パリ2024オリンピック(パリ五輪)のサッカー女子グループステージ第3節が、現地時間7月31日に行われた。グループCのなでしこジャパンこと日本女子代表は、同組のナイジェリア女子代表と対戦。
最終スコア3-1で勝利し、グループステージ突破ならびに準々決勝進出を決めた。

なでしこジャパンが前半のうちに3ゴールを挙げ、試合を掌握できた要因は何か。また、8月3日の準々決勝(アメリカ戦)に向けて何を改善すべきか。ここではなでしこジャパンとナイジェリアの計4ゴールが決まった前半に着目し、この2点について論評していく。

守屋、北川のINAC神戸コンビが躍動。なでしこJパリ五輪GS突破の立役者に

キックオフ直後に迎えたピンチ

なでしこジャパンの池田太監督は、第2節ブラジル戦と同じく[3-4-2-1]の基本布陣を採用。[4-1-2-3]の初期配置を軸にパスを回すナイジェリアに対し、なでしこジャパンはFW田中美南を起点とするハイプレスを仕掛けた。

キックオフ直後、なでしこジャパンがナイジェリアのパスワークを右サイド(相手の左サイド)へ追い込んだものの、MF長谷川唯が相手MFジェニファー・エチェギニからボールを奪いきれず。これに加え、この日右ウイングバックを務めたDF守屋都弥が中盤へ降りたMFラシーダット・アジバデ(左ウイングFW)のマークについたため、自身の背後ががら空きに。持ち前のスピードで長谷川を置き去りにしたエチェギニと、守屋を釣り出したアジバデの好連係により、なでしこジャパンは右サイドを突破された。

この場面ではエチェギニを長谷川が追い続けるのか、それとも守屋にマークを受け渡すのかが曖昧に。準々決勝に向けた改善点が早速見つかったワンシーンだった。

守屋、北川のINAC神戸コンビが躍動。なでしこJパリ五輪GS突破の立役者に

的確だった守屋と北川の立ち位置

最終スコア1-2で敗れた第1節スペイン戦で、[4-4-2]と[3-4-2-1]の2つの布陣を使い分けたなでしこジャパン。最終ラインから丁寧にパスを繋ぐ姿勢が窺えたものの、サイドバックやウイングバックが自陣後方タッチライン際でボールを受ける場面がしばしば。ゆえに自陣後方からのパス回し(ビルドアップ)が手詰まりになっていた。


ウイングバックやサイドバックがこの位置でボールを受けた場合、自身の傍にはタッチラインがあるため、パスを出せる角度が180度方向に限られる。これと同時に相手サイドハーフに縦のパスコースを塞がれると、ここからパスを繋ぐのは非常に難しくなる。スペイン戦ではまさにこの状況に陥り、なでしこジャパンは攻撃のリズムを掴めなかった。

逆転勝利を収めた第2節ブラジル戦(2-1)ではロングボールを多用し、自陣でボールを失うリスクを回避。丁寧にパスを回すシーンはあまりなかったが、今回のナイジェリア戦ではスペイン戦と同じような戦い方へ戻した。

ナイジェリア戦でウイングバックを務めたのは、守屋とDF北川ひかる。この2人は現所属クラブINAC神戸レオネッサでもウイングバックを務めており、守屋が右、北川は左サイドに配置されている。この2人が所属クラブと同じくウイングバック、且つ守屋が右サイドで北川が左サイドという点も変わらなかったため、なでしこジャパンの攻撃配置に違和感が無くなった。

この試合で物を言ったのは、なでしこジャパンの3センターバック(高橋はな、熊谷紗希、石川璃音の3DF)がボールを保持した際の、守屋と北川の立ち位置。この両ウイングバックが基本的に相手ウイングFWとサイドバックの中間地点に立ったため、ナイジェリア陣営としてはマークの受け渡しがしづらい状況に。これにより守屋と北川がフリーでボールを受ける機会が増えたほか、3センターバックとしては外側と内側(ウイングバック方面とボランチ方面)どちらにもパスを出せる状態となり、攻撃の選択肢自体も増えている。ゆえになでしこジャパンのサイド攻撃の威力が増した。


2023/24シーズンより指揮を執るジョルディ・フェロン監督のもとで、INAC神戸は3バックを基調とするパスサッカーを標榜・実践。各選手がどこに立てば、チーム全体のパスコースが増えるのか。ウイングバックで起用されている守屋と北川が、これを1シーズンかけて体得したふしがある。所属クラブでの経験や学びが、オリンピックのグループステージ突破がかかる一戦で実を結んだ。

守屋、北川のINAC神戸コンビが躍動。なでしこJパリ五輪GS突破の立役者に

優勢のなか生まれた2得点

長谷川がセンターサークル付近でボールを保持した前半22分、タッチライン際に北川、その内側にFW植木理子が立っていたため、ナイジェリア最終ラインとしてはパスコースの予測が難しい状況となる。撤退守備しか術がないナイジェリアを尻目に長谷川が植木への縦パスを成功させると、ペナルティエリア左隅へ侵入した後者が同エリア中央へラストパスを送る。このボールにゴール前へ飛び込んだFW浜野まいかが合わせ、なでしこジャパンに先制ゴールをもたらした。

前半31分には、センターバック高橋から相手最終ラインと中盤の間に立っていた田中にパスが繋がる。同じく相手最終ラインと中盤の間に立っていた守屋が田中のワンタッチパスを受けると、右サイドからゴール前へクロスボールを供給。これに反応した植木のヘディングシュートはクロスバーに阻まれるも、こぼれ球を田中が押し込み、今大会初ゴールを挙げた(得点は前半32分)。

守屋、北川のINAC神戸コンビが躍動。なでしこJパリ五輪GS突破の立役者に

なでしこを救った北川の芸術的FK

前半42分、味方のサイドチェンジのボールを捌こうとしたDF石川のパスが不正確になり、同選手のパスミスからナイジェリアの速攻が始まる。ペナルティエリア手前で細かいパス回しを浴びると、エチェギニのミドルシュートがゴールネットに突き刺さり、なでしこジャパンは1点差に詰め寄られた。

グループステージ突破に向け負けが許されないなでしこジャパンに暗雲が漂ったものの、北川がこの悪い流れを払拭する。
迎えた前半アディショナルタイム、なでしこジャパンが敵陣ペナルティアーク手前でフリーキックを得ると、キッカーを務めたのが左利きの北川。カーブを描いた左足シュートが右のサイドネットあたりに突き刺さり、なでしこジャパンのリードが再び2点に広がった。

守屋と北川の躍動で攻撃のリズムを掴んだなでしこジャパンが、前半に訪れたチャンスを逃さず。パリ五輪3試合目にして、ゲーム運びに安定感が増してきた。
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