プレミアリーグは4月13日、所属する全クラブに対し、ユニフォームの「胸スポンサー」についてギャンブル関連企業との契約を禁止する新規則を発表した。英国のサッカーリーグでは初の取り組みとなり、2025/26シーズン終了後から適用される。
2023年5月18日現在、同リーグ全20クラブの内、ギャンブル関連企業と胸スポンサー契約を結んでいるのは8クラブ。この発表を受け世間では「胸スポンサーだけの禁止で意味があるのか?」「特に若年層に悪影響を及ぼす可能性があるアルコールやタバコを提供するスポンサーはOKなのか?」「英国サッカーのギャンブル文化は悪いものなのか?」など、様々な声があがっている。
ここでは、プレミアリーグにおける現在の胸スポンサー状況と、筆者が考える「サッカーユニフォームに相応しいスポンサー」を紹介していこう。

胸スポンサーの大半がギャンブル関連企業
英国を拠点とし、世界各国のサッカークラブの歴代ユニフォームを販売している「Classic Football Shirts」は、ギャンブル関連企業の胸スポンサー禁止発表を受けて興味深いデータを公開した。それは2022/23シーズン、プレミアリーグクラブが契約している胸スポンサー業界の割合だ。
ギャンブル関連企業が全体の40%を占め、次いで金融サービス企業が20%、航空会社と自動車関連企業がそれぞれ10%、その他に通信業、インターネット証券取引業、IT関連企業、チャリティ団体が各5%となっている。各クラブが契約中の胸スポンサーとその本社所在地は下記の通り。
ギャンブル関連企業が胸スポンサーのプレミアクラブ
クラブ名:企業名(本社所在地)※2023年5月現在
- ボーンマス:Dafabet(フィリピン)
- ブレントフォード:Hollywoodbets(南アフリカ)
- エバートン:Stake.com(キュラソー島)※オランダ構成国
- フラム:W88(フィリピン)
- リーズ・ユナイテッド:SBOTOP(マン島)
- ニューカッスル・ユナイテッド:FUN88(中国)
- サウサンプトン:Sportsbet.io(キュラソー島)※オランダ構成国
- ウエストハム・ユナイテッド:Betway(マルタ共和国)
金融サービス企業が胸スポンサーのプレミアクラブ
- ブライトン・アンド・ホーブ・アルビオン:American Express (アメリカ)
- リバプール:Standard Chartered Bank(イギリス)
- トッテナム・ホットスパー:AIA(香港)
- ウルバーハンプトン・ワンダラーズ:AstroPay(イギリス)
航空会社が胸スポンサーのプレミアクラブ
- マンチェスター・シティ:エティハド航空 (アラブ首長国連邦)
- アーセナル:エミレーツ航空(アラブ首長国連邦)
自動車関連企業が胸スポンサーのプレミアクラブ
- クリスタル・パレス:cinch (イギリス)
- アストン・ビラ:Cazoo(イギリス)
通信業が胸スポンサーのプレミアクラブ
- チェルシー:Three UK(イギリス)
インターネット証券取引業が胸スポンサーのプレミアクラブ
- レスター・シティ:FBS Markets(ベリーズ)
IT関連企業が胸スポンサーのプレミアクラブ
- マンチェスター・ユナイテッド:TeamViewer(ドイツ)
チャリティー団体が胸スポンサーのプレミアクラブ
- ノッティンガム・フォレスト:UNHCR(スイス)

ギャンブル関連企業とクラブ財政
この調査結果に対する世間の反応の中には「選手がギャンブル関連企業のユニフォームを着ているのは好きではないが、これ(ギャンブル関連スポンサー禁止令)によって、そもそも少ない収入源が更に制限されると、クラブの経済状況が悪化するだろう」という意見もある。
近年トップ5、6にランクされているマンチェスター・シティやアーセナルなどのクラブは、ギャンブル関連企業とはスポンサー契約せず、他業種とタッグを組む傾向にある。そこから見えてくるのは、やはり「クラブ資産の差」だ。大方の世論通り、財政面が厳しいクラブは、高収益のギャンブル関連スポンサーに支えられているのも事実。今後それらのスポンサーと契約を終了し、新たに別業種と契約を結んだ場合、これまでと同等の収入を得るのは至難の業だろう。
「ギャンブル関連スポンサー禁止令」に至る背景の根本には、英国政府の「ギャンブル法改正計画」がある。その動きの中で再注目されたのが「サッカー選手のロールモデル化」だ。

ユニフォームに相応しい企業とは?
今後、ギャンブル関連スポンサーの代わりに地域クラブを支える期待の星として、ロールモデルである選手たちが着用するユニフォームには、一体どんなスポンサーが相応しいのだろう。個人的には、各クラブと同じ拠点である地元企業が相応しいと考えている。
過去の事例をあげると、プレミアリーグ創設時の1992/93シーズン、ニューカッスル・ユナイテッドのユニフォームには、クラブの本拠地ニューカッスル・アポン・タインで有名な「ニューカッスル・ブラウンエール」というビールの醸造所がスポンサー契約を結んでいた。胸に青い星が配されたそのユニフォームを、当時のクラブサポーターは愛着を持って「ブルースター」と呼び、現在でも非常に人気の高いレトロシャツとなっている。
ギャンブル関連スポンサーのような国際的大企業と地元企業を比較すると、資本の部分で雲泥の差があることは事実。だが、地元企業にしかできないフットワークの軽さを利点として、様々なアイデアで資金調達を行うことは不可能ではないはずだ。また、地元企業だからこそ、サポーターや選手達との距離感を縮め、強固な信頼関係を築き上げることも期待できる。
あくまでも理想だが、例えて言うなら日本における地産地消の様なスタイルで、プレミアリーグを地元の人々により一層楽しんでもらいたい。そのために、地元企業が地元クラブを支え育てることが出来たら最高だ。サッカークラブのユニフォームには、やはり、それぞれの地元企業スポンサーが相応しいのかもしれない。