。福岡県民は「勝ち馬に乗る」傾向があると言われる。実際に、前述のホークスも1999年の優勝以降、福岡での人気が定着した。
注目を集める特効薬はとにかく「勝つ」こと。さらにいえば「タイトルを取る」ことだ。18チーム(2024シーズンからは20チーム)が争うJ1リーグ、20チームが出場するYBCルヴァンカップ、本戦に88チームが出場する天皇杯、いずれもタイトルを取るのはもちろん容易ではないだろう。
それでも、このスポーツに不可能はない。2004年のユーロ(UEFA欧州選手権)でのギリシャ優勝、プレミアリーグ2015-16シーズンのレスター・シティ優勝など、不可能と思われながら実際に「奇跡」を起こした例はいくつも存在する。昨2022年にも、第102回天皇杯をJ2リーグ所属のヴァンフォーレ甲府が制した。
険しい道のりであるが、タイトル獲得が実現できたときには福岡における「アビスパ福岡」の存在感は一変するはずだ。「今日、アビスパ勝ったばい」福岡の街で、その言葉を当たり前のように聞けることを願ってやまない。