2023/24シーズンの日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ)と、アジア最強の女子サッカークラブを決めるAFC女子クラブチャンピオンシップ招待トーナメントを制した三菱重工浦和レッズレディース。同クラブは8月25日、2024/25シーズンに向けアルビレックス新潟レディースとトレーニングマッチを行った。


この試合は埼玉スタジアム2002の第3グラウンドにて行われ、浦和は最終スコア2-5で敗北。攻守両面で課題が残るパフォーマンスだった。

ここでは今回のトレーニングマッチでお披露目となった、浦和の基本布陣に言及。現地取材で得た同クラブMF栗島朱里と伊藤美紀、DF長嶋玲奈の試合後コメントも併せて紹介したい。

なお、今回のトレーニングマッチは45分ハーフで実施され、得点経過は以下の通り(新潟Lの得点者・出場選手は公表不可)。

  • 26分 浦和(MF高塚映奈)
  • 35分 新潟L
  • 66分 新潟L
  • 75分 新潟L
  • 79分 新潟L
  • 83分 浦和(MF高塚映奈)
  • 90+1分 新潟L
アジア女王浦和RLの新シーズンは前途多難。新潟Lとのトレーニングマッチで課題噴出

左サイドバック水谷が負傷離脱

この試合における浦和の基本布陣は、昨季と同じく[4-2-3-1]。昨季左サイドバックを務めたMF水谷有希が、8月8日に右膝の前十字靭帯を損傷。全治は約8か月の見込みで、2024/25シーズン序盤や中盤戦での戦列復帰が絶望的となった。

水谷の負傷離脱を受け、この試合で左サイドバックに抜擢されたのは23歳のDF後藤若葉。左サイドハーフを務めたMF伊藤美紀との好連係が光った。

アジア女王浦和RLの新シーズンは前途多難。新潟Lとのトレーニングマッチで課題噴出

「若葉もビルドアップできる」

伊藤はトレーニングマッチ後の囲み取材で、筆者の質問に回答。後藤との連係への手応えを口にしている。

ー昨シーズンは左サイドバック水谷選手と、左サイドハーフ伊藤選手の立ち位置の連係がとても良かったと思います。今日は後藤選手が伊藤選手の後ろでプレーしましたが、連係はいかがでしたか。


「若葉もビルドアップできますし、ふたりでワンツーパスをしたりとか、コンビネーションの部分はうまくできていると思います。守備の部分でも、彼女は対人の強さや足の速さをストロングポイントとして持っているので、声をかけながら(守備を)できたかなと思います」

ー昨シーズン、ビルドアップ(GKや最終ラインからのパス回し)のときに伊藤選手と左サイドバック水谷選手が同じレーン(縦列)で重ならないようにしていると仰っていましたね。それは今シーズンも変わらずでしょうか。

「そうですね。(サイドバックに)誰が入ってもそれは変わらずですし、若葉も積極的に(相手最終ラインの)背後を狙っていました。運動量もあるので、彼女の良さを活かしながら攻撃できたら良いですね」

昨季浦和の左サイドからの攻撃を彩ったのは、他ならぬ水谷と伊藤。この2人の持ち味は快足や鋭いドリブルではなく、的確な立ち位置に基づく細かいパスワークだ。

伊藤がタッチライン際に立ったら、水谷がその内側へポジションを移す。水谷がタッチライン際に立ったら、伊藤が内側へというように、サイドバックとサイドハーフが縦一列で並ばないよう常に工夫が施されている。これにより相手サイドハーフやサイドバックがパスコースを予測しにくく、守備の的を絞りづらくなっていた。

また、伊藤は相手サイドハーフやボランチの背後(死角)から突如現れ、味方のパスを受けるスキルが高い。それゆえ密集地帯でも簡単にボールを失わない。
WEリーグ屈指の快足MF遠藤優と、同じく俊足のFW清家貴子(現ブライトン・アンド・ホーブ・アルビオン女子)が同居する右サイドは昨季の浦和の強力な武器であり、これを封じるべく多くの対戦相手が最終ラインや中盤ラインを下げたが、水谷と伊藤から繰り出される遅攻で守備ブロックに穴をあけられてしまっている。対戦相手としては厄介だった。

水谷の負傷離脱で左サイドのコンビ変更を余儀なくされたが、今回のトレーニングマッチで伊藤と後藤が同じレーンで重なる場面はほぼ無し。これは来たる2024/25シーズンに向け好感が持てる要素だ。

アジア女王浦和RLの新シーズンは前途多難。新潟Lとのトレーニングマッチで課題噴出

「疲れていても出来ることはある」

最前線からの守備(ハイプレス)で相手のパス回しを片方のサイドへ追いやり、栗島朱里と柴田華絵の両MF(2ボランチ)もボールサイドへ移動。この守備原則は昨季と変わらずで、この試合の前半でもハイプレスからのボール奪取でチャンスを作れていた。

問題が生じたのがこの試合の後半で、選手個々の疲弊によりハイプレスの強度が低下。必然的に最終ラインや中盤ラインが下がったうえ、撤退守備時のマークも散漫に。特に相手ボランチを誰が捕捉するのかが、時間の経過とともに曖昧になっていった。

MF栗島も筆者の取材に応じ、この試合で浮き彫りになった守備面の課題に言及している。現時点では昨季の守備コンセプトを変えずに、これを磨き上げる方針のようだ。

ー相手のビルドアップを片方のサイドへ追い込み、ボランチの栗島選手もボールサイドへスライドする。この守備のコンセプトは昨シーズンから変わっていないように見受けられました。
(今のところ)守備のやり方は変わらずでしょうか。


「もちろん昨シーズンからの積み重ねや引き続き(継続)なので、何かを大きく変えることはありません。守備のやり方はそのままという感じです」

ー前半はその守備が機能しているように見えました。栗島選手はどう感じましたか。

「前半は自分たちの感覚としても良かったですけど、後半は疲労とかがあったので、そこは課題ですね」

ー疲労でハイプレスの強度が落ちたときの、具体的な解決策は見つかっていますか。

「チームとして何かやっている(新しいことに取り組んでいる)わけではないです。シンプルに、自分も含めてみんながもっと走る。崩れていると思う場所に早く気づいてポジションをとるですとか、疲れてきたなかでも出来ることは絶対にもっとあると思います。でも今日の後半に良い課題が出たので、引き続きやっていきたいです」

アジア女王浦和RLの新シーズンは前途多難。新潟Lとのトレーニングマッチで課題噴出

ビルドアップは発展途上

昨シーズンのWEリーグで得点女王と最優秀選手賞に輝いた清家が、今夏にブライトン・アンド・ホーブ・アルビオン女子へ移籍。快足の同選手へロングパスを送るという攻め手が使えなくなった今、伊藤と後藤の左サイドコンビ以外に新たな攻撃パターンを編み出せるのか。筆者はこうした視点で戦況を見守ったが、新たな攻め手の構築にはまだまだ時間がかかりそうだ。

この日は高橋はなと長嶋玲奈の両DF(2センターバック)が自陣ペナルティエリアの横幅いっぱいに広がり、ビルドアップの起点を担ったものの、これに連動して遠藤と後藤の両サイドバックが上がる場面があまり見られず。ゆえに浦和センターバックとタッチライン際に立つサイドバックが、新潟Lのプレスをもろに浴びる場面が散見された。


また、高橋と長嶋が自らボールを運び、新潟Lの中盤選手を釣り出す場面もほぼ無し。このため新潟Lの守備ブロックが崩れず、浦和のビルドアップが停滞していた。

筆者の取材に応じ、ビルドアップに関する自身やチーム全体の課題について語ってくれたのが、DF長嶋。この試合ではセンターバック高橋との距離感に問題があったようだ。

ー今日の試合のビルドアップで、特にこだわった点を教えてください。

「前半が始まってすぐの時間帯は、良い形で前線にボールを運べていたと思います。相手が前からかけてくる(前線から守備を仕掛けてくる)ことが分かっていたので、さっこさん(GK池田咲紀子)やセンターバックのはなと私で、相手の守備の1列目を越せるような配球を意識しました。チャンスがあれば、相手最終ラインの背後を自分からの一発(のパス)で狙っていたんですけど、今日はそういう場面をあまり作れませんでした。そこが反省点です」

ー試合終盤に、長嶋選手からの良いロングパスがありました。ご自身の感触はいかがですか。

「後半は疲れもあって、相手をパスでかわす場面が少なかったですね。ビルドアップの面でも自分のミスから失点しているので反省しています。
最後、はなが前に行って(試合終盤にDF高橋が前線へ上がり)パワープレーになったときの配球はよくできたと思います」

ービルドアップのときに、長嶋選手と高橋選手の2センターバック間が開いていました。あの配置にはどのような狙いがありましたか。

「ボランチ(栗島と柴田)がサイドに降りてきてくれたら、そちらのサイドで数的不利(浦和にとって数的優位)を作って相手を崩すというのを意識していたのですが、センターバックが開きすぎて、横パスを奪われたときに真ん中がスカスカで失点してしまいました。次はこうしたことがないように、はなが横に開くなら自分がもう少し絞って(ボールサイドに寄って)、ボールを奪われたときのリスクをちゃんと考えてプレーしたいです」

ー長嶋選手と高橋選手が横に開いたときに、サイドバック(遠藤と後藤)と同じような立ち位置になってしまっている印象を受けました。2センターバックが開くのであれば、サイドバックが攻め上がったほうが良いように感じたのですが、いかがでしょうか。

「そうですね。センターバックが開くのであればサイドバックを高い位置というふうにしたいんですけど、(センターバックが)開きすぎると失点のリスクがあるので、そこはしっかり状況判断しないといけないと思います」

アジア女王浦和RLの新シーズンは前途多難。新潟Lとのトレーニングマッチで課題噴出

栗島のコメントから窺えたジレンマ

長嶋のコメントを読み解くと、栗島と柴田(2ボランチ)のどちらかが自陣後方へ降りることを想定し、ビルドアップ時に2センターバックが横に開いている様子が窺える。昨季は右サイドバック遠藤とセンターバックの間へ栗島が降り、ビルドアップの起点に。これにより快足の遠藤の攻め上がりを促すとともに、右サイドハーフ清家をタッチライン際から内側へ移せる効果もあったが、栗島はこの位置取りを多用することに難色を示している。栗島自身が筆者とのやり取りのなかで、現状のジレンマを明かしてくれた。

ー昨シーズンと同じく、ビルドアップ時に栗島選手が味方センターバックとサイドバックの間へ降りていましたね。今日の試合では、そのときにサイドバックが高い位置をとらない場面があったのですが、栗島選手はどう感じていますか。


「この前の練習で、そこ(センターバックとサイドバック間)に降りてもあまり効果的でなかったですね。あと、昨シーズンは(清家)貴子がいたので、彼女と(遠藤)優を前に上げるという効果的な人の使い方ができたんですけど、(新シーズンから)サイドハーフが変わりました。そういうことを踏まえながら、(味方センターバックとサイドバック間へ)入ったほうが良い時とそうでない時の使い分けをちゃんとしようと思っていました。今日はそこに入ったところで(効果がない)と思ったので、入らないようにしていました」

長嶋と栗島のコメントを照らし合わせると、この試合ではセンターバックとボランチでプレーの意図が噛み合わなかった模様。この点の擦り合わせを新シーズンに向けする必要があるだろう。

WEリーグ3連覇と、昨季果たせなかったWEリーグカップと皇后杯優勝。そしてアジア最強の称号がかかる、AFC女子チャンピオンズリーグの制覇。これら全てを果たすには、前述の通り解決しなければならない課題が攻守両面であり、この難易度は高い。浦和にとって前途多難な2024/25シーズンとなりそうだ。
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