2024明治安田J1リーグ第25節の計9試合が、8月7日に各地で行われた。7月の公式戦計4試合全勝の湘南ベルマーレは、本拠地レモンガススタジアム平塚でアビスパ福岡と対戦。
最終スコア1-1で引き分けている。

後半16分のFW鈴木章斗の得点で先制したものの、アディショナルタイムでの失点で勝利を逃した湘南。今節の結果により、J2降格圏(18位から20位)との勝ち点差1の17位にリーグ順位を落とした。

湘南が勝利を逃した原因は何か。ここでは第25節福岡戦を振り返るとともに、この点を中心に論評する。

湘南ベルマーレが福岡に痛恨ドロー。J1残留への課題は良い攻撃配置の持続

的確だった湘南MF陣の立ち位置

キックオフ直後の両チームの基本布陣は、湘南が[3-1-4-2]で福岡が[3-4-2-1]。福岡は1トップに据えられたFWウェリントン、及びFW佐藤凌我とMF紺野和也の2シャドーの計3人で、湘南の中央のパスコースを遮断しようとする。これに対し湘南MF田中聡や、茨田陽生と池田昌生の両MF(2インサイドハーフ)が当意即妙に立ち位置を変えることで、パスコースを確保。これにより特に前半は湘南のパス回しが円滑だった。

前半8分の湘南の攻撃シーンでは、茨田が紺野の斜め後ろに立ち、味方DF大野和成(センターバック)からの縦パスを受けている。湘南インサイドハーフの的確なポジショニングが光った場面だった。

中盤の底を務めた田中聡も、主に相手FWウェリントンの斜め後ろから顔を出し、パスコースを探す味方3センターバックをサポート。前半10分には池田が相手FW佐藤凌我の背後で味方DFキム・ミンテの縦パスを引き出した。


7月10日の天皇杯3回戦(東京ヴェルディ戦)では3センターバックと2インサイドハーフ間の距離が開き、[3-1-6]に近い攻撃配置となる場面が多かったが、試合を重ねるごとに距離感が良くなっている。湘南MF陣が相手チームの守備のファーストライン(前線)の斜め後ろで、味方センターバックからのパスを引き出す原則が浸透しつつあるのも良い傾向だ。

湘南ベルマーレが福岡に痛恨ドロー。J1残留への課題は良い攻撃配置の持続

両WBを囮に

この試合、湘南はDF吉田新とMF鈴木雄斗の両ウイングバックが味方センターバック付近へ降りる場面が多かったが、ここへの横パスではなく、2インサイドハーフへの縦パスや最前線へのロングパスを主に選択。下がってボールを受けようとするウイングバックを囮(おとり)とする攻撃が、特に試合序盤は効果的だった。

ただ、時間の経過とともにセンターバックから自陣へ降りたウイングバックへの横パスが増え、福岡の最前線からの守備を掻い潜れなくなったことは改善すべき点のひとつだろう。前半24分には、キムの横パスを自陣後方タッチライン際で受けた吉田が相手DF小田逸稀のプレスを浴び、ボールを奪われる。小田のクロスに反応した佐藤凌我のヘディングシュートが枠外に逸れたため事なきを得たが、あわや失点の場面だった。

ウイングバックがこの位置でボールを受けた場合、自身の傍にはタッチラインがあるため、必然的に180度方向にしかパスを出せなくなる。これに加え相手サイドハーフやウイングバックのプレスを浴びれば、パスコースは更に無くなる。味方センターバック付近へ降りたウイングバックには極力パスを出さず、基本的に囮として利用するのが得策だろう。

湘南ベルマーレが福岡に痛恨ドロー。J1残留への課題は良い攻撃配置の持続

効果的だった茨田の立ち位置

後半も湘南のビルドアップ(GKや最終ラインからのパス回し)のやり方は大きく変わらず。降りてくるウイングバックが囮となり、センターバックからの縦パスやロングパスが攻撃の初手となっていた。

攻め上がる左ウイングバック吉田と味方センターバックの間でボールを受けようとする茨田の立ち位置も絶妙で、同選手が湘南最終ラインと前線を繋ぐ役割を度々担っている。この試合、攻撃が自陣後方からの縦パスやロングパスに偏っている印象があったため、欲を言えばこの位置に立つ茨田を効果的に使った攻撃をもっと見たかった。


湘南ベルマーレが福岡に痛恨ドロー。J1残留への課題は良い攻撃配置の持続

茨田、池田の交代で攻撃停滞

福岡の速攻を何度か浴びたなかで、湘南がワンチャンスを物にする。後半16分、DFキムがセンターサークル内からボールを運び、ロングシュートで相手GK村上昌謙を脅かす。村上が弾いたボールを湘南FW福田翔生が回収すると、ペナルティエリア内に侵入した茨田へパスを送り、同選手がシュートを放つ。再び村上にボールを弾かれたものの、こぼれ球を鈴木章斗が押し込んだ。

先制した湘南がこのまま試合を掌握するかと思われたが、茨田と池田がベンチに下がり、MF奥野耕平とFWルキアンが投入された後半26分を境に雲行きが怪しくなった。

この交代から湘南の基本布陣が[3-4-2-1]へ変わり、田中と奥野が2ボランチとして配置されたが、この2人のビルドアップ時の立ち位置や役割が不明瞭に。湘南の攻撃自体も、最前線へのアバウトなロングパスが主となり、福岡にボールを回収されたうえ攻撃機会を多く与えてしまった。

湘南は撤退守備で逃げ切りを図ったものの、後半アディショナルタイム4分のコーナーキックから相手FWシャハブ・ザヘディのヘディングシュートを浴び、1-1の同点とされる。途中出場のMF北島祐二による正確なキックと、湘南が敷いたゾーンディフェンス(※)の外側からゴール前へ侵入したザヘディの好プレーがこのゴールに繋がった。

降りてくるウイングバックを囮とする攻撃や、茨田と池田を活かしたビルドアップはこの試合でも概ねできていただけに、この2人がいない状況下での攻撃配置を早急に構築したいところ。良い攻撃配置の持続。これこそ、湘南がJ1残留のために突き詰めるべき課題だ。


(※)各選手が自分の担当区域に入ってきた相手選手をマークする守備戦術
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