2024明治安田J1リーグ第23節の計10試合が、7月13日と14日に各地で行われた。湘南ベルマーレは14日、本拠地レモンガススタジアム平塚でジュビロ磐田と対戦。
最終スコア5-0で勝利している。

直近の公式戦3連勝と勢いづいている湘南。依然としてJ2リーグ降格圏の18位に沈んでいるものの、J1残留圏内にあたる17位サガン鳥栖との勝ち点差を“1”に縮めた。

直近3試合で9ゴールと、湘南の攻撃が威力を発揮している要因は何か。ここでは大勝の磐田戦を振り返るとともに、この点を論評していく。

湘南ベルマーレが整えたポゼッションサッカーの土台。大勝の磐田戦で見えた進化とは

湘南vs磐田:試合展開

キックオフ直後から、基本布陣[3-1-4-2]の湘南が攻め込む。安定感のあるボール保持で、磐田の[4-4-2]の守備隊形を崩していった。

迎えた前半16分、湘南FWルキアンが敵陣ペナルティエリア内で味方FW鈴木章斗のパスを受けると、磐田DFリカルド・グラッサに上半身を掴まれ転倒。この時点で小屋幸栄主審の笛は鳴らなかったが、すかさずビデオ・アシスタントレフェリー(VAR)が介入。オンフィールド・レビュー(※)を経て湘南にPKが与えられたうえ、決定的な得点機会を反則で阻止したグラッサにはレッドカードが提示された。

このPKをルキアンが物にし、湘南が先制する。ホームチームはその後、グラッサの退場で10人となった磐田を圧倒した。

前半38分、磐田のジャーメイン良とマテウス・ペイショットの両FWが自陣で速攻の起点となろうとするも、これを湘南MF田中聡とDF髙橋直也が阻止。
敵陣でボールを奪った髙橋がペナルティエリア手前まで前進しラストパスを繰り出すと、これを受けたMF池田昌生が同エリア内でシュートを放ち、湘南に追加点をもたらした。

同44分には、湘南MF鈴木雄斗(右ウイングバック)から敵陣左サイドへパスワークが展開される。MF鈴木淳之介とのパス交換からDF畑大雅(左ウイングバック)が低弾道クロスを繰り出すと、これにルキアンが足で合わせゴールゲット。前半だけで3得点を挙げた湘南が、勝利をほぼ手中に収めた。

後半も攻撃の手を緩めなかった湘南は、着実に得点を重ねる。同7分、敵陣でのフリーキック直後の2次攻撃から湘南DFキム・ミンテがヘディングを行うと、このボールを磐田GK杉本光希が大きく弾けず。こぼれ球をルキアンが押し込み、ハットトリック(1試合3得点)を達成した。

同30分には、途中出場のFW根本凌が鈴木雄斗の低弾道クロスに合わせ、J1リーグでの初ゴールをゲット。左膝前十字靱帯断裂という大怪我を乗り越え、今夏に戦列復帰したばかりの24歳FWが、大勝劇に花を添えている。

(※)ビデオ・アシスタントレフェリーの提案をもとに、主審が自らリプレイ映像を見て最終の判定を下すこと。

湘南ベルマーレが整えたポゼッションサッカーの土台。大勝の磐田戦で見えた進化とは

改善された湘南の攻撃配置

退場者を出した磐田を完膚なきまでに打ちのめした湘南。PKによるルキアンの先制ゴールを含め、この日の5得点はグラッサ退場後に生まれたものだが、11人同士の戦いだった前半開始からの15分間に関しても良い攻撃を繰り出せていた。

今季序盤と比べ改善が見られたのは、ビルドアップ(GKや最終ラインからのパス回し)の際の3センターバックの立ち位置だ。
鈴木淳之介、キム、髙橋による3バックは概ねペナルティエリアの横幅に収まる立ち位置をとり、中央とサイドどちらにもパスを出せる状態を維持。これによりパスコースを限定しきれなかった磐田陣営の守備の出足は遅れていた。

最終スコア1-2で敗れた第17節ガンバ大阪戦では、3センターバックの左右を務めたDF大野和成と鈴木雄斗がタッチライン際へ開きすぎてしまい、パスコースが減る場面がちらほら。湘南が自陣でボールを回収され、G大阪のFW宇佐美貴史に先制ゴールを奪われた前半29分のシーンがこの典型例だ。

湘南ベルマーレが整えたポゼッションサッカーの土台。大勝の磐田戦で見えた進化とは
湘南GKソン・ボムグンがペナルティエリアでボールを保持したこの場面では、右センターバックの鈴木雄斗が自陣後方タッチライン際に立ったため、G大阪のFWウェルトン(左サイドハーフ)に捕捉されている。ここに立つ鈴木雄斗へパスが繋がったとしても、すぐさまウェルトンのプレスに晒されるため、その後パスが繋がる可能性は低かっただろう。

これに加え、この場面では同じくセンターバックの鈴木淳之介と大野の距離も開きすぎていたため、ボールを失った直後の守備がしにくい状態に。ソンの縦パスをG大阪MF鈴木徳真にカットされたうえ、同クラブFW山下諒也にラストパスを繰り出されると、これを受けた宇佐美への鈴木淳之介の寄せが案の定間に合わなかった。

3センターバックの攻撃配置の悪さが湘南の長きにわたる課題だったが、7月以降これが改善傾向に。今回の磐田戦でも、3センターバックが概ねペナルティエリアの横幅から出ない立ち位置をとり、外側と内側(左右)どちらにもパスを出せる状況を作れていた。

ウイングバックにボールが渡り、相手を自陣に釘付けにした際は、左右のセンターバックがウイングバックをすかさずサポート。ウイングバックの近く、且つ斜め後方に左右のセンターバックが移動することで、パスコースに困った際のボールの逃がしどころとして機能した。


この日3バックの左右を務めた髙橋と鈴木淳之介が前述の立ち位置をとり続けたことで、湘南は波状攻撃が可能に。この日の湘南の大勝は、彼らによってもたらされた。

湘南ベルマーレが整えたポゼッションサッカーの土台。大勝の磐田戦で見えた進化とは

リスク覚悟の攻撃配置に

池田と茨田陽生の両MF(2インサイドハーフ)が早いタイミングで相手最終ラインと中盤の間へ立ち位置を移すため、湘南の攻撃配置は現状[3-1-6]に近い形となっている。6人のファーストラインを相手に掻い潜られた場合、3バックと中盤の底を務める田中の守備の負担が増大するが、この点に関しては各選手の素早い攻守の切り替えで乗り切っている。速攻を浴びるリスクは百も承知。敵陣でのボール即時奪回でチャンスを量産しようとする強気の姿勢が、湘南の選手たちから窺えた。ポゼッションサッカー(※)の土台を整えた湘南が、J1残留やその先の上位進出への手応えを掴みつつある。

(※)マイボールの時間を長くすることで、試合の主導権を握るスタイル。
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