10月15日に開催されたYBCルヴァンカップ2023(ルヴァン杯)の準決勝第2戦。埼玉スタジアム2022では浦和レッズVS横浜F・マリノス(2-0)、豊田スタジアムでは名古屋グランパスVSアビスパ福岡(0-1)の試合が行われ、それぞれ浦和と福岡が決勝に駒を進めた。
11月4日に国立競技場(東京)で開催される決勝戦で、2016年以来7年振りにルヴァン杯での優勝を目指す浦和と対戦する福岡。ここでは、初のタイトル獲得に向けて邁進する福岡が決勝進出を決めた試合で見せたチーム状況と、これまでの苦難の道のりを紹介しよう。

ついに解き放たれた長年の呪縛
福岡の古参サポーターにとって、そしてFWウェリントン本人にとってもずっと忘れられない苦い記憶がある。2017年12月3日に行われたJ1昇格プレーオフの決勝戦。当時J2リーグで3位だった名古屋と4位福岡の試合は、奇しくも今回(ルヴァン杯準決勝第2戦)と同じ豊田スタジアムで開催された。この試合にはFWウェリントンやDF亀川諒史のほか、現在アーセナル(イングランド1部)で活躍する日本代表DF冨安健洋らがスタメンに名を連ね、昇格を目指し懸命に攻撃を仕掛けた。
後半13分、右からのクロスにウェリントンが頭で合わせネットを揺らしたが、これがオフサイドの判定を受ける。改めて確認するとオンサイドにも見えるのだが、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)がなかった当時、試合はスコアレスドローで終わり名古屋がJ1昇格を手にした。
ウェリントンはその後、ヴィッセル神戸や湘南ベルマーレなどを経て今2023シーズンから福岡に復帰。明治安田生命J1リーグ第27節の名古屋戦で途中出場し決勝点を挙げ、1-0でチームを勝利に導いた姿は、名古屋戦への苦手意識を克服したように見えた。さらに今回、ルヴァン杯のタイトルが懸かった重要なトーナメント戦で見事な決勝ゴールを決めたウェリントンは試合後「6年前から残っていたものが解消できた」と語り、苦い記憶との決別を宣言した。

全員で勝ち抜いた大舞台
10月8日の天皇杯準決勝(川崎フロンターレ戦、2-4)以降、8日間で3試合を戦った福岡。長谷部茂利監督は川崎戦から中2日で迎えたルヴァン杯準決勝第1戦では10人、さらに中3日で開催された第2戦では5人の選手を入れ替えた。
試合開始早々5分でコーナーキックを得た福岡は、MF紺野和也がゴール前に上げたボールを三國と名古屋のGKランゲラックが競り合い、最後はウェリントンがゴール奥へと蹴り込んで先制に成功。その後、21分には名古屋のFW永井謙佑もネットを揺らしたが、これがわずかにオフサイドとなり得点ならず。53分にもFWキャスパーユンカーがペナルティエリア内で倒れPKとなるが、VARの介入でノーファウルの判定となり名古屋からチャンスが遠ざかる。終盤、福岡は名古屋に攻め込まれる時間帯が増えたものの、身体を張った持ち前の守備とGK永石拓海のビッグセーブで相手の得点を許さなかった。
試合後、福岡の選手たちが自身のユニフォームを脱ぎ、ベンチ入りしていない選手のユニフォームを着用するシーンがあった。怪我で離脱しているFW佐藤凌我、FWルキアン、DF井上聖也らのほか、ベンチ入りできない選手は何人もいる。彼らのユニフォームを着用することで、この大舞台を全員で戦っていることを改めて示したのだ。

総力戦でクラブ初タイトルへ
福岡が名古屋を下したこの日、もう一方の準決勝第2戦では浦和が横浜FMに2-0で勝利。このカードの第1戦では横浜FMが1-0で浦和を下したが、2試合の合計によって勝敗がジャッジされるため2-1で浦和が決勝進出を決めた。
2022シーズンのチャンピオンズリーグ(ACL)でアジア王者となった浦和は、J1リーグはもちろん、天皇杯やルヴァン杯でも優勝経験があり、3大タイトル常連の強豪だ。2023シーズンのJ1では1試合平均約29,000人を集める人気クラブでもあり、1試合の平均集客が約9,000人の福岡とは大きな差がある。
しかし、同じ九州勢として過去に環境面の厳しさを乗り越えたクラブがある。2008年のルヴァン杯(当時はナビスコ杯)決勝で、クラブ初のタイトルを目指した大分トリニータだ。東京までのアクセスは福岡以上に難しい大分だが、約10,000人ものサポーターがさまざまな手段で国立霞ヶ丘競技場陸上競技場(旧国立競技場)まで応援に駆け付けた。大歓声の後押しを得た大分は2-0で清水エスパルスに勝利し、3大タイトルをひとつも獲得したことのなかった九州勢の中で、初めてビッグタイトルを手にした。
現在はJ2所属の大分だが、ユニフォームの胸にあるエンブレムの上には星がひとつ輝いている。これがまさにビッグタイトルを獲得した証であり、名誉あるチームの歴史を示している。大分のルヴァン杯優勝から15年。福岡の決勝進出で、優勝カップが久し振りに関門海峡を越えるチャンスが到来している。それを実現するためにも、当時の大分と同じかそれ以上の歓声が必要不可欠だ。勝てば1996年のJリーグ参入以降初のタイトル獲得となり、クラブにとって1つの集大成となるだけに、サポーターも含めた総力戦で国立競技場に乗り込む福岡。憧れの星を手に入れることができるのか、11月4日の決勝戦に注目だ。