今年3月、Y.S.C.C.横浜(J3)の守護神として活躍していたGK児玉潤がJ1の北海道コンサドーレ札幌に移籍した。今季開幕直前、GK高木駿が左膝前十字靭帯断裂を負い長期離脱を余儀なくされた札幌の台所事情を踏まえると取り急ぎの緊急補強にも見えるが、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督のサッカーに欠かせない足元の技術(いわゆるビルドアップ能力)の高さなど、児玉の昨季パフォーマンスを札幌が高く評価していたからこそ実現した移籍でもある。


しかし札幌の絶対的守護神GK菅野孝憲の存在は大きく、児玉はリーグ戦未出場、カップ戦でも3試合のみ(天皇杯2試合、ルヴァン杯1試合)と出場機会は限られていた。それでも日々の準備を怠らず出番を待っていた児玉。プロへの道を諦めずに歩んできた児玉のサッカー人生に迫る。

GK児玉潤が悲願のJ1初出場!アマチュアからプロへ、苦難の軌跡とは

夢のJ1初出場

“その時”は突然訪れた。9月21日に行われた明治安田J1リーグ第31節、町田ゼルビアとの試合は0-0と緊迫した場面が続いていた。後半37分、町田FWミッチェル・デュークのヘディングシュートをセーブしようとした菅野がゴールポストに左手指をぶつけ負傷。これによりピッチに投入された児玉はJ1でリーグ戦初出場を遂げた。

首位の座をキープするためにも絶対勝利が必須な町田の猛攻は続いたが、児玉は92分に左サイドからFW相馬勇紀のインスイングのクロスを難なくキャッチ。97分にはDF林幸多郎のロングスローにデュークのヘディングシュート、99分にもMF仙頭啓矢がこぼれ球をダイレクトで前線に供給するも児玉が立ちはだかる。試合はスコアレスドローのまま終了し、互いに勝ち点1を分け合う形となった。途中出場ながら冷静なパンチングやセービングで完封に貢献した児玉。菅野の怪我の状態にもよるが、次節以降の先発起用も十分に考えられる活躍だった。

GK児玉潤が悲願のJ1初出場!アマチュアからプロへ、苦難の軌跡とは

別業種とサッカーの両立から悲願のJ1へ

高校時代に東京ヴェルディユースに所属していた児玉は、トップチーム昇格が叶わず桐蔭横浜大へ進学。卒業前になってもJクラブから声がかかることはなかった。
プロへの夢を追い続ける児玉は、日本フットボールリーグ(JFL)の横河武蔵野や中国サッカーリーグの福山シティを経て2023年にJ3のYS横浜へと渡るが、いずれもアマチュアでの契約だった。

アマチュア契約する選手の多くは、所属チームの親会社で社員として働きながらサッカーに励むケースが多い。児玉もその1人であり、横河武蔵野時代には夜間練習までの間、小学校の給食センターに勤務し、武蔵野市内の小学校7校約3,500人分の給食を作っていた。その後もイタリア料理店のホールや不動産会社の事務、老舗温泉旅館の調理補助、YS横浜のアマチュア時代にも日産スタジアム内にあるレストラン勤務など様々な仕事をしながらサッカーを続けてきた。今年1月、YS横浜との契約を更新した児玉はクラブの公式サイトで思いの丈をこのように綴っている。

「正直なことを言います。2024シーズンはJ1・J2でプレーしたかったのが本心ですし、ギリギリまで上のカテゴリーでプレーしたい気持ちがありました。しかし、年が明けても正式なオファーは無く、Y.S.C.Cでプレーすることを決めました。自分の挑戦を最後まで待ってくれたクラブのために、今シーズンY.S.C.C.の選手として戦うと決めたからには、強い覚悟を持ちクラブのために死に物狂いで全て出し尽くし戦うことを約束します。J2昇格、チームの歴史を変えるために人生を懸け戦います」

しかしその2か月後、新シーズンが始まって間もない中で札幌からオファーが届く。昨シーズンの活躍をみればYS横浜にとって児玉の流出は大きな痛手だが、それでもクラブが笑顔で背中を押し、児玉はJ1クラブ加入の夢を叶えた。

GK児玉潤が悲願のJ1初出場!アマチュアからプロへ、苦難の軌跡とは

憧れの存在からライバルへ

175cmの児玉は現在J1で最も身長が低いGKだ。
そんな児玉がずっと憧れていたのは、同じ東京ヴェルディユース出身で今ではチームメイトとなった菅野だ。身長179cmと上背はないものの、抜群のセービングセンスや反射神経を持ち、これまで所属した横浜FC、柏レイソル、京都サンガでも守護神としてゴールマウスを守ってきた菅野。今年40歳を迎えた“レジェンド”の背中を間近で見ながら、児玉も日々成長している。

8月21日に行われた天皇杯(JFA全日本サッカー選手権大会)ジェフユナイテッド千葉戦でも、多くの決定機を児玉がセーブ。相手MF品田愛斗に完璧な直接フリーキックを叩き込まれチームは0-1で敗れたが、児玉は試合後のインタビューで「セービングの部分に関しては本当に大きな収穫があったというか、普段の練習段階からこれまで意識してきたことをピッチの上でも出せたと思っている」とコメントしており、日々の練習の充実度が見受けられた。

これまで“憧れの存在”だった菅野が今ではスタメンの座を争う“ライバル”に。27歳、児玉潤のプロキャリアはまだ始まったばかりだ。

児玉潤プロフィール

  • ポジション:GK
  • 背番号:17 
  • 身長:175
  • 体重:70
  • 出生地:東京
Jリーグ通算出場数(リーグ戦)

  • 2023シーズン:YS横浜(37試合)
  • 2024シーズン:札幌(1試合)
編集部おすすめ