バロンドール(世界年間最優秀選手賞)で2010年に話題をさらった出来事があった。上位3選手が全て同じ育成組織の出身者だったのである。
リオネル・メッシ、アンドレス・イニエスタ、シャビ・エルナンデス。もちろんバルセロナの生え抜き選手だ。2009/10シーズンはバルセロナがラ・リーガで優勝し、2010年ワールドカップ南アフリカ大会ではスペイン代表が初優勝した。

当時のスペイン代表のプレースタイルは、まるでバルセロナの劣化版のようだった。その後、ジョゼップ・グアルディオラ監督などスペイン出身の多くの監督がヨーロッパの主要リーグに招へいされ、今日のサッカーの戦術のトレンドを形成しているといっても過言ではない。

グアルディオラ監督は12歳の頃からバルセロナでプレーし、その後に2軍に相当するバルセロナ・アトレティックやトップチームの監督として大成した。欧州サッカーのトレンドは世界中に波及するが、その源流はバルセロナの育成組織「ラ・マシア」にあった。

ラ・マシアの頂点に位置する先述のバルセロナ・アトレティックは、現地時間9月21日にプリメーラ・フェデラシオン(3部相当)でホームのエスタディ・ヨハン・クライフにてサモラと対戦し、1‐0で勝利した。この試合から、世界のサッカートレンドを生み出す秘密を垣間見てみよう。

世界のトレンドを生み出したバルサ育成組織ラ・マシアを尋ねて

屈強なフィジカルの相手に前半は五分五分

スタジアムの門をくぐると、隣接するバルセロナのトレーニング施設「シウタ・エスポルティバ・ジョアン・ガンペール」の壁にメッシ、イニエスタ、シャビが並んだ姿が描かれていた。

バルセロナ・アトレティックというチーム名は、あくまで育成に主眼を置くことを強調するために2010-11シーズンより「FCバルセロナB」に改変されたが、2022-23シーズンからまた元に戻り揺れが見られる。

所属選手は、主に10代後半~20代前半だ。プリメーラ・エキーポ(トップチーム)昇格を念頭に置いて若手選手で構成されているがその多くがプロ契約しており、試合会場に高級車に乗って来る者もいた。
主戦場のプリメーラ・フェデラシオンはプロリーグで、一概に比較はできないがレベル感はJ2あたりだろうか。

前半は小雨が降ったが、会場は全席に屋根があり観客は濡れる心配もなく威勢の良い声援を送る。ピッチが濡れており、身体が出来上がっている20代と30代が中心のサモラ選手のフィジカルに弾き飛ばされながらも善戦するバルサ。

11分にサモラ右サイドからの攻撃でキャプテンのカルロス・ラモス、ジョエル・プリエゴとつながりセルジオ・ニエトがシュート。バルサはスペインU19代表GKアンデル・アストララガが右に飛びコーナーキック(CK)に逃れる。そのCKのクロスもアストララガがキャッチした。

34分には、バルサはペナルティエリア外の正面からスペインU19代表FWビクトル・バルベラが右に出すと、DFチャビ・エスパルト(17歳)が右足シュートもゴール右に外れる。

試合は前半0-0で折り返した。

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後半はバルサの攻撃が輝き始める

日が暮れてきた後半は、照明の輝きが増すにつれてスペースが出来はじめ、次第にシステム【4-1-4-1】のバルサのパスが回るようになる。

62分にペナルティエリア外のやや右側で得たバルサのフリーキック(FK)を、ドイツU18代表MFノア・ダルビッチが素早くリスタートすると、MFルベン・ロペスが右サイド裏に走り込んでボールを受けて折り返す。するとゴール前でドミニカ共和国U23代表オスカル・ウレーニャがトラップし右足で落ち着いてゴール右に決めて先制した(1-0)。

追い上げをはかるサモラは64分に、右CKをホセ・カルロスが頭で合わせるも、わずかにポストの右に外れる。試合終盤にはバルサDFアレクシス・オルメドが、サモラFWピト・カマーチョとペナルティエリア内で交錯し倒すもノーファウルの判定。


90+6分に、バルサは左サイドのカウンター攻撃からカメルーンU23代表イバン・セドリックのパスを中央でロペスがシュート。しかしサモラGKがセーブし試合が終了した。

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ゲームの構成力はバルサが上手だが、デュエルはサモラが圧倒

やはり、パスワークはバルサの十八番だった。しかし、フィジカルに課題がみられた。

59分には空中に浮かび上がったボールに対して、バルサDFアルバロ・コルテスがサモラMFルイス・リバスと競り合って弾き飛ばされる。両者とも頭でボールを捉えたが、身長190cmあるコルテスは19歳でまだ身体の線が細く力負けした。コルテスは、87分には脚を痙れんしてゴール前で倒れこんだ。身体的には、まだ成長過程だ。

五分五分の競り合いでは、バルサの選手は軒並み当たり負けし、倒れ込んでいるシーンが目立った。この経験を乗り越えることで、たくましくなっていくだろう。

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主将ウナイ・エルナンデスはチャンスを量産

キャプテンのMFウナイ・エルナンデスは、同試合中多くの得点機に絡んだ。

15分に右サイドからゴール中央にドリブルし左足ミドルシュートもゴールならず。19分には、左サイドからゴール中央へドリブルし左足ミドルシュートもクロスバーの上に外れる。38分には、右サイドのダルビッチからのクロスをゴール目前で胸トラップも、相手が寄せてシュートできず。


40分には、バルサの絶妙なパスワークからエルナンデスが胸トラップで抜け出したかというシーン。サモラDFアドリアン・ボロが手をかけ反則かと思いきやノーファウル。ウレニャが抗議でイエローカードを受けた。

73分には、バルサ右サイド16歳のペドロ・フェルナンデスから中央エルナンデスにつながり、ドリブルで前進から右足シュートもクロスバーに当たる。

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アジアに造詣が深いアルベルト・サンチェス監督

バルサ・アトレティックの指揮官を務めるアルベルト・サンチェス監督は、中国(北京BSU/2018-2019/シニアコーチ)やクウェート(アル・カーディシーヤ/2019-2020/アシスタント)、サウジアラビア(アル・ファトフU20/2020-2021)でも指導経験があり、アジアに造詣が深い。

バルサでは2021年からユースチームを率いて、2022年からバルサ・アトレティックのアシスタントコーチを務め、今年7月監督に就任している。

バルサ・アトレティックを指揮した後にトップチームの監督に就任した例は、グアルディオラ監督(2007-2008バルサB、2008-2012トップチーム)やルイス・エンリケ監督(2008-2011バルサB、2014-2017トップチーム)など、多く見受けられる。

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クライフの理想に磨きをかけるバルサ

先述のバルサのトレーニング施設、シウタ・エスポルティバの壁には、ヨハン・クライフ(2016年没)の現役時代と監督時代の肖像と語録も見ることができる。

言わずとしれたサッカー史に残るオランダ代表の伝説的な人物だが、バルサの監督(1988-1996)としてはリーグ4連覇やUEFAチャンピオンズカップ優勝などの実績を残し、現在のバルサの成功につながる礎を築いた。

天才クライフが理想として掲げた「想像力あふれる攻撃的なプレースタイル」に、バルセロナは日々、磨きをかけている。
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